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019、ジューザの語る『世界の神』




「つまり、召喚するのは簡単ってことかい?」


「ええ。でもねえ、世界ってのは三千大千世界っていうくらいだから、たくさんあるそうで。そん中から若旦那の故郷だけを選び出すってのは骨じゃねえですかね」


「まあ……そうか」


 そんなに簡単にいけば、もっとその手の話が広まっていてもいいはずである。


「はあ……」


 僕は嘆息して、また夜空を見上げた。



 相変わらず光の根っこは巨大である。当たり前だが。



(……紫か)


 光の根っこは紫色の輝きで、それは変化しないようである。


(そういや、魔結晶も紫だっけ……。何か関係あるのかな? ないか……)


 あったとしても、それを何かにつなげる知識も知恵もない。


「若旦那の故郷ってのは、どんなところだったんですかい?」


「ん? ああ、島国って言われるところだな。海に囲まれてて、地震が多い」


「地揺れですかい。そりゃ物騒だなあ」


「そんで、魔法とはないな。代わりに科学技術ってのがある」


「魔法や術がない? ふーん、じゃあ神様ってのもいないんですかい?」


「さあ? 一応そういう宗教とか施設はあるけど、実在はわからん。っていうか、この世界に神様っているんだっけ?」


「たくさんおられますぜ。あんまり人目につくことはねえですがね。特に祟り神も多いから、気をつけないとえらいことにもなる」


(多神教か……)


 僕は神社や寺を思い出し、


(そういえば今年は初詣行ってないな)


 と、考え、少し笑いそうになった。


「ひょっとして一神教ってもあるわけ?」


「何ですかい、そりゃ?」


 ふと浮かんだ疑問を、僕は何となく口にする。


「何ていうか、一人の神様だけを信仰して、他の神様は認めないって宗教」


「特定の神様だけを信心するのはよくあるこってすぜ」


「いや、そうじゃなくって、自分たちの信じる神様だけが唯一の神様で他の神様は全部偽物だという考えかな」


「変な考えですねえ。で、どうするんですかい」


「どうするって、まあ、自分たちの宗教に改宗するように強制するとか?」


「はっはっは。そりゃ無理だ、戦になりますぜ」


 ジューザは大笑いして膝を打ち叩いた。


「下手すりゃ周り全部を敵に回して、叩き潰されるだけだ。流行らねえ教えですな」


「そんなもんか」


 まあ、そうかもしれないと僕は思う。


 実際地球でも宗教戦争は起きているし、テロも起こる。


「そういえば、君たちはどんな神様を信仰してんの?」


「あっしらは代々ナムジ神を崇めておりやす」


「それ、どんな神様?」


「何でも遠い昔に葦原の中つ国とかいう異界からやってきた神様だそうで」


(どっかで聞いたような名前だな?)


 僕は記憶を探ってみるが、どこで聞いたものだかは思い出せない。


「像とかはあるの?」


「ちっちゃな神像なら一つここにありやすぜ」


 ジューザはどこからかネックレスのようなものを取り出してきた。


 火のそばでよく見ると、黒い人形らしきものがついている。

 これが神の像らしい。


「え」


 さらによく見ようと見つめた時、僕は絶句した。


 神像は、僕のよく知るあるものと酷似していたのである。


 片手に大きな袋を担ぎ、片手に槌を持って座する神の像。

 顔はとがった鼻の獣――おそらくはタヌキ――ではあるが。


(大黒さん……?)


 ナムジ神のスタイルは、僕の見知った大黒と実によく似ていた。


 というか、獣の顔であることを除けばほとんど同じだ。


(ちょっと待て。大黒さんってどんな神様だっけ???)


 つたない知識から情報を引き出そうとするが、


(確か、商売繁盛とか金運だっけ?)


 所詮つたない知識だから、大した情報は出てこない。


 それも間違っている可能性が大。


「どうかなさったんですかい?」


 像のついたネックレスをしまいながら、ジューザは訝し気だ。


「いや、ちょっとよく似た神様を思い出したもんだから」


「へえ。ナムジ神と似てるんですかい?」


「タヌキの顔じゃないけどな」


「ああ、そりゃあっしらの造った像ですからねえ。神様ってのは色々姿や名前が変わることもあるんでさあ。よその連中が作ったナムジ神の像は人の顔だったりもしますぜ」


「そういうもんなの?」


「そういうもんです」



 ならば、仕方あるまい。



 僕は嘆息して、地べたに座り直した。


(そういえば、エジプトの神様ってのは動物の顔してるんだっけ?)


 どうでもよいこと思い出しながら、さえない頭で肉串を食べた。

 塩と胡椒のおかげか、なかなかの味。


(ナムジ神ねえ……)


 肉をほおばりつつ、僕はあれこれと思う。

 何となく記憶を刺激され続けるのは何故だろう、と。



 やがて。



(――ん?)


 唐突に、ある記憶が底の方から浮き上がってきた。


「じゃあ、君は『なみじ』だな」



(ああ、スイミングスクールか)



 小学校の時、カナヅチだった僕はスイミングスクールに通っていた。


 その時指導されたコーチの癖というか、何というか。


 生徒の名前を変な風に略して呼ぶのである。


 例えば、山田一郎なら『山一』。鈴木太郎なら『鈴太』。


 僕の場合は、『浪次なみじ』だった。

 それが妙な具合で広がったというべきか。



 『なみじ』だったものが訛って、『なむじ』になった。



 小学校までは、僕はそういうあだ名で呼ばれていたのである。

 もっとも、中学に上がるといつの間にか自然消滅していたが。


 僕としては、まるでムジナみたいで嫌だったのをよくおぼえている。


 もっとも、


「いや、神様の名前みたいで縁起の良いあだ名よ」


 変な風にほめた教師もいた。確か、小学校の教頭だったと思う。

 僕としてはそんな変な名前の神様など知らないし、嬉しくもない。


(これ言ったら、こいつどう思うかな……? ま、言わん方が吉か)


 宗教関係はどうこじれるわからない――そう思い、僕は思い出にふたをした。





 

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