2話 お面の少女
どうも初めまして、あじたまです。今回から前書きと後書きを出来る限り書いていこうと思います(必ず書くとは言ってない)。毎回20分未満で読み切れるように執筆していきます。それではどうぞ。
「……もう昼過ぎか。腹減ったな。」
墓地から出た後、俺はぶらぶらと此処、ロンドンの地を歩いていた。今朝の件で朝食が全くとれていなかったので物凄く腹が減っている。
「とりあえず、あの店で済ますとするか。」
俺は目の前の喫茶店に向かって歩いた。
店内に入ると、外観と同じような光景が目に留まる。全体的に植物を利用した装飾が多く、床も木材でできている。自然と調和した店っていうのはこう言う事を言うのだろう。少しして、この店の店員であろう人物がこちらに歩み寄ってくる。
「いらっしゃいませ~。お客様1名でよろしかったでしょうか。」
「あぁ。」
「分かりました。それでは空いてる席までご案内しますね。」
その後俺は店の空いている席に案内され、メニューを受け取る。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください。」
それだけ言うと、店員はそそくさと店の奥へと戻って行った。それにしても店に入った時から思っていたが、この店はとても静かである。俺はどちらかというと賑やかな場所よりも、静かな場所の方が好きだ。前までは、他の連中とバーで過ごす毎日だったので、とても新鮮な気分である。俺はのんびりと渡されたメニューを眺めながらこの後の予定を頭に巡らせる。ルイスとの約束まで時間があるので、やろうと思えば何でもできる。昨日まで受けていた依頼の報酬は墓地に行く前に受け取っているので実質フリーだ。ともかくそんな訳で、今は特に仕事も受けていないのですごく暇なのだ。取り敢えずアイスコーヒーとサンドイッチでも頼もうと、店員を呼ぶ。
「すいませーーん。」
「……。」
しかし、いくら待っても店員がこちらにやってこない。周囲を見渡してみると、どうやら店の入り口の方が騒がしいようだ。
「何かあったんだろうか。」
少し気になるので、俺は椅子から立ち上がり、店の入り口の方へ歩いて行った。
入口の方まで来ると、ガラの悪い連中が一人の店員を囲んで怒鳴り散らしていた。
「おい、さっさとこの店の店長を呼んで来いっていってんだろ!」
「てめぇに用は無いんだ。さっさと呼んで来い。」
「あの、さっきから言ってるように店長は今店を留守にしていて。」
「はぁ?んな訳あるか!こちとらうちの部下がおたくの店長にやられてイライラしてんだ。呼んでこないってんだったら、女だろうが容赦しねぇぞ!」
「ひぃ!痛いのはやめてください!」
「……。」
にしても、力のない女に男二人で寄ってたかって恥ずかしくないのだろうか。流石に見てられなくなったので、俺は女に手を貸そうとした。その時…、一人の大人びた紳士が店の中に入ってきた。
「やあやあ、人の店であまり騒ぎを起こさないでもらえるかね。君たち。」
「なっ!お前は!」
「全く、ここは公衆の面前だというのに。君たちのせいでこの店の雰囲気が台無しじゃないか。」
「うるせぇ!おめぇが俺たちの部下に手を出したって言うこの店の店長だな!後悔させてやる!」
男の一人がそう言い放ち、紳士に殴りかかる。しかし、その拳はいともたやすく止められてしまう。
「やれやれ、パンチの仕方すらままならないとは。少しお手本を見せてあげましょう。」
「くそっ!なめ腐りやがって!」
男はすぐさま左ストレートを叩き込む。だが、すでに紳士は一瞬の隙に男の背後に回っており、空振りしてしまう。
「パンチとは…こういう風にするものですよ!」
「なっ、しま…がはっ!」
不意を突かれた男になすすべはなく、紳士の放ったパンチをもろに喰らう。そのまま男は床に倒れこみ、気絶してしまった。
「さてと、もう片方の貴方はどうします?」
「くそっ、相方の仇!」
あっさりと挑発に乗り、もう一人の男が紳士に向かって飛び掛かった。それを紳士は無駄のない動きでかわし、そのまま男の腰に蹴りを入れる。
「ぐはっ!」
「隙だらけですね。鍛え方がなっていません。」
「くそ、全く歯が立たねぇ。」
「貴方たちが弱いだけで、別に私が強いわけで話ありません。さてと、ようやくいらっしゃったようですね。」
紳士がそういったとき、店の外でパトカーのサイレンが響き始める。どうやら先に警察を呼んでいたらしい。
「あまり警察と関わりたくないな…。」
俺は法に触れるような依頼を引き受けることが多いので、警察と関わるのは今後のことを考えるとあまり好ましくない。そうして俺がこっそり店から出ようとした瞬間、先ほどの紳士に小声で呼びかけられる。
「…店の裏口を使いなさい。どうせまた貴方のことですから警察と関わりたくないなどと思っていたのでしょう?」
「…なんで俺のことを知っている。」
こんな紳士とかかわりを持った覚えなどない。俺は少し警戒する。
「おや、覚えていませんか。私は貴方のことをよく知っていますよ。」
「…そうだったっけか。」
「ええ。それよりも、急いでこの店から出たほうがいいのではないですか?もうすぐ警察がやってきますよ?」
「…裏口は何処だ。」
この男については後で考えればいい。今は一刻も早くこの店から出るのが最優先だ。
「あちらの扉から廊下に出てそのまま進み、一番奥の扉が裏口ですよ。」
「…ありがとう。助かった。」
「いえいえ。お気を付けて。」
俺はそのまま、言われた扉まで走った。
「……忘れてしまうのも無理はないのかもしれませんね。何せ最後に会ったのは10年前なのですから。それでも久々に顔を見れてうれしかったですよ、アレンさん。」
サイドチェンジ アリス
「お待たせーーアリス。お茶を入れてきたよ。」
「わざわざありがとう、コレット。」
「いやいや、お客さんをもてなすのは当然だよ。」
現在私はこの都市について詳しく聞くために、コレットの家に来ていた。急な他人のお願いにもかかわらず、了承してくれたコレットには頭が上がらない。
「それにしても、コレットは凄いのね。私の喋っている言語も理解できるなんて。」
「そんなことないよー。昔アリスと同じ日本人の友人がいて、その子とコミュニケーションをとれるように勉強してたから分かっただけ。」
そう言うと、コレットは何処か遠くを見るような目で窓の外を見る。
「…昔って言う事は、今はもう遠くに行ってしまったのかしら?」
「まぁ、そんなところかな…。て、そんなことよりもアリスはこの都市のことが知りたいんだったよね?」
「え!?あ、うん。そうそう。」
コレットの急な話題転換に、私は驚いてしまう。もしかして、あまり聞かれたくないことだったのかしら。
「まず、今アリスと私がいるこの場所は、イギリスという国の都市の一つ、ロンドンという所だよ。」
そういうとコレットは、ポケットから謎のプレートを取り出す。
「…えっと、そのプレートは何?」
「え、スマートフォン知らないの?…一体アリスは今までどんな生活を送ってたの!」
その「スマートフォン」というプレートは、どうやらこの世界では知ってて当然の道具のようだ。自分の知識のなさに、私は愕然とする。
「ちょ、そんなに落ち込まないで。きっと記憶と共に抜けてしまったのかもしれないしさ。えっとね、これはスマートフォン、通称スマホって言う道具なんだ。」
コレットは私に見えるようにスマホの画面を見せる。
「これを使うと遠くの人とコミュニケーションをとったり、欲しい情報を手に入れたり、ゲームとかができたりなんかするんだよ。」
「へぇ、すごく便利なプレートなのね。」
「そうそう。このご時世じゃ持ってて当たり前の代物だよ。と、また話が脱線しちゃった。」
そう言ってコレットはスマホを操作した後、再び私に画面を見せてくる。
「これは…もしかしてその「イギリス」って言う国の地図?」
「うん、そうそう。でもね、イギリスは世界にある国の一つでしかないんだ。」
「一体どれだけの国があるのかしら?」
「確か今現在で独立が世界的に認められている国が、200ヶ国ぐらいだったかな。」
「に、200ヶ国!?」
私は精々20か国くらいだと思っていたのに、コレットの口から出たのはその10倍だった。
「…確かに昔よりかは独立した国が増えたけど、そんなに驚くほど?」
「いやだって、200ヵ国だなんて。一体どれだけこの世界は広いっていうの?」
「……やっぱり…。」
「…え、どうしたの?コレット。」
急にコレットが険しい顔で私を見つめてきたので、私は声をかける。
「あ、ごめんごめん。本当にアリスはあの子と似てるなぁーーって思って。」
「あの子って…もしかしてさっき言ってた古い友人のことかしら?」
「うん。実はね、以前にもこうやってその友達にこの国のことや世界のことを教えてた時があったの。「如月 凪紗」って言う女の子で、私より一つ年下だったんだ。凪紗もね、今のアリスと同じような感じで私の話を聞いてくれたんだ。その時はまだ私も日本語がうまくなかったし、凪紗も英語がまだうまくしゃべれなかったんだけどね。」
「じゃあ、どうやって話してたの?」
「…それはもう、いろんな方法でだよ。絵を書いたり、ジェスチャーをしたり、時には頑張って言葉で説明したりもした。凪紗にとっては分かりにくかったのかもしれないけどさ、それでも私は凪紗と世界について話すことが楽しかった。うれしかった。学校から帰ってすぐにスケッチブックとペンを持って、凪紗と一緒に近くの公園に行って、そのあとすぐに語り合う。それがね…1日の楽しみだったんだ。」
「……。」
昔を思い出しながら話すコレットは、何処か…辛そうだった。当の本人は、涙をこぼしていることにさえ気づいていない。
「…ごめんね、急にこんな昔話なんかして。関係のない話だったよね?」
「気にしないで。それだけ凪紗っていう子が好きだったんでしょう?…私には記憶がないから友達がいたかどうかも分からないけど。」
「…ありがとう。」
そう言ってコレットは涙をぬぐい、再びこちらに向き直る。
「それじゃ、凪紗に教えられなかった分、アリスに沢山教えてあげるね。あっそうだ、ここで暮らしていくんだったら英語も覚えなきゃだよね。私が教えてあげるよ!」
「え、いいの?別にそこまでしてもらわなくても。」
「大丈夫大丈夫、何だったら寝床も貸してあげるよ。どうせ行く当てもないんでしょ?」
「あ、いやでも…」
「はい、決定!これ以降の変更は認められません!」
「……分かった。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら。」
「はーーい。それじゃあ改めてよろしくね、アリス!」
「ええ。こちらこそ。」
一時はどうなることかと焦っていたが、どうやら杞憂だったようだ。今はまだ何も思い出すことはできないけれど、コレットと一緒なら、少しずつ思い出せるかもしれない。そんな気がした。
サイドチェンジ アレン
「……。」
店から出た後も、俺は一人頭を悩ませていた。考えているのはもちろん、先ほどの紳士についてだ。俺はあんな奴と関わった覚えなんてない。ましてや会ったことすらもないのだ。だが、あの男は俺のことを知っている口ぶりだった。
「…もしかして、単に俺があの男のことを忘れているだけか?」
見た目的には40代前半だったので、もしかすると昔学校の担任だったという可能性もある。しかし、担任が一々全員の生徒を覚えているだろうか。やたら一人の生徒を気にかけていたのなら分からなくもないが。
「くそっ、手詰まりか…。」
他にもいろいろ考えてはみたが、どうしても決定的な考えは思い浮かばなかった。仕方ないので、俺はいったんあの男について考えるのをやめた。後でルイス辺りにでも聞いてみることにしよう。
「…そういえばあの店で昼食を食いそびれたな……。何か簡単に食事を済ませられる店は無いのか?って、あれは!」
丁度店を探し始めた時、それは俺の目の前に現れた。
「マ…マ〇ドナルドじゃないかーーー!!」
最近この近くに新しい店舗ができるとは聞いていたが、まさか本当だったとは。そうこうしているうちに、俺の中のマ〇ドナルド魂がうずき始める。
「これは……行くしかない!!」
考えるよりも先に体が動く。俺は目の前の店に向かって走り出した。
「……あの人…もしかして。」
「く、流石に昼なだけあって列が長いな。」
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。俺はなるべく短い列に並んだ。
「…じーーー。」
「………。」
「…じーーーーーーーー。」
「……。」
…なんだか後ろから凄い視線を感じる。少し首を回すと、お面をつけたピンク髪の少女がこちらを見ていた。
「…俺になんか用か?」
「……チーズバーガー。」
「…はぁ?」
「…チーズバーガー、買って。」
「……。」
こいつ自分が言ってる意味を理解しているのだろうか。知らない赤の他人の男にチーズバーガーをたかるなんてどんな神経してんだ。
「そんなもん自分で買え。金、持ってるんだろ?」
「…持ってない。」
「だったら列から外れろ。他にもハンバーガーを買いたい奴らだっているんだ。」
「…分かった。」
どうやら理解してくれたらしい。俺は再び前へ向き直る。
「…じーーーーーー。」
「……。」
何で列から外れていないんだ。理解したんじゃなかったのか?俺はまた顔を後ろに向けた。
「…チーズバーガー、買って。」
「おい、さっきも言ったはずだ。自分で買う気が無いんだったら列から外れろ。」
「…分かった。」
本当に分かっているのか怪しいもんだ。俺は前へ向き直る。それと同時に、俺の注文する番が回ってきたようだ。
「いらっしゃいませーー。何になさいますか?」
「じゃあ、ビッグマックセットのポテトとコーラで。」
「はい。以上でよろしかったでしょうか?」
「…じーーーーーーー。」
「……チーズバーガー一つ。」
「……。」
「とても美味しかった。ありがとう。」
「…あぁ、そいつはよかった。」
あれから結局、俺はチーズバーガーを買って、それを少女に渡した。ずっと後ろから視線を浴びせられるのも君が悪かったので、あくまでも仕方なくである。
「何かお礼をさせて欲しい。」
「…じゃあ金返せ。」
「お金ないから無理。」
「冗談だ、別に礼なんていらない。俺が勝手にやったことだからな。」
「それでも、何かお礼はしたい。」
どうしてもこいつは俺に礼がしたいようだ。…そういえばさっきから一つ気になることがあったんだった。
「じゃぁ、一つ質問に答えてくれないか?それでチャラにしよう。」
「分かった。何でも聞いて。」
「あぁ。じゃあ一つ聞くが、お前が頭につけているそのお面は何なんだ?」
「…これのこと?」
「そう、それだ。あった時から気になっててな。」
「…簡単に言えば、私の表情。」
「表情?」
「私、全くと言っていい程顔に表情が出てこないから。だからこうやって代わりにお面で表情を表現してる。」
「あぁ、無意識のポーカーフェイスってやつか。」
「そうそう。それそれ。」
俺の言ったことが的を射ていたのか、少女は少し嬉しそうだった……顔以外。
「そのポーカーフェイスは生まれつきなのか?」
「…うん。……ちょっと違うけど、言っても今は信じてくれないと思うからその解釈でいい。」
「そうか、お前がその解釈で良いって言うんだったらそう解釈させてもらう。」
俺はそう言いながらポテトをつまむ。ビッグマックはもう話しているうちに食べ終わってしまった。
「じーーーーーーーーーー。」
「…なんだ。ポテトまでたかるつもりか。」
「…見てるだけ。」
「そうか。…そういやお前、名前は?」
「…「秦こころ」。普通にこころで良い。」
「分かった。俺は「アレン・クリフォード」だ。」
「……クリフォード…。」
そういうと、こころは何かを考え込むようにしてうなり始めた。
「ん、俺の苗字がどうかしたか?」
「…一つ、聞きたいことがある。」
「……何だ。」
「『ジョージ・クリフォード』って、知ってる?」
「…何で……何でお前が…俺の親父の名前を。」
嘘だ、そんなはずはない。だって親父は…親父はもうあの事件で死んだはずだ!もう生きているはずがない!
「…やっぱり。私の考えは間違っていなかった。」
「どういうことだ!なんでお前が親父の名前を知っている!」
「……今はまだ…話せない。でも、もう遠くないうちに話すことになると思う。だから…その時まで待ってほしい。」
「何で今話せないんだ!お前は一体俺の親父の何を知っている!!」
正直に言って、頭の理解が追い付いていなかった。今の俺は、ただただ自分の感情をこころにぶつけているだけだ。
「…チーズバーガー、買ってくれてありがとう。それじゃ…。」
それだけ言うと、こころは路地裏の中へと走っていった。
「おい待て!俺はまだお前に聞きたいことが!」
急に訳の分からないことを言われて黙っているわけにはいかない。俺は必死になってこころを呼び止めようと走り出した。しかし、俺が路地裏にたどり着いた時には、すでにこころの姿は無かった。俺は下唇をかみしめ、自分の怒りを壁にぶつけるのだった…。
戦闘描写が下手糞過ぎて今後が不安になるあじたまでした。それではまた次回お会いしましょう。