表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下少女と。  作者: 相川宗次郎
1/1

一話

受験の合間に書いていた小説です。

終わりまでの構想は出来ていますが、肉付けが下手なので投稿頻度は遅くなります。

湿った壁が周りを囲んでいる。それによって作られた少し湿った空気はその部屋の真ん中に居る少女の机に張り付いては水滴と化す。

机の前の少女はただ手を動かす。

何時間経っただろうかなどと野暮なことは考えない。ただひたすらに目の前の自分への課題を解く他なかった。彼女には、その必要があった。そうしなければいけない、必要が。


永遠に思える無音の中にいる。用無しになったそれは既に意識の外。

何時間かの自分と、知識を潰していき、必要なものは残していく。


無心で曝け出した。


***

場所は変わって深夜の都心、ではなくその郊外。眠らないらしいこの街の天高くそびえ立った高層ビルは視界の端に、他国から忘れられた古びたビル郡は再開発が急ピッチで進んでいる。


聞く所によると、何年後かに先進国による首脳会議が開催されることが決まったらしい

この国独自の伝統的建造物とかいうものはここ都心にも昔にはあったらしいが今は人の振興は放っておいて政府の自己満足に巻き込まれ、静かに振興されてるそうだ。

1か月前あったものが無くなっている。そんなタイムリーな国でまだギリギリその存在を保てている、築30年の雑居ビルの一フロア。

ドアの横に『株式会社SACK』と書かれたその中の3人は、虫の息だった。


新設の企業には金がない。銀行で借りるのも一つの手だが、というかほとんどそうしてるんだろうけど、俺みたいな小心者は失敗した時の事を考えると胃が痛くなってくるので、思い切ったことができない。

だから、できるだけ金を掛けたくない。それの結果がこれだ。

机が三つ固まって置いていて、壁側の棚にはまだまだ使いこんでもいないプログラミング用の辞書や自己啓発本らしきものが並べられている。

隙を与えるまもなくディスプレイには黒の背景で白の文字が淡々と羅列され、全員が慣れた手つきでディスプレイの仕様書を片目に、キーボードを打っている。


「あっちぃ…………」


肘をつき、落ちる汗をキーボードにかからないように額に手を置き、俺はそう漏らした。

他の三つとは距離を開け、少し大きい机に座っていた。

それを聞いたうちのひとり、黒縁メガネをかけ、目の下にひっそりと隈を抱えた女性は机の横に置いてある麦茶の蓋を開け、一気に飲み干した。


「社長……ただでさえ言われなくても暑いのに追い打ちのように暑い暑い言わないでください。」

「いやぁ、すまんすまん。」

口ではあんなこと言っているが、つまり「静かにしろよ」この一言に全てが入っている。

俺たち三人は大学二年で通っていた大学を休学し、IT企業を設立した。

高校の時からネットで有志を集めてプログラミングなんかで遊んでいて、作品を一つ二つと世に出していた。

そのとき三人は現実での関わりが有り、他の何人かの有志は「作品の出来次第で支払う」という名目でTW○tterを通して集めた。


その時関わった「syousei001」という方(自分では社会人と言っていたが本当のところは分からない。)に勧められ、三人の同級生と共に企業を設立した。

ショートヘアーでブルーライトカット付きの黒縁眼鏡を掛け、目の下に軽い隈ができている彼女、絡繰坂伊織(からくりざかいおり)は小学生からの付き合いのある友人の一人だ。同じ年齢なのに何故敬語なのかというと仲が悪いだとか付き合っている奴がいるとかそういう理由ではなくただ社長と部下だから、というそれだけの理由だ。

昔、普通に話していいよと言ったが、私たち以外の部下が入ってきたとき社長の威厳が無いのは困るからだそうだ。社長という職への配慮なんかもあるかも知れない。知らんけど。


だけど、形式的な物でもあるし正直彼女以外敬語使う奴はいないので陳腐なものになっているのは致し方ない。

しかも帰宅するときは普通の話し言葉で話す。本当にただの形式だ。

彼女は暑いところが嫌いなようで机の横には冷感シート、麦茶、冷蔵庫が完備されていた。それもそのはず、今年の夏は熱帯夜だそうで昼でも夜でも関係なく永遠と暑い日は続くらしい。

タイミングの悪いことそんな季節にに空調無整備という現代の社会では信じられない建物にテナントを構えることになった今をときめく新設企業『SACK』は越して1ヶ月目、最大といってもいい危機に瀕していた。


「というか、ここに空調が元々空調がないのはわかりましたから、ここだけでも空調付けませんか?ここに


ある機械も熱と湿気でいつ壊れるかわからないじゃないですか。」

そう、熱帯夜の最大の問題点は「湿気」だ。繊細な機械であるから中に水滴が入った日には壊れるだけじゃ飽き足らず、文字通り火を吹く可能性だってないわけではない。

現時点でもう部屋の床は滑りやすくなっていて、パソコンだって今に壊れるかも分からない。


「いやぁ、俺も少し、っていうか全然、っていうか生物としての存亡をかけてでもそうしたいんだけど……今の時期にそんなことやってたら、ただでさえ危ない納期が更に絶望的になるんだよなぁ……」

だけど、新設のIT企業にとって何回目であっても仕事の納期は最優先事項だ。プログラミングとなると、そのプロジェクトの根幹を担うものであることは周知の事実で、どれくらい早く済ませ、確実に高い品質の品物が提供できるかはそのまま企業のイメージに関わってくる。


だから、普通は仕事を受けた日から急ピッチで進めつつ、全員での不備がないかのチェックを入れて相手との交渉次第ではあるが、納期の一週間前には終わらせておくのが普通とされている、らしい。

俺たちもその方式で進めていたんだが……


「というか、納期云々とかほざ……言ってますけど、期日まで半分切ってからパソコンすべてぶっ壊して私たちの苦労を水泡に帰したのはどこの誰でしたっけね」


その通り、コーヒー持って歩いてきたところ、コードに足を引っ掛けて部下のパソコンにスパーキング。

仕事のデータどころか個人の設定まで全てが消え、社長なのに部下三人から修羅のように怒られた。

当たり前だけど。


「ごめんって。」


相手の方向には目も呉れず、手を動かしながら謝罪を伝える。


「というか、ここのテナントにしたのってなんか理由あるんですか?私たちそれぞれのの家からちかいからとか?」

「いや……あるところにはもうちょっといいところもあるにはあったんだけど……」

「じゃあなんで」


絡繰坂は眠たいのか、半目でこちらを覗きこむ。


「……賃貸料が安い」

「……チッ」


今この子舌打ちしたよね?

でもこのテナント空調以外の整備は整っていて、休息室、喫煙室、料理場、居間が揃っている。

しかもこのとおり職場で生活することも視野に入れてある。

「おいてめえら、口動かすのは大概にして手動かせよ手」


手に持っていたエナジードリンクを一気飲みし、同じくうっすらと隈ができた眼鏡姿で黒髪ロングの女性が女性とは思えない言葉遣いと眼光で睨んでくる字面だけ見れば完全に輩だが彼女、明塚冬子《あきつかとうこ》」も俺らと同じ年齢だ。


彼女は中学の時から絡繰坂と振興があり最初の頃、俺は完全に蚊帳の外だった。

が、高校になり一緒に仕事をしていくうちに段々と遠慮がなくなっていき、最終的にこの形に落ち着いた。

見てくれは悪くないんだが、性格に問題があるタイプの人間だ。


「へいへい……ってか冬子さんさっきもエナドリ飲んでませんでした?何本目ですか?」

「あ?……出勤してから10本目だけど?」


淡々と明塚はそう告げる。

フロアの壁に下げられている時計を見つめると、針は午前1時30分を指していた。

明塚をもう一度見てみるとすでにこっちは放置して、仕事をするときの虚ろな目で淡々とキーボードを打っていた。


「マジでそろそろ死にますよ……?休憩挟んだほうがいいですって」

「いやぁ、まだいいまだいい。」


言葉で入っているが目は少し焦点がずれていて、完全にこちらを向いていなかった。


「いやまじでここいらで一旦休んでください。あっちに休息室ありますからそこで寝ててください。あとは俺らがやっときますから。」


絡繰坂が信じれないものを見るように俺を見てくる気がするが、気にしない。

実際残っている仕事も三分の二が終わっている。納期まで10日を切ってはいるが終わらない量じゃない。何か不祥事がない限り遅れることはないだろう。極論、送れなければいい話なのだ。


「おぉ……そこまで言うなら休むか……じゃ、あとは頼んだぞぉ……」

明塚はあっさりと休憩を受け入れて覚束無い足取りで休息室へと向かう。


遠ざかっていく明塚との距離が広がると同時に絡繰坂は絶望の淵に立ったような顔で再びパソコンに向かっていった。


「じゃあ、俺らは俺らでやりますか。」

「……そうだね」


あっ、配慮無くなった。

***

溶け込むように寝ていた明塚は目覚ましとしてかけていた携帯のアラーム音で目が覚めた。

「んっ…………あれ?」

明塚が起き携帯を見ると一時間だけと思って就寝した午前三時はとうの昔に過ぎ去って、午前六時を指していた。

かかっていた布団を蹴って飛び出し、持って来ていた仕事用の白いシャツに身を包み、フロアの方へ小走りで向かう。

「皆、ごめん!完全に寝過ご……」


いつもの適当な男口調をやめ、謝罪の意を持って敬語にしようとする。

しかし、そこにはスリープモードになったパソコンとその前で一様に睡魔に負け、撃沈した社長と部下の姿があった。

明塚は顎に手を置き少しの間考えると、再び休息室の扉を開けた。


***

時間は過ぎていき、短針は午前7時を指している。

「ふぁーあ……よく寝た」

「キーボード叩きながら落ちてたから背中のこりが尋常じゃないけどね」

土曜の朝、昨日の人知を超えた残業の日々は終わり、週休二日制の優良企業に平穏な朝が訪れる。

絡繰坂は平日はあんな感じだが休日になると普通の口調に戻る。

本人曰く休みの日くらいは無礼講だか何だか言っていた。都合のいい野郎だ。

……ん?今日も午前1時には働いてたって?

うちの会社は業界時間準拠なので一日29時まである計算なのです。とんでもないブラックですね、えぇ。

残業のある日は終電を優に超え、寧ろ始発まで伸びるのである程度の生活用品は持参している。

「あぁー、こうちゃん朝飯かってきてぇー。」

「うげぇ、めんどい。」

あ、俺、高坂康也(こうさかこうや)です。以後よろしく。

朝飯は大体俺が買う羽目になる。明塚は基本午後にならないと起きないので、朝飯は俺とこいつのふたり分で事足りる。

断っても行きそうにないし、行かなかったら朝飯を食わなそうなので、結局のところ俺が行く羽目に。

「んじゃあ行ってくるわ。何がいい?」

「あー、じゃあビー」

「ざけんな!行ってきます!」

「はいよぉー」

朝は面倒だ。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ