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酒場にて ~絡まれたアニー~

「こんなものしか出来ないけどね」

 マスターはパスタと肉料理を出してくれた。『こんなもの』とマスターは言うが、旅用の携行食や、湖で捕った魚と比べればご馳走だ。美味しそうに食べるアニーをアズウェルは酒を飲みながら見ている。


「ところでお前さん達、サルムーンの町へ行くのかい?」

 サルムーンとはアニーの住む町の名だ。しかし、山を越えると言うだけで何故マスターはその名を口にしたのだろう? 山の向こうに町はいくらでもあるし、サルムーンにはこれと言った名所旧跡も無いのに。


「サルムーンがどうかしたのかい?」

 不思議に思ったアズウェルが聞くと、マスターは信じられない言葉を口にした。


「竜が出たらしいよ」


 アズウェルの顔が引きつった。


「何時だ?」


「ほんの二、三日前だって話だ。竜が飛んできて、町の外れに降りたって話だ」


――アレックスの事だ


 アニーは直感した。人目を忍んで夜の闇に紛れて飛んでいたのに、月明かりで人に見られてしまっていたのだ。


「これからあの町も賑やかになるな。竜を倒して一旗揚げようって冒険者でな」


 マスターはタバコに火を点け、煙を吐き出した。


「どうしよう……アレックスが……」


 アニーは小さな声でアズウェルに囁いた。


「心配しなくても大丈夫だよ」


 アズウェルは笑って答えた。大丈夫だと言う理由は口にしないが、不思議な事に彼の顔を見ていると、本当に大丈夫な様に思えて来る。恐らくアレックスはアニーを送る為にサルムーンに行っただけで、もう行く事は無いのだろう。そう考えるとアニーは気が楽になった。


「しかし、未だに竜を倒して名を上げようなんてヤツが居るんだからな」


 アズウェルが困った様に言うとマスターは意外そうな顔をした。


「お前さん達も竜を倒しにサルムーンに行くんじゃ無かったのかい?」


「俺は冒険者なんかじゃ無いよ。しがない狩人さ」


 笑いながら言うアズウェル。すると勢いよくドアが開き、五人の男達が店に入ってきた。それぞれ剣や槍を携えている。彼等はテーブルに陣取ると、「酒だ酒だ!」と口々に喚いた。


「酒ったって、色々種類があるのにな」


 アズウェルが小声でマスターに耳打ちすると、一人の男が席を立ち、カウンターに近付いてきた。あんな小さな囁きが聞こえたのか? なんという聴力! 一瞬舌を巻いたアズウェルだったが、どうやらそうでは無かった様だ。男はアズウェルにでは無く、アニーの隣に座ると、ねちっこい目で彼女を舐め回す様に見ると下品な事を言い出した。


「お嬢ちゃん、かわいいなぁ。どうだ? 後で俺と……」


 むさい男に絡まれて、怯えるアニーを助ける様にマスターが割って入ろうとするが、男は聞く耳を持とうとしない。それどころか「引っ込んどけ」とまで言い出す始末。アニーがアズウェルの袖をぎゅっと掴んだ時、静観していたアズウェルがやっと口を開いた。


「連れがいる女の子に絡むなんて、行儀が良くないんじゃないか?」


 威嚇する事も無く、淡々とした口調。男はそれをアズウェルがビビっていると思い込み、図に乗って来た。


「おいおい兄ちゃん、お前がこの女の連れだったのはさっきまでだ。今からは俺がこの女の連れだからよ」


 訳の分からないことを言い出し、アニーの腕に手を回すと引っ張る様に席を立たせようとした。何と言うか、見事なまでの典型的ならず者の振舞いである。


「いやっ、助けてアズウェル!」


 遂にアニーが泣きそうな声を上げた。その途端、アズウェルの態度が一変した。男の手を掴むとドスの効いた声で男に向かって一喝したのだ。


「おい、嫌がってんだろうが。てめぇ、いい加減にしとけよ」


 それを聞いて、テーブルに残っていた四人の男達が一斉にいきり立った。


「なんだとコラ」

「てめぇ、この人数とやろうってのか?」


 もともとちょっかいをかけてきたのは自分の連れだという事を棚に上げて口々に吠える男達。剣に手をかけている者までいる。しかしアズウェルは焦る事も無く、溜息混じりに呟いた。


「やれやれ……こんなシーン見せるのって、教育上良くないんだけどな。まあ、酒場に連れて来たのがそもそも間違いだったんだろうな。でも、他に店無かったもん、しょうがないよな」


「何ブツブツ言ってやがる!」


 剣に手をかけていた男が剣を抜き、切っ先をアズウェルに突き付けた。


「どうだ? これでもまだ余裕こいてられんのか?」


 普通の人間なら、これでビビッてしまうことだろう。しかしアズウェルは平然と突き付けられた剣を無造作に掴んだ。山で山賊と対峙した時の様に。

 剣を掴まれた男は当然の様に剣を引こうとするが、微動だにすることが出来ない。これまた山賊の時と同じである。となるとアズウェルはこの後挑発に出るのだろうか? だが、今回は違った。と言うより、男達の方がある事に気付いたのだった。


「そう言えばコイツの顔、見覚えあるぜ……」

「俺もだ。ドコで見たんだっけ?」

「ああっ!」


 どうやら一人の男が思い出した様だ。彼等はアズウェルが三人の山賊の後を睨みを効かせながら歩いているのを見たのだった。相手は三人とやりあって屈服させた実績を持つ男。五対一とは言え、やりあったら無傷というわけにはいかないかもしれない。


「兄さん、連れが面倒をかけて悪かったな。どうだろう、ここは一つ俺の顔を立てて勘弁してやってくれないか?」


 五人のリーダー格の男がアズウェルに和議を申し入れてきた。


「だとさ。どうする、アニー?」


 アズウェルがアニーに尋ねると、リーダー格の男も猫撫で声を出す。


「お嬢ちゃん、怖い思いさせて悪かったな。コイツには良く言っとくから、機嫌直してくれよ」


「アズウェルが良いって言うんだったら……」


 アニーの言葉にほっとした様子のリーダー格の男はアズウェルに右手を差し出した。

「決まった、手打ちといこうじゃないか。勘定は俺が持つから何でも注文してくれ」


 勝ち目が薄い相手には喧嘩を売らない。せこい様だが生き残る為には一番確実な方法である。ともかく若いしたアズウェルと五人の男達はグラスを合わせ、酒を酌み交わし始めた。


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