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006、脱出と追放




「……と、こんなとこにも宝箱があるか」


 パーティーが暗い顔でうつむく中、女は立ち上がり小部屋の中を調べていた。

 言う通り、隅の方に小ぶりな宝箱が一つある。


「あ。もしかすると、だけど……」


 女はブツブツ言いながら、宝箱を開けた。


「――え」


 その途端、女はおかしな声を上げる。


「ちょ、ちょっとちょっと……! 絶望すんのは早いかもよ!?」


 女はそうまくしたて、宝箱の中身を手にみんなを呼び集めた。


 それは、空色に輝くオルゴールのようなもの。


「これは、蒼穹の箱だよ。ダンジョンを脱出できる魔法のアイテムだ!」


「え!?」


「マジですかっ!?」


「嘘じゃなくって……?」


 パーティーは色めき立って、女の顔とオルゴールを交互に見る。


「もちろん、ホントだよ。ただ、これは……」


 女は何か言いかけたが、いきなり尻餅をつく。


 そして、そのまま顔から床に倒れ伏してしまった。


「……大丈夫だ、気を失ってるだけだ」


 みんながあわてる中、息を確認したリーダーが安堵した顔で言う。


「何かわからんけど、これで助かるね……!」


 レンジャーの水野が半泣きになって叫んだ。

 普段はあまり意識されないが、こんな時には妙に女らしい。


 紅一点らしいとも言うのだろうか?


「けど、この人何か言ってたけど」


「使ってみりゃわかるんじゃないの?」


 気楽に言うのはファイターの安藤だった。


 まだ中学生で最年少らしいとも言える軽率な反応。


「すぐにでも使いたいけど、また何かあったら困るしな」


 オルゴールを見ながら、思案顔のリーダー。


 と、不意に扉の外からミシミシと嫌な軋みが響いた。


「えっ!?」


 一斉に振り返ると、扉の隙間からニュルニュルと芋虫のようなものが蠢いている。


「スライムだ!」


 メイジの堀田が叫んだ通り、それは触手化したスライムの一部らしい。


 どうやら、スライムは追跡を諦めていないかったようだ。


「ど、ど、どうするんだよ!? 早く逃げないと……」


「リーダー! 早くそれ使って!」


 安藤と水野がそろってリーダーに怒鳴る。


「いや、わかった。ちょっと待て……」


 リーダーは何度もオルゴールを落としそうになりながらいじっていたが――


<機動確認>


 いきなり、機械音のような声がオルゴールから響いた。


<緊急脱出しますか?>


 そういう声が響き、同様の文字が浮かんだボードが宙に浮き上がった。


「する! 急げ!」


<脱出対象を指定してください。定員残り5名>


(定員?)


 ボードの表示と声に、僕の心に不安の影がよぎった。


「え、定員……?」


<残り5名。対象を指定してください>


(まさか、さっきあの姉さんが言いかけたのは……)


 要するに、こういうことらしい。


 脱出できる人数は限られているのだ。


「……!」


 リーダーは一同を見回した後、ボードを触り始めた。

 まず、リーダーの頭上に光の玉が浮かぶ。


 『脱出』を意味するダイノヘルムの文字である。


 次に、堀田。次に、水野。次に安藤。これで4名。


(え、おい、早く! 僕だろ……!?)


 僕は急かすようにリーダーを睨むが、反応はない。


 リーダーは一瞬うつむいたが、目を血走らせ僕を睨んできた。


「浪川……! 悪い、男になってくれ!」


「……は?」


 男というなら、性別という意味で最初から男だが。


 状況的に、そういう意味ではないことがわかる。


「定員は5人なんだ。悪いけど、お前残ってくれ」


「い、いやいやいやいや――」


 冗談ではない。何でそんな犠牲にならねばならないのか。


「残れって、それ死ねってことかよ!!」


「しょうがないじゃないか!!」


 反論する僕に、リーダーはヒステリックに怒鳴りつけた。


「こういう場面では使えないやつが残るのがセオリーだろ!」


「な、なんですと!?」


「この際だから言うけど、お前は全然使えねーじゃん! 1日に使える回復魔法いくつだよ。それも初期レベルですませられないクソレベルだろうが! ちょっと回復させるのにバンバン魔力消費して、まだ安物ポーションのほうが経済的だぞ!?」


「な……」


 これは、痛い言葉だった。


 リーダーの言うことは、事実その通りだったからである。


 わずかな傷を回復させるのに、10も20も魔法を使わねばならない。

 最初は低レベルのためかと思ったけど、他の冒険者との比較でそれが崩れた。


「そうだよ! お前が残れ!」


「今まで足引っ張ってばかりだったじゃない、ダメヒーラー!」


「お前のどこがHRなんだよ、詐欺もいいところじゃねーか!」


「あんたが犠牲になればみんな助かるんだよ! 今までの恩を返せ!」


 いつしか、他の連中もリーダーに同調し始めていた。


「どうでもいけど、早くしてよ! こんなところで死にたくない!」


 その水野の声がきっかけとなった。


 気絶している女の頭上に、脱出要員を示す光の玉が浮かんだ。


「あ、待て……!」


「どけ!!」


 あわてて駆け寄ろうとした僕を、リーダーは力任せに殴りつける。


 前衛職ファイターの腕力で殴られ、僕は小部屋の壁に叩きつけられた。


「急げ……!」


 僕が痛みと衝撃で朦朧している間に、オルゴールは作動させられたようだ。


<緊急脱出します。緊急脱出します……>


 オルゴールの声を遠くに感じながら、僕は頭を押さえて立ち上がった。


 だが、足元がふらついて壁にもたれかかってしまう。

 そして、オルゴールから強い光が放たれ、パーティーは消え去った。


 小部屋に残ったものは、空になった宝箱と、うずくまっている僕一人。


 いや、そろそろ外部からスライムたちが乱入しそうな気配でもあった。


 僕は血のにじんだ後頭部を押さえ、軋むドアを見つめるのみ。






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