013、エルフ娘登場~村人と会い、話す~
ジューザの活躍にプラスして、受けた矢の洗礼。
これに恐竜もどきは完全に戦意喪失したらしい。
文字通り尻尾をまいて、逃げ出していった。
「やれやれ……」
僕はホッと息をつき、汗をぬぐった。
と。
「そこにいるのは誰だ!」
ジューザが上を見て、叫んだ。
(後ろ?)
そう、僕たちが背にしている大きな建物の上――人影はそこにいた。
「あんたたちこそ、誰?」
人影は弓を構えながら、鋭い声を発した。女のものだ。
「僕らは、依頼を受けて来た冒険者です。あんた、この村の人?」
「冒険者?」
影は弓を構えたまま、訝し気に首をかしげた。
数秒、睨み合った後――
「ハッキリ言って、遅すぎる」
怒気をはらんだ声で言いながら、影は敏捷な動きで屋根から降りてきた。
癖のない黒髪に、白い肌。黒いきれいな瞳。横長の耳。総合して美形……。
(エルフ……!?)
相手の姿は、色んな物語でお馴染みのエルフそのものだった。
弓を装備しているところも、まさにテンプレート。
「ええと、僕は冒険者の次郎で、こっちは仲間のジューザ……」
「……」
自己紹介する僕だが、相手は黙ったままこちらを見ている。
「日本人?」
「え?」
「あんた、日本人なの?」
黒髪のエルフは鋭い目つきのまま、問いかけてくる。
「……そ、そうだけど」
「……はぁ」
エルフは気の抜けたような声を出し、首を振った。
「どうなってんの、この世界……」
「いや、どうなってるって……」
僕としては、何とも言いようがない。
「まあ、いいや。あたしは『せら・ようこ』」
あまり、エルフっぽくないような名前だった。
「多分、あんたと同じ日本人。元だけどね」
「え!?」
思わぬ言葉に、僕はギョッとした。
「日本人って……」
「何かよくわかんないうちに、こうなっちゃったの。詳しいことはわからない」
「はあ……」
本人がわからないのでは、僕としてはどうしようもない。
「ともかく、村長に会わせるから、こっち来て」
言われて、案内された先は、背にしていた家屋の内部だった。
裏手のほうから入った少し暗い場所。
「一応救援らしいのが来たようですよ」
若干毒のある言葉を吐きながら、セラさんは床へ声をかけた。
と、床が動いて入り口らしきものが開く。
けっこう大きなもので、下の広さを想像させた。
「本来は食料貯蔵庫だけど、緊急時の避難場所でもあるらしいわ」
言いながら、セラさんは淀みのない動きで階段を降りていった。
そして、数人の村人たちに引き合わされる。
「村長、依頼していた冒険者だそうです」
「……子供じゃないか」
村長と呼ばれた初老の男は、あからさまに失望した顔で言った。
「ガキで悪けりゃ帰ろうか?」
僕が何か言う前に、ジューザが不機嫌さを隠さずに言い放つ。
「こっちとしても、別にお前らが竜の餌になろうがどうしようが、知ったことじゃねえ」
ジューザはその面相に凶悪な表情を浮かべ、ジロリと睨みつけた。
「獣人だ……」
「それがどうかしたか? 竜の餌ども」
ヒソヒソと話し合う村人を、ジューザは腹に響く声で恫喝した。
「よしなよ」
喧嘩腰のジューザを制して、僕は一歩前に進み出る。
「一応僕が依頼を受けた者ですが、責任者というか代表はあなたですか?」
「あ、ああ、そうだ。ともかく、何とか村を救ってほしい」
完全に腰が引けていた村長だが、僕の対応にいくらか持ち直した模様。
「はあ。それで、討伐対象はレッサードラゴンとのことですが……」
僕は襲ってきた恐竜もどきを思い返す。
「何匹もいたけど、あいつらがそうなのかな」
と、横のジューザに尋ねる。
「絵で見たのと大体同じだったと思いますぜ。しかし、群れにしちゃあ統括する頭が見えないのは合点がいかねえが……」
「その頭、ボスが問題なの」
セラさんが暗い顔で言う。
「やっぱり他のよりも大きいんですか?」
「それだけじゃないわ。空を飛ぶ翼まであるのよ。もうレッサーじゃないわね」
いよいよドラゴンらしい。
「ふむ」
「最初は、小型のレッサードラゴンが一匹だけだったの。でも、日を追うごとに数が増えて、ついには群れを率いるボスが現れた。矢も通じないし、体も一回りはでかいわ」
「なるほどねえ。そんなのをまるまる獲物にできりゃあ、さぞ儲かるだろう」
「そんな、のんきな話じゃないの!」
おちょくるように言うジューザを、セラさんは睨む。
「言っておくけど、あいつらがさっき引き上げてったのは、ただの斥候だからよ。近いうちに本隊がやってくる。遠目だけど巣を確認したから間違いない」
「本隊は何してるんです」
「卵」
「え?」
「卵を産んでた。だから、きっと子供の餌を求めて大挙してやってくる」
「な、なるほど……」
セラの真剣な表情に、僕は納得した。
「それで、総数はどの程度です?」
「わからない。少なくとも、さっきの2倍はいると思った方が良い」
「ふうん。しかし、何だって竜がこんなところで増え出したんだろ?」
ジューザは首をひねった。
「竜が繁殖するのは、普通ダンジョンの奥とか人のいない山地とか、島のはずだ」
「さあね。神様の気まぐれかも」
どこか皮肉げに、セラさんは笑う。
その表情はどことなく、実感というかそんなものがあるように見えた。