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華と花の散るところ  作者: 音の葉
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 ヨウヤが仕事に向かい、シオンもまた朝のやるべき仕事を済ませていった。

 そしてすべてが終わってしまうと、シオンは暇をもてあました。


 セイショウは皇后からの処分が下されるまで自宅謹慎であった。そのため講義に行くこともない。そうなるとシオンもその準備の必要がなく、ヤオと二人ぼんやりと窓の外を眺めていた。


 すると突然女官を何人か引き連れた男の子が、こちらに向かってくるのが見えた。一人の女官が甲斐甲斐しくその子の手をとり道案内をしているようであった。



「こんにちは!こちらはセイショウの家ですね?」


 あまりに明るく少年が入って来たため、シオンは唖然とした。


「こちらは第四皇子のリレン様でございます。セイショウ様はいらっしゃいますか」


 リレンの横にいた女官が慌てて説明をする。


 セイショウは今日も朝から部屋に籠っていた。しかしさすがにリレンの大きな声はセイショウにも届いたようだった。驚いた顔をして部屋から出て来た。


「ご機嫌よう。リレン様。ようこそお出でくださいました」


 セイショウは丁寧に挨拶をした。シオンもヤオも慌ててお辞儀をする。


 するとリレンは隣の女官に、ここで大丈夫だから三刻ほどしたら迎えに来て、と言った。そして前に向けて手を差し出した。


 シオンにどういうことかわからなかった。しかしセイショウは急いでその手を取ると、こちらにと言って奥の部屋へと案内をした。


「セイショウの家は結構遠いですね。僕はカナリが道を間違えたのかと思いました。あ、カナリというのはさっきの女官のことですが」


 屈託なくリレンの話す声が奥の部屋から聞こえてくる。


 シオンはリレンに続いて部屋へと入っていった。


 リレンが長椅子に座るとき、シオンはやっと意味を理解した。リレンはどうやら目が不自由なようだった。


「突然来たけど、お構いなく。あ、でもお茶を一杯だけください。ちょっとのどが渇いちゃったので」


 シオンはそれを聞いて急いで準備をするため、部屋を出て行こうとした。その時戸口でヤオとすれ違った。


「あの、リレン様、今そちらの女官からこれを預かりましたが、これはどう致しますか?」


 ヤオは大きくて重そうな重箱のようなものを抱えていた。


「ああ、そうだった。それはあとで出そうと思ってたんだ。僕の隣に置いてくれる?」


 シオンはその箱のことが気になった。しかしまずお茶の準備をしなければならない。急いで部屋を後にした。



「改めて……はじめまして、セイショウ。僕はリレンと言います。今日はちょっと遊びに来てみたんですが」




 シオンはお茶の準備をしながら考えていた。一体第四皇子がセイショウに何の用事があってきたのだろう?


 シオンは宴の席で確かに皇子の席にリレンが座っていたのを思い出す。とは言え、シオンのいた所からはかなり遠い場所に席はあった。そのため皇子の姿はあまりよく見えてなかった。それにあの時はセイショウのことばかり気に留めていた。周りをほとんど見ていなかったというのもある。


 リレンは確か今年で十五になるはずだった。しかし、今見た限りでは小柄で十二歳くらいの少年にしか見えない。

 リコウと同じ母を持つ兄弟だというのはシオンにも納得できた。リコウと全く同じ美しい黒髪に黒い瞳の持ち主だった。

 ただ、少しリレンは目が不自由のようだ。これはシオンも今日まで全く知らなかったことであった。


 それにこの第四皇子は殆ど公の場に出て来たことはないと聞いていた。この前の宴は特別なお祝いなので出席していたのも不思議ではない。しかし個人的にセイショウに会いにくるなど想像もできないことだ。



 シオンがお茶を運んで行くと、リレンはそれを待っていたようだった。


 セイショウの前にシオンはお茶の道具を一式置いた。セイショウは丁寧にリレンのためにお茶を入れた。


「ここに置いてくれれば大丈夫だから」


 リレンは目の前の卓を指でさし、そこにお茶を置くように頼んだ。


「僕は目が見えないけど、完全にってわけじゃないんだよ。光とかはわかる。それに、よくは見えなくたって大体のことはわかるんだ。ここに卓があってその上に今お茶を置いてくれたとか」


 そうリレンは頬笑みながら話し、お茶をおいしそうに飲んだ。


「それでどうして今日ここに訪ねて来たかって言うと、セイショウの琴をもう一度聞きたかったから。今朝リコウに話してみたんだ。もう一度あの琴の音が聞きたいって。そうしたら、今日は一日ずっと家にいるはずだから訪ねてみたらって言われてね。それで早速来てみたってわけ」


 シオンはリレンの話に少し気になるところがあった。まず、兄とは言え、リレンがずいぶん歳の離れたリコウのことを呼び捨てで呼んでいたことだ。シオンもセイショウのことを呼び捨てだが、皇族などはそういう上下関係が厳しいと思い込んでいた。

 それからセイショウはずっと家にいるとリコウが話をしたことだ。それは皇后が外出禁止を言い渡したことを知っていて言ったことなのだろうか。


 セイショウはリレンの話を聞いてそれに答えた。


「リレン様、わざわざこんな遠くまで、リレン様に足を運んでいただけたのは、大変うれしく思っております。ですが、わたしの琴は訳ありですから。『青琴の君』だと宴で大騒ぎだったのをご存じでしょう」


「もちろんあの時皆が『青琴の君』と騒いでいたのは知っているよ。でも僕は目が見えない。だからあの時青い光を見ることはなかったんだ。セイショウの琴の美しい音色だけを聞き入っていたんだよ」


「『青琴の君』の琴は青い光を見るかどうかは関係ありません。そのような者は周りの人を不幸にするのが問題なのです」


 セイショウは寂しそうにそう返した。


「それなら全く問題はない話だよ。それはどういうことかって思う?」


 リレンはセイショウの方に顔を向けて静かに話した。


「僕は迷信みたいな『青琴の君』よりずっとずっと……周りの人を不幸にして、これまで生きてきたからってこと」


 リレンは驚くようなことをあまりにもさらりと言った。


「ま、その話は後でもいい。今日はセイショウに喜んでもらおうとお土産をもってきたんだよ。このお土産に満足したら、あの素敵な琴の音を僕に聞かせてもらいたいな」


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