011、クエスト:レッサードラゴンを退治せよ
それから、しばらくは雑多なクエストを受ける日々だった。
ジューザが前衛で攻撃役。僕が後衛で回復役というポジショニング。
しかし、ジューザは強すぎた。
敵をみんな一撃で倒してしまうので、回復役の出番はない。
「肉だの毛皮だのもいいけど、簡単にぶっ殺せばすむクエストとかどーです?」
しまいにはジューザはこんなことを言い出す。
「そりゃあ、攻撃役は君だけどな」
「ちょいときつめのクエストをこなして、さくって旦那の武装は整えきゃあ」
「うーん……」
確かに堅実な仕事はさほど報酬が良くない。
一般の仕事からするとわりと高めらしいが、武器や盾はやっぱり高いのだ。
また買った後のメンテナンスも欠かせない代物である。
「なぁに、傷を負ったって、旦那という回復役がいるから大丈夫でさ」
「そりゃいいけど、死んだら元も子もないぞ?」
「死ななきゃいいんだから、死なねえような具合のを選べばいいや」
「簡単に言ってくれちゃって……」
ジューザのお気楽な言動は疲れもするが、助けになりもする。
「大体、その旦那って言い方もどうだよ。僕はそんな呼びかたされる身分じゃないぜ」
「そうですかい?」
「クエストはほとんど君の世話になってるしな。下手すりゃヒモだ」
「あははは。そりゃいいや」
「良くない!」
「じゃ、間を取って若旦那とお呼びしやしょう。これなら良いや」
「あんまり良くもないけどな……」
だが、否定してもさらにおかしな呼称をされる危険がある。
そんなこんなで、今日も冒険者ギルドに顔を出すのだった。
「何か一発で金になるような、美味い仕事はねえかい?」
「ありません」
カウンターに顎をのせて言うのたまうジューザに、受付はクールな返事。
「高額報酬はそれだけ難易度が上がるし、危険も伴います」
「多少危なっかしくてもいいやね。何かないかい?」
「あなたね、そもそもこちらのパーティーではあっても、登録者じゃないですから」
遠慮してください、と受付は渋い顔で言った。
すみません、と僕は謝ってジューザを引っ込ませる。
「これは言い過ぎとして、今までより多少難易度が高いクエストとか」
「ええ、ありますよレッサードラゴンの討伐です」
「普通のドラゴンと違うんですか?」
「名前の通り下級のドラゴンですね。知恵もないし、炎も吐きません。ただし有毒で俊敏で、耐久力もある。皮膚も硬くて、並の武器では通りませんね」
「……それ、でかいんですか?」
「情報では、3メートルくらいだと言われてますが、詳細は不明です」
(4メートルかあ……)
大正時代北海道三毛別で惨劇を起こしたヒグマも3メートル弱だったという。
きっと、それよりも危険な相手だろう。
普通に考えれば、メイスなんかでで立ち向かう相手じゃない。
銃とか、数人以上の人出が欲しいところだ。
「若旦那、お受けなせえ」
「君はあっさり言うけどな」
「まあ、お待ちになっておくんねえ」
横から口を出すジューザに、僕はつい嫌な顔をする。
しかし、ジューザの方は平然としてもので――
「あっしゃ、その手の獣と何度かやり合ったことがあるんでさ。何で大よそのこたあわかっているんですよ? どうです、騙されたと思って任せておくんなさいよ」
「しかしなあ、でかい猛獣で毒まであるんだぞ?」
「若旦那の回復魔法があるじゃありませんか」
「そうだけどさ」
全然経験がないだけに、今いち自信が持てないのである。
「不安もおありでしょう。ですが、ここは一番あっしを信じておくんなせえ」
「…………」
真剣な目で言われると、僕は反論しにくかった。
彼女には世話になりっぱなしだし、あまり危険なこともさせたくない。
万一のことがあれば、それは僕の責任だ。
でも。
色々悩んだした結果、僕はこのクエストを受けた。
ぐいぐいと押してくるジューザに負けたともいえる。
また、
(初めてあった時みたいにでかくなれば、いけるのかもしれない……)
と、自分を納得させて。
翌日。
旅支度を終えた僕らはクエストの場所へと向かった。
パキケファの街から片道を馬で三日ほどの距離らしい。
「カスモという小さな村ですね」
だ、そうだ。
・最近村の近くでレッサードラゴンらしき害獣が発見された。
・現状では推定の段階だが、諸要素からして間違いない模様。
・また、家畜類にも被害が出始め、人間が襲われる危険性も出てきている。
・クエスト内容は害獣の確認と、討伐。
・なお、害獣の遺体は村に所有権があるので持ち帰りは禁止。
・魔結晶が出た場合は、持ち帰り可能。
「……ということなんだが」
下級とはいえ、ドラゴンの素材となれば相応の価値があるらしい。
「それが無しっていうのはアレだわな」
「ま、貧乏な村からすれば、うまくすりゃ臨時収入ですからねえ」
「そうなんだろうなあ」
カスモ村へと続く街道を進みながら、僕らはそんなことを話し合う。
「ところで、馬か馬車を使った方が良くなかったか」
「なぁに。あっしに良い案があるんで、もうしばらく行ってから話しやす」
それから二人は歩き続け、パキケファの街からだいぶ離れ、人目もなくなった頃、
「じゃ、ぼちぼちいきやすか。今日中に村に着きたいとこだし」
ジューザは急に荷物をおろして、ボキボキと首を鳴らし始めた。
「何か乗り物であるのか?」
「あっしが乗り物でさ」
言うなり、ジューザはぴょんとジャンプして一回転。
瞬間、その姿は巨大なタヌキの姿に変わってしまう。
「……それ、まさか」
「荷物を乗っけておくんねえ。落ちねえようにしっかりとね」
巨獣の姿で、ジューザは言う。体長は軽く3メートル以上ありそうだ。
荷物の準備ができると、
「じゃ、若旦那。あっしの背中にどうぞ」
「乗るのか、やっぱり……」
「乗り心地は保証しますぜ」
笑みを含んだ声で言って、巨獣は濡れた鼻を僕にこすりつけるのだった。