014、無駄な会話と決戦開始
「よし、じゃあ、そこのエルフっぽいの」
話をそこそこに、ジューザはセラさんを指さした。
「人をバッタもんみたいに言わないでよ」
「まあ、何でもいい。とりあえず、その巣に案内しろい。片ァつけるからよ」
「あのね。あんたが強いのはさっき見てたからわかるけど……」
セラさんは呆れた顔でジューザを見て、
「ボスは他の雑魚とは違うの! 考えなしに突っ込んでったら死ぬだけよ!?」
「そりゃお前がヘボだからだろ」
ケケケ、とジューザは嘲笑う。
「怖いなら別にいいや。臭いをたどればわかるだろ。じゃ、若旦那、行きやしょう」
セラさんを押しのけ、ジューザは勝手に話を進める。
「あんたらが適当にやったせいで、村がメチャクチャになったらどうすんのよ!」
「もうなってるだろ?」
ジューザは肩をすくめた。
確かに、村はあちこち半壊して、ひどい状態ではある。
「それに生き残りがこんだけじゃあな? もうよそへ移ったほうが良かねえか?」
村人たちを見て、ジューザは冷酷なことを言う。
「いや、多分村の衆がおるのは、ここだけじゃない」
「他にも避難場所があるんですか?」
僕は聞き返した。
「避難場所というか、この村の家には大抵大きな地下室があるんだよ。食糧庫として。だからそこに逃げ込んでいるのもまだいるんじゃないかと……」
「頼りねえ話だなあ?」
ジューザはどうでも良さそうに欠伸交じりで言った。
「ふーん……。レッサードラゴンって、何か好物とかあったかな?」
「あんた冒険者でしょ? そんなことも知らないの?」
「いや、最近こっちに来たばかりで」
「とにかく、血肉に敏感ね。特に血」
「血かあ。うーん……」
「……あんた、何考えてんの?」
考え込む僕に、セラさんが不審そうな目を向ける。
「いや、何か向こうを引きつけられるものがないかと思って」
「囮でも使うっていうわけ? 有効かもしれないけど、危険だわ」
「別にお前についてこいとは言ってねえ」
セラさんに対して、ジューザはつっけんどんに言った。
「あんたと話してるんじゃない! ……とにかく、あいつらをやっつけるんじゃなくて、村の人を避難させるべきよ、まず」
「そのためには、囮が必要なんじゃ?」
「逃げたってすぐ追いつかれるだろ?」
「ああ、もう!!」
いっぺんに突っ込む僕とジューザに、セラさんは癇癪を起こす。
「とにかく、あんたら二人だけでどうにかなる問題じゃないの、すでに! だから援軍を他の街に頼みに行く必要があるんだってば」
「そりゃ無理だな」
「何でよ!」
意見を述べるセラさんに、ジューザは無残な態度。
セラさんは怒るが、不意に黙り込み上を向いた。
「鼻が利くらしいからな。食い物の匂いを嗅ぎ取ったんだろ」
カリ、カリカリ、カリカリカリ……。
何を引っ掻く嫌な音が、微かに聞こえてくる。
小さく村人の悲鳴があがり出した。
「地下室も嗅ぎつけられたのか……」
僕は嘆息し、ジューザの肩を叩いた。
「へへ、話が早くっていいね。じゃ、いきますか!」
ジューザは拳を打ち鳴らし、威勢良く吼えた
「ちょ、まさか出ていく気!?」
「どうせそのうちこじ開けられるぞ?」
ジューザは冷めた目でセラさんを見やり、
「お前、ホントにエルフか?」
と、蔑むような声で言って歩き出す。
「セラさんは、できればバックアップをお願いしたいんだけど……」
「それは、そうしたいけど……」
「あ、矢がもうないとか」
「いえ、矢はあるんだけど……」
「はあ」
「……」
少し躊躇した後、セラは情けなさそうに、
「さっきので魔力を全部使っちゃったの。だから」
「え、でも、弓矢だから……」
「あれは貫通の魔法を使ったからよ。でなきゃこんな矢、雑魚にも通じないわ」
敵に並の武器が通じないのは本当らしい、と僕はちょっと感心した。
「若旦那、一応エルフっぽいから、いけるんじゃねえですか?」
そこにジューザの提言。
「え? ああ、なるほど」
「何が?」
振り向く僕に、セラさんは顔をしかめる。
「ちょっと試してみますね――」
「は?」
僕は手をかざし、回復魔法を試してみた。
光の粒子を受けながら、見る間にセラさんに魔力が満ち満ちていくのがわかる。
「え……? 回復って、これ魔力を……!? そんな魔法もあるの!?」
「やっぱエルフじゃねえんじゃねーの、お前」
驚くセラさんを冷めた目つきで見て、ジューザは小走りに階段を駆け上がっていく。
「あ、こら! ちょっと、待て!」
あわてて追いかける僕だが、
「おらああああ!」
瞬く間にジューザの叫ぶ声と、何かが砕ける嫌な音が響き渡り始める。
僕が入り口から顔を覗かせた時には、すでに数体のドラゴンが死体となっていた。
入り口付近でジューザは暴れ回り、次々に敵を駆逐していく。
「ホント、化け物ね、あんたの仲間」
「まあ、強いのは確かですか……」
僕が言っているうちに、セラさんは魔力を集中して矢をつがえる。
弓なりの音と共に、矢は接近するドラゴンの額を貫いていた。
「さっきの回復魔法、あとどれくらい使える!?」
次の矢を構えつつ、セラは叫んだ。
「多分、あと30回くらいは……!」
「オッケイ! じゃ、くれぐれもやられないでね! あんたがやられるとジリ貧だから!」
笑顔でそう言いながら、セラさんは次々に矢を放つ。
矢は時にカーブを描いたりしながら、確実に命中していった。
「魔法を使い放題だと楽勝ね! いえ、油断しないけど!」
セラさんは嬉々として叫び、間断なく矢を飛ばし続けるのだった。
さらに離れた場所では、ジューザが両手にドラゴンを一匹つずつつかみ、吼えている。