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なろう初投稿です。よろしくお願いします。

 その村はごく新しい村だった。森を(ひら)き田畑を開墾するための拠点として作られ、集落の形をなしたのはたかだか十数年前のことである。

 村人が入ってきた南面と、東西にいくらかの畑ができた。北に開墾の手を伸ばそうとした頃に、それは起こった。


 その日はよく晴れていた。幾人もの村人が北の森に入り、斧を振るう。空を見上げることもなく仕事に打ち込む彼らは、空に広がる黒い雲にも気づかない。

 ぽたりと、水滴が落ちた。と思う間に、あっという間に激しい雨が降り始める。雨具など持っていなかった村人たちは、慌てて近くの木に駆け寄った。ゴロゴロと、不穏な低い音が聞こえていた。

 一際大きな音とともに、真っ白な光に包まれる。そのことを正確に感知できた者は、どれほどいただろうか。近くに落ちた雷は、けれども幸いに、誰の犠牲も伴わなかった。けれど動転した村人たちはめちゃくちゃに逃げ回り、そして偶然に、森の奥の古びた堂を見つけたのだった。

 中に何者かいるなどと、そんなことを思った者は誰一人としていなかった。人が住んでいれば村に降りてこないはずがない。けれど森から人が来たことなど一度もなくて、だからその粗末な格子戸に何の疑いもなくすがりついたのだ。

 格子戸の向こう、闇の中で何かが動いたように思って、村人は動きを止めた。その直後、強い光が辺りを包む。格子戸の向こうの闇を照らした一瞬の光の中に、うずくまる大柄な何者かの姿が浮かび上がった。遅れて轟音が響き渡る。すぐに闇と静けさの戻ったそこで、ギィ、ギィ、と足音が近づいてくるのが聞こえた。村人はもう誰も、格子戸に手をかけてはいない。こわごわと後退る彼らは、またも降り注いだ強い光で、格子戸のすぐ内側からこちらを睨みつける異形の姿を確かに見たのだった。


 北の森に入った者たちが豪雨の中逃げ帰ってきたその日の夜のことである。雨はすっかり止んで、さえざえとした月の光が小さな家々を照らしていた。

 そんな村の片隅、一つだけ光の漏れる家がある。周りの家に比べれば多少大きいものの、それでも十数人入るのがやっとの広さであるその家の中に、村の男たちが集っていた。

「森の中の堂について、何か知っておる者はいるか」

 殊更に低く掠れた声で、村の顔役を務める男がまず尋ねた。視線を受けた男たちは数瞬黙りこむ。誰が口を開くか、様子を見ているようでもあった。

「……ずいぶんと古いものに見えた。たぶん、村ができてから作られたもんじゃねえ」

 思い切ったように、一人の男が口を開く。その様子に首を傾げて、森に入らなかった一人が口を開く。

「じゃが、森の中なら直しゃ便利だろう。今日のようなときにだって」

「あそこにはバケモノが棲んでる。……近づいちゃなんねぇ」

 遮るように男が口を挟んだ。自分が口にした言葉にすら怯えるようにその身を抱き締める。

「どんな化物じゃ」

 顔役が尋ねると、今度は次々に答える声が上がった。

「体中毛むくじゃらで、大きな眼を爛々と光らせとった」

「ああ、その目は血のように赤かった」

「見上げるほどに大きくて、真っ黒で」

「くわっと開いた口にゃあ鋭い牙があった」

「こっちをそりゃあ恐ろしい顔で睨みつけてきてなぁ」

 その化物を見た者は思い出して身震いをした。見ていない者も、恐ろしげなその様子に震え上がった。そこへ、でも、と若い男の声が響く。

「今までなんにもなかったんだ。近づきさえしなきゃいいんだろう? あっちの森には入らないようにして、そうっとしときゃあ害はねえんじゃ」

 駄目だ、と声が上がる。

「今はそうでも、いつ襲ってくるかわかりゃしねえ」

 皆は顔を見合わせる。一人がこわごわと口を開いた。

「ならば、討伐するかい?」

「一匹なら、束になって掛かりゃあどうにかなるかもしれんが、人死は避けられまい」

「うちは子供が生まれたばっかりなんだ、死ぬわけにはいかねぇ」

「いま人手が減ったら収穫にだって差し支える」

 次々に上がる声に、皆が頷く。ではどうするかと考えこんで、しばしの沈黙が場に降りた。

「……(にえ)を捧げちゃあどうだろうか」

 呟くように落とされた言葉は、静かな部屋にやけに大きく響いた。面々は顔を見合わせて、そうして示し合わせたかのようにある一方を見る。壁を透かして、ある一軒家を見つめるように。

 その中でただ一人、遅れて皆の視線を追った若い男が焦ったように立ち上がる。待て、と言ったその声は、あまりにあっさりと黙殺された。

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