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4話 常識が変わる刻

「……なにそれ。一体どういう冗談なの?」

「…冗談でこんなこと真顔で言うと思うか?俺が。」

「だって急にそんなこと言われても信じられるわけないじゃん。偽の情報っていう可能性は無いの?」

「この事件に関してはルイスから教えてもらって知ったんだ。それに、自分でここ最近の世界人口の変動も調べたから間違いない。」

「…どうだか。取り敢えず、それだけじゃとてもじゃないけど信用できないよ。第一、国民も軍も国家もその事件を知らないなんて可笑しすぎる。それだけ大規模な事件だったら嫌でも耳に入ってくるはずだもん。」

コレットの言っていることは正しい。正直に言って、自分でも完全にこの事件を信じているとは言えない。こんなこと、常に全国の戸籍を改算するくらいの芸当ができないとまず不可能だ。

「それじゃ、私は少し用事があって出かけなくちゃいけないから。修理代はまた今度払うね。」

「…あぁ、分かった。急に変なこと言って悪かったな。」

「……うん。気にしないで。」

そうして、俺はコレットの家を後にするのだった。


「………。」


「はぁ…。やっぱり信じてはくれないよな。」

こうなることは何となく予測出来ていた。コレットはどちらかというと現実主義なので、こんな話に聞く耳を持たないのは当然だ。証拠資料を細かく洗い出して見せれば分かってくれるかもしれないが、そんなものを用意するのは現時点では不可能に近い。

「やれやれ、とんでもない依頼を引き受けちまったな。」

コレットにここまで言われると、だんだん自分も例の事件が信じられなくなってくる。結論から言えば、今の科学技術でこんな大規模なことが誰にも気づかれづにできるわけがない。…魔法とかがあるんだったら話は別だが……まぁ、そんな非科学的なものなんてあるわけないよな。

「ん、あの後ろ姿はもしかして…。」

銀髪のミドルヘアで全体的に黒い服装。…間違いなく例の墓で知り合った女性だ。気づいた時には既には体が動いており、話しかけていた。

「よう。一週間ぶりだな、咲夜。」

「あら、誰かと思えばアレンさんでしたか。一週間ぶりですね。」

「まさかこんなに早く再開するとは思ってなかったぜ。」

「出会いというのは不思議なものですね。…そういえば、アレンさんはどんな用で外出を?」

「実は友人に電子レンジの修理を頼まれてな。今はその帰りだ。」

「そうだったのですか。朝早くからご苦労様です。」

「まぁものの10分程度で終わったからそこまで疲れてないけどな。それよりかは日光の日差しのせいで暑すぎる。」

基本的にロンドンは夏でもある程度は涼しいのだが、地球温暖化のせいで30度を超える日も少なくないのだ。

「確かにそうですよね。。お肌の管理には気負付けないといけません。」

「…そういうのは良くわからんが。」

「何を言っているんですか。髪は女の命と言うのと同じように、お肌も女にとってはとても大事なんですよ。」

「何というか…まぁ、お前も色々大変なんだな。」

「そう言うアレンさんは最近どうなんですか?」

「俺は……そうだな、ちょっと厄介なことに関わっちまってて、大変かと言われればすごく大変かもしれない。」

「厄介なこと…ですか。もしよろしければ教えてもらえませんか?」

「…俺は何でも屋を経営していてな、普段は大した依頼なんざやってこないんだが、今引き受けちまっているのが少し難しい依頼なんだ。おかげですごく大変だぜ。」

「なるほど…。それで?」

「…咲夜は…最近世界で大量に失踪者が出ているのは知ってるか?」

「……え?」

まぁ、知らないよな。俺でも最近になんてまで気が付かなかったくらいだ。咲夜が知ってるわけがない。

「知らないんだったらいいんだ。すまなかったな。」

「あ、えっと…それはどこで知ったのですか?」

「俺の知り合いからだ。どうやら公には公開されてない情報みたいでな、今でも半信半疑なんだが。」

「…そ…そう、ですか。」

「ん?どうした咲夜。さっきから少し変だぞ?」

「あ、えっと。だ、大丈夫です。そ、そういえば用事があったのを忘れていました。済みませんが、これで。」

そう言い残すと、咲夜は俺から離れるようにし走っていった。

「あっ、おい!……ったく、急にどうしたんだよ。」

もしかして俺の話に動揺したのだろうか。いやでも、それだけじゃあんなに動揺するわけないよな。……まさか、咲夜も知っていたのか?

「でももしそうだとしたら、あいつはどうやってこの事件を知ったんだ?」


サイドチェンジ アリス


「わぁ!この人形、すごくかわいい!」

さっきまで日用雑貨をそろえるために店を回っていたけれど、窓越しに置かれた人形たちにどうしても惹かれてしまっている自分がいた。

「…どうしようかしら。コレットからお金をもらったのはいいけど、これは雑貨を買うためのお金であって趣味のための物じゃぁ…。……でもなぁ。」

頑張れば自分でも作れるかしら。幸いにも技術的なことに関しては頭に残っているので、作れなくもない。きっと記憶を失う前の私は裁縫などが趣味だったのだろう。

「よしっ!もう家で作っちゃお!」

そう言って私がデジカメで人形の写真を撮ろうとしたそのとき、周りを見ていなかったせいで人とぶつかってしまった。

「きゃあ!」

「おっと、大丈夫かい?お嬢さん。」

「ご、ごめんなさい。周りを見ていなかったので。」

「いやいや、特に怪我は無いから大丈夫だよ。君の方は大丈夫かい?」

「あ、はい。問題ないです。」

「それは良かった。それじゃあ私はこれで。」

そういうと、男の人は人ごみの中へと消えていった。それと同時に、男の人のポケットから何かが落ちるのが見えた。近くに行って拾ってみると、それは古ぼけた手帳だった。

「あのーー、落としましたよーーって、もういないし。」

どうしよう、この手帳。流石に持って帰るのどうかと思うし。でも、あの人が何処に行ったのかなんて分からない。

「はぁ…。取り敢えず交番にでも届けようかしら。」

そうして私は、渋々交番へと歩き始めるのだった…。


サイドチェンジ アレン


「……確か、この店だったはずだ。」

あれからさらに一週間が経過した。現在俺はルイスとの約束どおり、以前訪れた喫茶店までルイスと共に足を運んでいる。

「結構渋い感じの店だな。」

「まぁ、店長の趣味なんだろうよ。それじゃ、早速入るか。」

(チリリーン)

「いらっしゃいませーー。」

「悪いが俺たちは客じゃないんだ。この店の店長に用があるんだが、呼んできてもらってきていいか?」

「店長ですか?少しここで待っていてくださいね。」

そういうと、店員は店の奥へと走っていった。

「とりあえず端で待つとするか。他の客の邪魔になるしな。」

「お前ってそういう配慮ができるんだな。完全に自分のことしか考えない自己中野郎だと思ってたぜ。」

「うっさいわ。」

しばらく店内で待っていると、以前会った男が俺たちの前に現れた。

「おや、あの時の人でしたか。」

「久しぶりだな。色々とあんたに聞きたいことがあるんだが、話の場を設けてくれないか?」

「……良いでしょう。ここではお客さんの邪魔になるので、話すなら店の奥にしましょう。付いて来てください。」

「そう言えばまだ名前を言っていませんでしたね。私の名は「アルバート・フリーマン」。知っての通り、この店の店長をしています。」

「……アルバート。ってまさかあんた、あの俺とアレンが昔住んでた施設の理事長か?」

「どうやらルイス君は覚えていてくれたみたいですね。」

(…施設……か。…あまり思い出したくないな。)

「ん?どうした、アレン?急に黙り込んで。」

「…いや、なんでも。まさかあんたがあの施設の理事だったとはな。顔が変わりすぎてて分からなかった。」

「10年も経てば誰でも変わるものですよ、アレン君。」

俺たちは昔、とある出来事を境に児童施設で暮らしていた時期があった。その時、俺とルイスはアルバート先生とよく遊んでいたのだ。朗らかな見た目で、いつもみんなにやさしく接していた。俺はあまり施設の先生が好きではなかったが、アルバート先生だけは違った。他人に無関心だった俺を、いろんな仲間たちと引き合わせてくれた。ルイス、コレット、そして凪紗。アルバート先生がいなかったら、きっと俺は今でも孤独だったに違いない。

「にしても本当に久しぶりだな、先生。今は理事長じゃないのか?」

「…実は君たちが施設を後にしてすぐに予算が底を尽きてしまってね。その時にもう、私は理事長を辞めたんだよ。」

「え、でもそこまで金に困ってるようには見えなかったぞ。」

「あの頃は市からの援助で何とか成り立たせていたんだよ。市長が私の知り合いだったからうまくこねを回していたんだが、それももう限界でね。気づいた時には閉園まで追い込まれていたというわけさ。」

「俺たちの知らない場所で、先生も苦労してたんだな。」

「君たちの為を思ったらそれくらいなんともなかったさ。だから、君たちが独り立ちしてくれた時は本当に嬉しかった。」

アルバート先生は自分のことをあまり話すような人じゃなかった。きっとそれも、俺たちに無駄な心配をさせない為の配慮だったんだろうな。

「なぁ先生、一つ質問していいか?」

「うん?何かな。」

「先生は……俺の素性をどこまで知っているんだ?」

「おい、アレン!」

「どうしてもこれだけは聞いておきたい。俺はあまり公に出た覚えは無いから、素性を知っているなら組織と何かしら関係があるはずだ。」

「……そうだね。でもすまないが今は話せないんだ。」

「なんでだ。口止めでもされてるのか?」

「…君はこの世界が真実を映し出していると思うかい?」

「はぁ?なんだよ急に。」

「君が今、目で捉えている現実は、本当に真実かい?」

「なぁ先生、行ってる意味がよくわからな…。」

(…ガタガタガタガタ……)

「なんだ、地震か?珍しいな。」

(…そんな。まさか、もう始まるというのか?)

「…どうしたんだ先生。急に黙り込んで。」

「少し急用を思い出してね。すまないが今日の所は帰ってもらっていいかな?」

「おい、ちょっと待てよ!まだ俺の質問が…。」

「話なら後でする!いいから早く出ていくんだ!」

「わっ分かった。分かったっての!おい、行くぞアレン。」

「ちょ、離せルイス!掴まなくても大丈夫だ。」


「いくら何でもタイミングが早すぎる!…このままでは、本国が!」


「なぁ、アレン。」

「どうした。」

「お前、先生が怒鳴ってる姿なんて見たことあるか?」

「…ないな。地震に動揺したんじゃないか?」

「確かにここいらで地震は珍しいかもしれないけどよ。なんか引っかかるんだよな…。」

「きっとまだ、先生が知っていて俺たちが知らないことがあるんだろ。」

「やっぱそういうことになるよな…。まぁ取り敢えず、アルバート先生がこの店の店長だったってことが知れただけ良しとしようぜ。」

「それもそうだな。」

「それじゃあ、俺はここいらで失礼させてもらうぜ。また連絡してくれよな、相棒。」

「あぁ、気が向いたらな。」

そういうと、ルイスは俺に背を向けて歩き始めた。

(…地震が原因じゃないとしたら、いったいアルバート先生は何に動揺したって言うんだ…。)

ここ最近、不審な言動をするやつをよく見かけた気がする。こころ、咲夜、そしてあるバート先生。何か知っているのは間違いないが、俺が引き留めても頑なに止まろうとしない。…どうしてもこの三人に何か共通点があるとしか思えなかった。

「…こんなところで何してるのよ。黄昏たりなんかしちゃって。」

「なんだ…アリスか。別に黄昏てたわけじゃねぇよ。」

「なんだとは失礼ね。もう少し別の言葉は無いのかしら。」

「はぁ……言葉遣いなんてどうでもいいじゃないか。」

「…なんだか、元気ないわね。」

「仕事で色々と疲れてんだよ。どっかの誰かさんと違ってな。」

「なっ。私だってコレットの家事を手伝ってるわよ。ぐーたらしてるように言わないで頂戴!」

「はいはい、悪―ございましたねーー。」

「もうっ!ちゃんと分かってるの?」

「分かったから、耳元でぎゃーぎゃー叫ぶな。」

ただでさえ疲れてるってのに、アリスと話してるせいでさらに疲れが増してしまいそうだ。

「そういや今更だが…何気に今お前、英語喋ってるよな。英語を習得するの早くないか?まだ一週間しか経ってないぞ。」

「そんなの、参考書を読み漁って三日で覚えたわよ。」

「みっ、三日だと?」

「まぁ、コレットに少し質問とかはしたけど。基本的には大したことなかったわね。文法と単語を覚えるだけでいいわけだし。」

「で、でも流石に三日は早すぎるだろ!お前どんな頭してるんだ!」

そこまで来ると、もはや神の領域なのではないだろうか。…まぁ、俺は神なんか信じていないが。

「ふふふ、どうやらかなり驚いてるみたいね。これに懲りたら今後は言葉遣いを…。」


『きゃーーーーーーーーーー!!』


「な、なんだ!さっきの叫び声は!」

「あそこよ。アレン!」

アリスの指さす方を見てみると、多くの人々が頭を抱えて地面に倒れていた。

『ぐ…あああああああああ!!』

「な…なんだよ…これ。一体何が起こっているって言うんだ!」

急に人々が苦しみもがきながら倒れていく光景に、俺はまだ理解が追い付いていない。必死に頭に考えを巡らせようとしても、どこかで遮断されてしまう。

「ちょっと!一体何がどうなってるっていうのよ!何で急に人が。」

「俺だって分からねぇよ!とにかく落ち着いて現状確認を…。」

そう言いかけた時、頭の奥からくる強烈な痛みが俺を襲い始めた。

「ぐ、あーーーーーーーーーーーー!!!がーーーーーーーー!!」

「ちょ、ちょっと!どうしたのよアレン!しっかりしなさい!」

「うぐ……あぁ!」

あまりの痛みに返事をすることもできない。少しして、吐き気やめまいが起き始める。

「げほっ。ぐう、あ…アリス!!がああああああああああ!!」

いたいいたいいたいいたいいたい!!!なんなんだ、一体俺の体になにが起こっているって言うんだ!!規格外の痛みに、意識がもうろうとし始めてしまう。

「と、とりあえず救急車を……うう、あああ!」

「なっ!あ、アリス!……ぐあああああああああ!!」

くそっ!だめだ!このままでは意識を失うどころかそのまま死んでしまう!

「た、頼む!誰か……誰か助けを…うがああああああああ!!!」

頭痛、嘔吐、めまい……あらゆる痛みが俺を支配していく。

「ぐああああああああああああああ!があああああああああああああ!あああああああああああああああ!!!」

痛みは時間が経つごとにエスカレートしていき、ついには目の前の景色までもが赤く染まり始めた。

(君が今、目で捉えている現実は、本当に真実かい?)

偽物だというのか?俺の見ている現実は、本当に偽物だというのか!分からない、分からない!じゃあ、今見ているこの世界は何だって言うんだ!分からない、分からない!があああああああああああああああああ!!!

(現実から……目を背けないで…。)

「五月蠅い!黙れ!俺の頭の中に入ってくるな!痛い!苦しい!気持ち悪い!ぐあああああああああああ!来るなああああああああああああああああああ!!!」

痛い、苦しい!誰か…。誰か!!!

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




『時は満ちた。……さぁ、始めよう。偉大なる…我らが父の…復活を。』

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