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005、しくじりダンジョンの悲劇




(しくじった……)


 パーティーの誰もがそう思っていただろう。


 ものすごいスライムの大群に、パーティーは追われていた。

 ダンジョンに入った当初は、簡単なものだったのに……。


 出てくるモンスターはスライムばかり。

 集団行動をとらないスライムなら、簡単に対処できる。


 事実できたのだが。


 調子に乗ってそこら中の宝箱をあさっているうちに、


「何だ、これ?」


 メイジの堀田が虹色の輝く宝箱を開いた。


 入っていたものは、ピエロのような顔が書かれた円盤型の石板。

 まるで大理石のような外見で、きれいだが脆そうでもあった。


「初めて見るな……案内書には?」


「書いてない。ひょっとするとレアものじゃないか」


「けど、まだ一階だよ? そんなに大したものがあるかな」


「まさか、呪いとかかかってないよな?」


 みんな色々意見を言い合うがなかなかまとまらない。


(何か、人を馬鹿にしたような顔だな)


 円盤を見た僕の感想はそんなものだった。



 と。



 みんなが騒いでいる中、円盤が急に光り始めた。


「おい、危ないぞ!?」


 リーダーのヤスが叫んだと同時に。

 パーティーは円盤の光に覆われ、あっという間に何もわからなくなった。


 刹那。


 僕は円盤が粒子となって消え失せるのを見た気がする。



「……え?」


 気がつけば、パーティーはさっきとはまるで別の場所に移動していた。


 同じダンジョンの中ではあるらしいが、どうも階層が違うようだ。


「どこだ、ここ?」


「さっきのヤツのせいか!?」


 しかし、さらにあわてさせる事態が起こる。


 パーティーをスライムの群れがウヨウヨ取り巻き出したのだ。

 そうかと思うと、スライムたちは身を弾ませて襲いかかってくる。


「誰か攻撃したか!?」


「してない、してない!!」


「じゃ、何で!?」


「知るか!!」


 言い争いをするうちにも、スライムの攻撃は続く。


 そうなれば、反撃しないわけにはいかない。



 だが。



 一体一体は対処できるが、さすがに数が多すぎる。

 ファイターたちは疲弊し、メイジの魔力は消耗し、レンジャーの矢は減っていく。


「無理だ……! 逃げろ!」


 リーダーの声と共に、パーティーは一目散に逃げるしなかった。

 折角集めたアイテムも投げ出し、惨めに逃走したわけで。



 しかし、勝手もわからないダンジョンではどうにもならない。


 どういうわけか、ダイノヘルムのダンジョンには通路に照明がある。

 魔法で光を照らしているらしいが、ずいぶんと親切なものだ。


 しかし、その親切設計もこの場ではあまり役に立たない。

 暗闇よりも遥かにマシだろうが、それでも状況を好転させてはくれないのだ。



 気づけばパーティーは追い詰められ、みんな青息吐息。


 絶望的状況だが、みんな一言もしゃべらない。

 そんな余裕すらなくなっていたのだ。


 やがて、メイジの堀田が火炎魔法で周辺のスライムを派手に焼き払った後、


「切れた……。もう、からっけつ……」


 力なく言って膝をつく。

 どうやら最後の魔力を使い果たしてしまったらしい。


 レンジャーの水野も血の気のない顔で槍を構えている。

 こっちも矢を射ち尽くしたのだ。


(まずい。どう考えてもまずい……)


 僕は冷や汗をかいた、と言いたいところだが汗すら出なかった。

 どれだけ必死になっても、スライムはまだまだいる。


(……死ぬ前に、またコーラ飲みたかった……)


 僕はできるだけ考えまいとしていた日本のことを思い出し、泣きたくなった。


 今すぐにでも帰りたい。

 それが無理なのは、わかっていても思ってしまう。


 僕は泣きたいのに泣けないまま、グッと、メイスを握りしめる。



 その時だった。



 突然横合いからスペルを唱える声が響き、複数の光弾がスライムを吹き飛ばす。

 かと思うと、鈍く輝くフレイルを振るった女が飛び出してきた。


(誰!?)


 フレイルが2体ほどスライムを潰した後、


「走るよ!」


 女は膝をつく堀田を引きずり上げて、叫んだ。


「あ、はい」


 その迫力にパーティーはあっさり飲み込まれて、それに続く。

 ほとんど反射的な行動だったと思う。



 パーティー+1名は走りに走り、気づけば宝箱のある小部屋の中に逃げ込んでいた。

 しばらくはみんなぜいぜいと息を吐くばかりだったが、


「あんたら……見た感じ新人っぽいけど……何でこんな階層にいるわけ?」


 女は息を整えながら、咎めるように言った。

 見たところ二十歳くらいに見えたが……。


 装備から見て少なくともこのパーティーよりは上級者と思われた。


「いや、それが……」


 立場的に、リーダーのヤスが説明するのだが――


「……あんた、それ。初心者潰しのトラップだよ?」


 女は呆れたように言った。


「トラップ?」


「そう。浅い階層によくあって、発動すると周囲の人間を深い階層にワープさせる」


 知らなかったの? と、女は不審そうな顔だ。


「それが、案内書に載ってなくって……」


「は? まだ案内書の更新してなかったの!? ギルドってホント仕事しない……!」


 女は吐き捨てるように言って、肩で息をする。


「ま、お互い身の不運だったってわけか……」


「お姉さんはどうして?」


「私の場合も、運の悪さかな。仲間とはぐれちゃってさ。魔物に追われながら逃げてた時に、君たちを見つけちゃったわけ。とっさに助けたけど、人を助けられる余裕なんてないんだ」


 女は髪をかき上げながら、パーティーを見回す。

 言葉通り、彼女は傷だらけで顔色も悪かった。


「魔力のカラッケツだし、回復できるアイテムも無し」


 そして、絶望的な空気が再度パーティーを包んだのだった。





 

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