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017、帰路での会話と夢の中




 かくして、レッサードラゴンの全滅を確認した僕たちは、


「それじゃこれに村長さんのサインをお願いします」


 ギルドから渡された確認書類にサインを受け、村を後にすることとなった。


 あちこちで地下室に逃れていた村民が発見され、案外生存者は多かったようだ。

 村長が先に言っていた通りである。


「お前さんがた、ついでに後片付けも手伝っちゃあもらえんかね?」


 出発しようとすると、そんなことを言われた。


 確かにドラゴンの死体は散乱しているし、家屋の被害も大きい。

 まあ、人手はありすぎて困るということはないだろう。


「悪いが、依頼はドラゴンを殺すことなんでね」


 ジューザはつっけどんに拒否し、


「手伝いが欲しいなら、お金出しな」


 と、指で丸を作って言い捨て、僕の背中を押していくのだった。

 それ以上頼まれなかったところを見ると、お金は惜しかったらしい。


 結局挨拶もそこそこに僕たちは村を去ることとなった。


「そいじゃあ、若旦那。またあっしの背中にどうぞ」


 村から離れたところで、ジューザはまた巨大タヌキの姿となる。


 だが、僕は躊躇してしまう。


「またあの猛スピードで走るのか? ちょっと勘弁してほしいんだけど……」


「いえいえ。帰りは急ぐこともねえ。のんびり行きましょうや」


「なら、いいけど……。でも、疲れてないのか?」


 正直、僕は疲れていた。精神的にも肉体的にも。


「はっはっは。若旦那ぁ、ご自分が特上の回復魔法を使いなすったことをお忘れで」


「ああ、そうか……」


 僕はうなずく。


 単に傷や魔力だけではなく、疲労も治してしまうらしい。

 それなら、遠慮することもなかったか。


「じゃあ、お願いしようか」


「へい、どうぞ」


 こういうわけで僕は荷物と共にジューザの背中に乗ることとなった。

 言葉通りゆっくりだが、それでも徒歩よりは遥かに速い。


「それにしても、物好きだなあ」


「何がですかい?」


「いくら助けられたからって、延々と僕を手助けすることもないだろうに」


「はっはっは。若旦那みてえな魔法の使い手はそういねえですからね。いや、それは置いても若旦那とあっしは相性が良いってのは、一目見てわかったんだ。こりゃ逃す手はねえと思ったもんですからね。悪いけど、離れる気はありませんぜ」


「別に邪魔じゃないし。いや、逆に助かってるけど……。そんなんでいいの」


「良いんですよ。そのうちに、あっしの故郷にもお連れしてえくらいだ」


「君の故郷ねえ……。どんなとこ?」


 僕は奇妙な気持ちになりながら、想像する。


 タヌキの獣人ばかりがウロウロしているというのは、どんな環境だろうか。


「そうですねえ。大八島って名前の通り、たくさんの島が集まってるとこで。もちろん大きい島というか、土地もありますがね。ここみたいな広い大陸じゃねえ」


「ふーん……」


「ま、土地土地で色々違いますから、一概には言えませんがね。まあ、あっしの生まれたのは中でも広い土地のほうですよ」


「良いところ?」


「良いところだと思いますがね。食い物も美味いですし」


「何でそこを離れてここに来たわけ?」


「そうですねえ……。まあ、言ってみりゃあ修業みたいなもんです」


 歩きながら、ジューザは大きく体を揺すって笑った。


「これをしなけりゃ、一人前とは見なされないんでね。別に嫌でもなかったが」


(成人の儀式みたいなもんかな……)


 人の姿をしたジューザはまだ少女だが、人間の感覚では判断できないだろう。

 また、人間でも昔は13歳くらいで成人だった場合もあったらしい。


「えらいもんだなあ」


「何です、若旦那。妙な物言いをなさって」


「……僕の場合は流されていうか、強制的というか、仕方なくこうなっちゃたもんでね」


「へえ? ……ああ、そういやあ冒険者ってのは召喚されて来るんでしたっけ」


「そうみたいだね……」


 僕は召喚当初のことを思い出し、頭を掻いた。


「若旦那はあっちでどうなさってたんですかい?」


「学生っていうか、まあ、半人前?」


 学問してたというほどに勉強熱心ではない。

 特にさぼっていたわけでもないが、打ち込んだわけでもなかった。


 文字通り、適当だ。


「今でもよくこんなところで生きてられると思うよ」


 正直、向こうに帰った夢は何度か見た。

 見たが普段はできるだけ考えないようにしている。


 思ってみても無駄だからだ。


 バロにいてパーティーを組んでいた時も、みんなあまり向こうのことは話さなかった。


 ゼロというわけではない。


 気づけば、みんなそれを話題にしなくなっていたのである。

 意識したくないということもあるし、余裕もなかった。


 とにかく、現状をどうにかするのに一生懸命で、日本のことは後回しだったのだ。


 あるいは、こちらの魔物討伐に夢中になっていたのかもしれない。

 生き物を狩って、糧を得るというごく自然な行為。


 これが現代人の僕たちにはひどく新鮮だった。


(まあ、慣れればどうちゅうこともなくなるんだけどな……)


 人間の適応力というやつだろう。


(しかし……)


 ふと後ろを振り返りながら僕は考える。


 セラさんという黒髪のエルフは、どうも妙なことを言っていた。


 チートがどうとか、何々をもらっただとか。


 どうも、僕と彼女はそれぞれ違うパターンで召喚されたような。


(あの変なところで召喚された時も、みんな日本人だったし……)


 彼女のようにエルフになってしまった者はいなかったし――


(街でも人間以外の冒険者は見なかった……)


 これがいわゆる地域差というものなのか。


(もう少しあの人と話してみれば良かったかなあ)


 そう思いはするものの、段々と思考は鈍ってくる。

 どうやら、疲れが本格的に出てきたらしい。


 僕はいつしか、ジューザの背中で眠ってしまった。


 夢の中では、通っていた高校の校舎が出てくる。


 あれこれ理屈に合わないことが夢の中で起きたようだが。

 それを不思議とも思わない。


 太陽と月が交互に出るのを、ジッと見ている。


(ああ、そういえばこれも懐かしいなあ……)


 と、夢の中で僕は思う。


 この世界、ダイノヘルムには太陽も月もない。



 それでも昼と夜があり、昼は明るいのだった。






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