001、異世界召喚
キリが良いので新元号にあわせて連載開始です
書き溜めしてあるのでしばらくは連日更新予定でありますので、どうぞよろしく
気がつくと、周囲がグルグルと回転していた。
何が何だかわからないまま、僕――浪川次郎は翻弄され、目を回す。
それが突如終わったかと思えば、堅い床の上に投げ出された。
あちこちぶつけたようで、体中が痛い。
(何なんだよ、もう……)
とりあえず、大きな怪我などはないらしい。ホッとする。
体を起こそうとすると、後ろが何か眩しかった。
どうも大きな発光物があるらしい。
特に考えも無しに振り替えると、
(ガチャガチャ?)
いわゆる、カプセルトイの販売機。
色んな所で目にする例のアレが、七色の光を発しながら鎮座していた。
パッと見、5~6メートルはありそうなビッグサイズ。
<ハイレア。治癒魔法。ただし人間種を除く>
唖然としていると、頭の中で人工音声のようなモノが響いた。
気が付けば、頭上に淡く光る緑のボードが浮かんでいる。
何か文字が書いてあるのだが未知の言語で全然読めない――
いや。どういうわけか、僕にはそれが読めた。
(ハイレア。治癒魔法。ただし人間種を除く。……?)
さっき聞こえた声と、同じ内容の文章である。
「HRか。しかし人間種を除くとはどういう意味だ」
訝し気な声に、僕は改めて周辺を見回した。
やたら天井の高い、どことも知れぬ建物。
何やら由緒ありげな像や、あちこちの荘厳なデザインで目が痛くなりそうだ。
(バチカン……?)
一瞬そんな単語を思いつくが、どうも違うらしい。
どこにも十字架が見えないのである。
周囲にいる人間の服装も、神父の着るようなものではない。
どちらかというと、
(クレリック?)
聖職者という意味では、ファンタジーゲームなどでは回復魔法の使い手とされる。
……ことが多い。
感触として、現実のキリスト教関係者というより、ゲームのキャラみたいなのだ。
しかし、コスプレというにはあまりに現実的で、生活臭さえ感じる。
「あのぉ……ここ、どこでしょうか?」
「冒険者よ、後ほど改めて話すゆえ、そちらで待機しておるように」
どうやら責任者っぽい年配の男が、厳かに言った。
厳かというか、当然のような命令口調というか。
正直良い気分はしなかった。でも、状況が飲み込めない現状じゃ仕方ない。
指された方を見ると、数人の人間が困惑した顔で固まっている。
(あれ……?)
中には、僕と同じ学校の生徒がいた。
また、近くの女子校の生徒も発見する。
(どういうことだよ……)
わけもわからず、彼らの方に近づいていく。
「あの、これ、どういう状況? 何かの撮影? ドッキリとか……」
同校の男子生徒に尋ねてみるが、
「さあ……」
力ない表情で首を振るだけだった。
みんな同じように困惑し、そして脅えている様子。
無理もないことだけど。
見ていると、聖職者――これが正確な表現かはわからない――たちが何事がやり始めた。
何やら祈祷らしきことを始めたかと思うと、紫色に輝くものを取り出してくる。
直径30センチほどの、円盤型の物体。
どことなく、硬貨のようにも見えなくもなかった。
と、円盤がふわりと浮き上がり、例の巨大ガチャの方へと飛んでいく。
円盤はするりとガチャの中へと吸い込まれ、それと同時にガチャが振動を始めた。
七色の光が強くなり、チカチカと明滅を繰り返す。
やがて、ガチャから大きなボール型のものが排出された。
半透明のそれは大の大人がすっぽりと入りそうな、いや……。
(人が入っている!?)
実際、中には人間が入っていた。
床に転がって2~3秒後、ボールはパリンと弾けて粒子状の光となって消え去る。
放り出された人間は頭を振りながら、起き上がるのだった。
ジャージ姿の、いかにも部活帰りの運動部といったスタイル。
「何だ、どこだ、ここ……」
さっき僕が言ったようなことをつぶやくジャージ。
と。
<レア。レンジャー系。投射武器補正>
さっきと同じ声が響き、ジャージの上に淡く光る緑のボード。
(僕と同じ……? いや、ひょっとして……)
僕は少し躊躇してから、 周りの人間に尋ねてみる。
「他のみんなも、あんな感じで?」
「うん」
「あんなだった」
と、肯定が返ってくる。
(これって、どういう状況なんだよ……?)
一人悩んでしまうわけだが、答えなんか出ない。
ただただ、次々に人間がガチャから排出されてくるのを見守るだけだった。
その間で気づいたことだが。
出てくる人間のほとんどは『ノーマル』で、時々『レア』。
ごくたまに『ハイレア』があるだけだった。
例の聖職たちの反応を見るに、後者になるほど貴重らしい。
自分もハイレアであったことを考え、
(これって何か有利になるのか? それとも、悪くなるのか……?)
やがて2~30人ほどの人間が集合することとなった。
基本中高生ばかりで、たまに大学生らしき人間がいるくらい。
それだけの人間がいても、この建物は広く大きい。
しばらくすると、生殖の代表らしき人物が僕たちの前に立った。
「さて、諸君を異界より召喚したわけは、他でもない」
こう言った後、ジロリと剣呑な目つきで一同を見回す。
「世界は、暗黒の王パーピヤスの侵攻により危機を迎えておる。だが強大な魔力を持つ魔王に並の人間では太刀打ちできぬ。そこで、冒険者という特殊な資質を持つ者の力が必要なのだ。魔王とそれに操られた魔物を倒し、国に、いや世界に平和を取り戻してほしい!」
……とんでもないことを宣言されてしまった。
(うわ、まるでゲームみたい……。嘘みてえ……)
そう思ったのは僕だけではないらしい。
みんなポカンとして、反応が薄い。
中には何度も自分の頬をつねっている者もいた。
そんな一同に対して、聖職者は続ける。
「諸君は、その冒険者の資格を得て、このダイノヘルムに召喚されてきたのだ!」
いや、そんなこと急に言われても……――それが一同の思いであったと思う……。