鈴蘭
闇色の体、夜空のように煌めく鱗が巨大を揺らすたびに瞬いた。半分に折れた一本角、濃い黄色のそれは月を思わして。
夜を体現したかのような怪物が、目の前に現れたのだ。大きな瞳は、暗く黒く、底なしの闇のように少女をじっと見下ろしていた。
怪物と対面した少女は、臆することも怯えることもせず、むしろその表情に、微笑みを浮かべていた。
それが、恐怖に狂った表情でないことは、きっと誰でも感じ取れた筈だ。
「あなたを待ってましたよ」
少女は背中の大剣を抜いた。
少女の名前は「鈴蘭」。純白の絹のような髪、真っ白のワンピースと、名前に負けず劣らずの可憐な見た目。そして、その体に似合わぬ大剣を背負った、狩りを生業とする旅人だ。
その名前は本名ではない。ただ、少女の見た目と振る舞いから、人々いつしかそう呼ぶようになっていたのだ。
依頼があれば西へ左へ、街を国を大陸を渡って獲物を狩った。
その白を赤に染め上げて。
「夜に変わるこの時間帯に、あなたが現れると聞いて来ました。はじめまして、私は鈴蘭。どうぞお見知り置きを。」
少女は軽く怪物に一礼した。そして少女は優しくそれに笑いかけて一言だけ、
「では、依頼をどうぞ。」
「どんな屈強な戦士が来るかと思えば」
怪物はニヤニヤとその顔に笑みを浮かべると、黒い体を震わせて、ぐっと少女に顔を近づけた。
息がかかる距離だ。
「これはこれは、なんとも可愛いお嬢さんじゃあないか。」
怪物は少女をバカにした態度を隠さない。露骨な表情で、その醜い顔を更に歪めた。
頭からつま先までじろじろこちらを見る怪物に、鈴蘭は舌打ちで返した。
「さすがにその態度は腹立ちますよねぇ?そのご立派なツノ、落としてやりましょうか?……高く売れそうですし。」
冗談を冗談と思わせない目付き、鈴蘭はさぞお怒りのようだ。
それを察知した怪物は、さっと身を引いた。これ以上からかうと、この少女は体格差なんて気にもせず、本気でツノを落としにかかる。
「……では依頼の内容を」