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002、冒険者登録

初回ということで2話連続で更新です。

今後は毎日基本21:00頃に更新予定ですので、よろしくどうぞ。




 どうやら、ここはダイノヘルムという場所らしい。


「冒険者諸君は、我がイグア国ができうる限るの援助を行う。どうか、魔王征伐に力を貸して欲しい!」


(いや、だから、そんな……)


 勝手なことを言う聖職者に、僕はどうしていいかわからない。


「それって、その、魔王と戦えってことスか?」


 アタフタしながら、ジャージが問う。


「いかにも。しかし、いきなり戦えとは言わぬ。幸いというのはおかしいが、諸国には魔王の先兵たる魔物どもが跳梁跋扈し、民は難渋しおる。それらを退治してくれるだけでも、我らは助かるのだ」


「そんなこと言われたって」


「なあ……」


「うん」


 みんな顔を見合わせて、戸惑うばかりだ。



 ゲームなら、


「はい、わかりました」


 ですむだろうが、現実はそうはいかない。


 怪我をすれば痛いし、死ねばそれまでだ。

 そんなことは誰にだってわかる。


「では、頼んだぞ。健闘を祈る」


 聖職者たちは勝手に切り上げると、僕らを追い立てるようにして室内から出す。


 というか、実際追い出しているのだ。




 外は――


「うわ」


 どこまでも青い空が広がり、見たことがあるようでないような建物が並んでいた。


 何となく、昔のヨーロッパっぽい感じというのだろうか。


 石畳の道路。井戸。ぽくぽく歩く馬車。


 後ろを振り向けば、神秘的な礼拝堂にも似た建造物がそびえ立つ。

 外観を見れば、よりその大きさが圧迫感と一緒に感じられる。


 あるいは単にファンタジーゲームのような風景でいいのだろうか。



 突き付けられた状況に、僕は頭痛を感じて頭を押さえた。


 と。


「はいはい。新しくやってこられた冒険者さんですね? どうぞ、こちらー」


 能天気な声が響いたかと思うと、発光する小さなモノが周辺を飛び回っていた。


(妖精?)


 透けたトンボのような羽。小さな体。

 ファンタジー映画に出てくる妖精そのものの生き物? がいた。


「ボクは冒険者ギルドの案内人です。どうぞこちらへ、こちらへ」


 妖精は愛想良く言いながら僕ら同を誘導し始めた。


 ともかく、状況が状況なだけに仕方がない。



 みんなゾロゾロと妖精の後ろへとくっついて行く。


 案内されたのは、先の建造物ほどではないが、大きな建物。

 ざっと見、数階建てのビルくらいはありそうだった。


「ここが冒険者ギルドです。皆さんはここで登録をして、冒険へと旅立ってもらいます」


 妖精はニコニコしながら、勝手なことを言うのだった。


「いや、何それ!?」


 一人の女子が若干ヒステリックに叫ぶ。


「誰も冒険するとか言ってないし!? 勝手に連れてこられただけだし……!?」


「あー、それはお気の毒。でも、無駄ですよ」


「無駄?」


 思わず僕は聞き返した。


「一同召喚された以上、そう簡単には戻れません。というか戻す方法を誰も知りません」


 もちろん、ボクも――と妖精はケラケラ笑う。


(えらいことになった……)


 その時、僕は本気でそう思った。


「ただまあ、希望がないわけではなくって?」


 妖精はくるっと空中で一回転して、指を振った。


「古代に異なる世界と世界をつなぐ、大魔法が存在したと伝わっていますね。どうしても戻りたいかたは、それらを見つければいいんじゃないんでしょうか?」


「ふざけないでよ!!」


 女子生徒が怒鳴り、妖精に石を投げつけた。


「それができないなら、ま、神様にでも祈るしかないんじゃないですかね? 神様はたくさんいるから、一柱くらいなら聞き入れてくれる神様もいるかもですよ?」


 妖精は石をひらりとかわし、またケラケラ笑った。


 まあ、つまり帰還は絶望的ということらしい。


「絶望するのもご自由。が、今後のために冒険者登録をされたほうが賢明ですよ?」


「……ちょっと質問」


 妖精に対して、僕は手を挙げた。


「その冒険者登録すると、何か得があるわけ?」


「もちろん。まず、冒険者専用の宿屋に泊まれます。他の宿よりずっと高ランクの宿にお安く泊まれる。これはお得だ。次に、登録者にはもれなく冒険のための初期装備一式がもらえる。で……最後がもっとも重要だけど、これは中で話しましょう」


 と、妖精は冒険者ギルドの建物へ入っていった。


 仕方なく、またぞろぞろと続く一同。



 中は木造であることを除けば、どこか市役所みたいな造りだった。


「ちょうど、今やっているところのようですね」


 見ると、剣と革製の鎧を身に着けた若者が、袋をカウンターの人間に渡していた。


 中身は、紫に輝く水晶みたいなもの。

 ただし、うっすらと金色の光がともっている。


「あれは魔結晶と呼ばれるもので、主に召喚コインの原料となるものです」


「何それ?」


「大変重要なものです」


 僕は尋ねるが、返事はハッキリしなかった。


「冒険者が魔物を倒すと必ずあの魔結晶が抽出されます。ギルドまで持っていただければ量に応じて換金するというシステム。わかりやすいでしょう?」


「つまり、魔物? をやっつければ、あの紫のが出てくるから、集めて来いと?」


 ジャージが適当にまとめた。


「ま、そういうことです。当面の仕事は、魔結晶集めですな」


 ホホホと妖精は笑う。


「もちろん他にも色々クエストはありますが、要は便利屋ですね。固定給は一切無しですわ」


 そう言って、また妖精は笑った後、


「あ、ただし。いくら魔結晶を集めてもギルド登録されていないかたは換金できませんので、

そこは悪しからず。もっとも、まともな武器も無しに魔物を倒せれば大したもんですが」


 どうやら、否も応もないらしい。


 今や僕たち被召喚者たちの選択肢は、


『冒険者になる』


『そのへんで野垂れ死ぬ』


 の二つしかなさそうである。


 この異世界で、日本みたいな基本的人権なんてものがあるとは思い難い。


「あ、それからくれぐれも犯罪行為などをしないように。例えば他人の集めた魔結晶を殺して奪うとかね。そういうバラガキはブラックリストに載ります。そうなったら、ギルドの怖~い兄さんがたに追われる羽目になりますので、悪しからず」






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