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華と花の散るところ  作者: 音の葉
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 左大臣の娘リンカは宴の準備に忙しかった。結局、妃候補者達が何を披露するのか調べた結果、舞を踊る候補が少ないということがわかった。


 リンカはそこで、舞にすることに決めた。特に秀でている芸がないのだから仕方がない。


 それに舞を選ぶのには他にもいい点がある。衣装だ。楽器の演奏のようなものなら、通常座って静かにお披露目することになる。そのため衣装に関心がいくことがあまりない。

それに比べ舞ならば舞台で色々と動きがある。ということは、衣装の良し悪しで他の者と大きく差をつけることもできるかもしれない。

 父に頼めば相当高価なものでも用意してくれるはずであった。金糸を多用し、絹を多く使った贅沢な衣装を作ってもらえばいい。リンカ以上に豪華な衣装を用意できる妃候補は数少ない。まして、同じ舞をわざわざ選択し、リンカと張り合う勇気ある妃候補などまずいないはずであった。

 

 ところが、ここまで決めてひとつ重大な問題が発覚した。今回の宴でよりにもよってキリンと同じ舞を選んでいたことがわかったのだ。しかもキリンは『桜の精』という舞でもかなり難しいと言われる演目を披露すると言う。

 どれほど素晴らしい衣装に身を纏ったところで、キリンが『桜の精』を宴で披露すれば、リンカはどんな演目を披露しようともキリンの引き立て役以外の何者でもなくなってしまうのは確実だった。

キリンを陥れるのは様子を見てからなどと呑気に思っていたリンカであったが、事は急を要する最重要事項へと変更を余議なくされた。この問題は多少危険を冒してもどうにかする必要があった。


 さて、どうしたらいいか……リンカにはひとつ思い浮かぶいい案があった。


 しかし、人を陥れるのは相当の危険が伴う大変なことだ。リンカ自らが手を下せば、足が付いた時に言い逃れができなくなってしまう。ここは人を使ってやらせるのが賢明だった。


 そしてリンカには思いあたる丁度いい人物がいた。お金を渡して彼女にやらせることにする。今さらできないなど断われるはずもない。今までもリンカからお金をもらって情報を逐一報告してきていたのだ。


 それは、キリン付きの女官の一人だった。



 リンカは密かにキリン付きの女官に指示を出したところで、少し安心していた。


 これで当初考えていた通り、キリンを陥れることができ、さらに舞では自分より注目される妃候補は現れないだろうと確信をもっていた。そのためリンカはそれ以上、他の妃候補達のことにはあまり注意を払ってはいなかった。


 ところが宴まで一週間を切ったある日、突然実家からリンカ宛に一通の文が届けられた。しかもその文は表の正規経路ではなく闇経路からのものであった。


 リンカは実家とのやりとりを正規経路の文と闇経路の文と二重類を使い分けていた。後宮から出される文もまた受ける文にも、必ず検閲が入るのは常識だ。

 そのため、お互いの息災を確認し合ったり、何かの品物を送ってもらうのを依頼するような内容の時はきちんと正式に手紙を書き、正規の経路を通して送っていた。

 しかし、人の目に触れてはいけない危険な内容の行き来には女官や、宦官、時に出入りの業者などを巧みに使ってやりとりを交わしていたのだ。


 闇経路の文が手元に届いたことでリンカは一体何事かと緊張した。


 中を広げて読んでみるとなかなか興味深い内容で、リンカはこの事実をどう受け止めるか思案した。


 それはセイショウに関する内容だった。


 リンカの実家はリンカの競争相手となる妃候補者達に、何か秘密や落ち度はないか密かに調べていた。

 そうは言っても妃候補者達は皆、都に住む良家の娘達であり、親戚も含めた父親同士が顔見知りで、仕事上の競争相手であることも多かったので新しく何か発見することなどほとんどなかった。


 しかし都から遠く離れた辺境の街から来たセイショウのことは、そもそもリンカの実家では全く情報がなかった。そこで使いを送りセイショウを調べさせたのだが、興味深いことがひとつだけあったというのだ。


 それはセイショウが琴の名手であるという人々の認識と、それなのに弾いているところを街の誰も見たことないようだという事実だった。


 リンカはここまで文を読んで、一体どんな謎かけなのかと頭をひねった。


 さらに読み進めて行くと、セイショウの実家からはよく琴の音が聞こえていたという。しかもその音色は他では聞いたことがないほど美しかったと街の人々は話す。

 県令の家には娘が二人いて、一人は姉のセイショウ、もう一人は妹のシオン。

 姉のセイショウは何でもこなす優秀な娘であったが、妹のシオンの方は琴をそんなに上手に弾けるような娘ではなかったと街の人々は口ぐちに言っているというのである。


 リンカは後宮内でセイショウの後を付いて歩くシオンの姿をよく見かけていた。シオンがセイショウの妹であるというのはどこかからの話で耳にはしていた。セイショウとは違ってごく普通の容姿と雰囲気で、セイショウとはとても姉妹とは思えないほど庶民的な娘に見えた。


 でも、もしかしたら……その街の人達もリンカ自身も思い込みで勘違いをしているのかもしれない。


 リンカは本当はシオンという妹の方が琴の名手なのかもしれないと仮定してみた。

 姉妹の親は見た目も美しいセイショウを良家に嫁がせようと考えていた。そこで妹が弾く琴をいかにも姉が弾いているかのように仕立てていたのかもしれない。

 さらに今回の宴でセイショウが披露するもののことを考えてみた。確か情報によるとセイショウは二胡を弾くと聞いた気がする。


 この重要な皇太子の誕生日の祝いの宴で、本当にセイショウが琴の名手なら琴でなく二胡など弾くであろうか。


 これは面白い情報を得たとリンカは喜んだ。


 これならリンカは全く苦労することなく、セイショウも陥れることができそうだった。


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