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華と花の散るところ  作者: 音の葉
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 左大臣の娘リンカは、このところ自分のところへケイキの足が遠のいている事に苛立っていた。

 その原因として女官から赤毛の娘キリンの家にケイキが続けて訪れていると報告を受けた時には、怒りで頭がいっぱいになった。


 さらに先日の生け花の講義に思いがけず皇后が現れた時には、キリンを貶める絶好の機会だと喜んだものの、セイショウのおかげで難なくキリンは窮地を乗り切ることができてしまった。

 リンカはそのことを思い出すだけで悔しさで胃がキリキリと痛んだ。


 暫くリンカは家の中で何をするでもなく、苛々としながら部屋を行ったり来たりしていると、突然とても興味深い通達が届けられた。



 それは驚くことに皇帝自らの通達であった。

 美しい蒔絵の施された状箱を受け取った時にはさすがのリンカもかなり緊張をしたが、箱を開けて手紙を読むと、これはと思って気分が急激に良くなった。


 そこには皇帝自らが近々皇太子の誕生日の祝いの宴を開くと書かれていた。

 これは少し異例のことである。皇帝自身の誕生日であれば、当然臣下一同を挙げて盛大に宴を開くというのは常である。後宮の女性達も皇后を筆頭に次妃達が全員出席するのは言うまでもない。皇太子を始め王子達、皇女、王女も参加する。さらに皇太子妃候補者達も花を添えるため全員出席することになる。

 しかし皇太子の誕生日ということだとそう言った話は聞いたことない。もちろん誕生日を祝う宴は開かれる。その際主催者の名は皇后であることが今までの慣例であった。宴の規模も皇帝に比べれば圧倒的に小さなものになる。それが今回の宴には妃候補者達が全員出席するのはもちろん、皇后や次妃達の他、王子達、皇女、王女、さらに驚くことに一部の皇帝の臣下たちも招待をすると言う。


 これは一体何を意味するのか。


 なかなか決まらない皇太子妃に皇帝が業を煮やしたのではないかとリンカは推測した。

 後宮でのことは皇后がすべての実権を握っている。そのため普段皇帝が皇太子妃候補のことで口を出すことなど全くない。

 しかし皇帝の名の元、皇太子の誕生日の宴を開き、そこで皇太子妃の候補者達をすべて集めれば、どの妃候補が皇太子に相応しいのか皇帝自らも自分の目で確かめることができる。まして有力な臣下達を集めてその前で妃候補者達を披露すれば、どの妃候補が最も相応しいのか臣下達にも納得させる絶好の機会となる。

 ここに皇太子の気持ちなどと言う甘いものは全く考慮されていないのは明らかであったが、皇太子妃というものは元来そういう者なのだろう。


 リンカはこの宴を絶好の機会と捉えた。

 早速、宴の時に着る豪華な着物や簪を考えなければならない。後宮からも恐らく絹や飾りなどはいくらか支給されるはずであった。しかしそのような物を身に纏っているようでは他の妃候補者達と同等の扱いになってしまう。

 着物の色は何色にしたらよいだろうか、描かれる柄は何が相応しいのか。簪などの宝飾品は今から作るのでは間に合わないかもしれない。母親の品から作り直した方がいいかもしれない。

 誰にも劣ることがないよう綿密に準備に取り掛からなければならない。父親に急ぎ文を出し、宴の準備に必要な絹や宝石の手配を頼まなければならない。もちろん父親の方でもこの宴には当然招待されているはずなので、必要なものはリンカからの依頼がなくても準備しているはずであった。


 ただひとつ重大な問題があった。その文には妃候補者達はそれぞれ、皇太子のために何か祝いを彩ることを披露するよう指示が付け加えられていた。宴の席ということを考えると、歌や舞、楽器の演奏といったものが披露するものになりそうであった。

 しかしリンカは特別得意なものを持っていなかった。どれも一通り習っているのでできることはできるが人と比べて優れているというものはない。対して妃候補者達は幼いことから高度な教育を受けている者がほとんどなので、何かしら得意なものはもっているはずであった。

 これから急ぎ何を披露するかを決めて練習を重ね、せめて他の妃候補者達と比べて恥ずかしくない程度には身につけなくてならない。そのために有名な先生を後宮に送ってもらえように父親に依頼することも書き加えよう。


 他にやらなければならないことは、他の妃候補者達を陥れることのできる弱点を見つけることだ。

 まず標的を決めなければならない。端にも棒にもかからないような妃候補は無視だ。

 ケイキに一歩近い危険な候補に絞らないと意味がない。

 リンカは考えを巡らした。政治的に圧倒的リンカと肩を並べる有力候補は右大臣の姪のイキョウだ。しかしイキョウはとても賢くてこの後宮のことを知りつくしている。リンカが何かするかもしれないと警戒をしている可能性もあった。さらに彼女の親の力は大したことないが、彼女の伯父の力は絶大だ。下手に手を出して陥れようとすれば、こちらが返り血を浴びる危険が十分にある。今回は妃の選定に切迫した状態という程でもないのだから標的とするのを見送るのが無難だった。

 となると今考えられるのはキリンだ。ケイキとの距離を縮める前に、この競争から降りてもらわなければ困る。さらにできれば、キリンの友人のセイショウも始末できれば最高だった。

 キリンへの弱点が見つかればそれに越したことはないが、キリンの父親も確か武官で高い地位にいたはずだ。もしリンカが陥れたなどということが発覚すれば大問題になってしまう。慎重に行動しないといけない。

 最悪キリンを陥れるいい方法が見つからなかった場合、この宴では最低限セイショウを陥れる必要はあった。セイショウが妃候補の競争から脱落すれば、ここ後宮でキリンには味方がいなくなることを意味し後宮での拠り所がなくなれば、自滅する可能性も大いにありえる。


 リンカは一通り考えをまとめると、父親へ依頼しなければならないことを書きだそうと書室へと向かい、紙と筆を文机の上に用意した。


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