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第二章

非戦闘章

 「……シミ一つ無い綺麗な天井だ」


 「起きて最初に言うのがそれかい」


 視界の端で安堵の表情を浮かべる友人の姿を確認し、バートはゆっくりと上体をもたげた。

 白い病室だった。右手に簡易机と窓、左手に軍属の旧友パトリック=ライボトニック(愛称.パット)が座っている。軍の病院を退院して以来の顔合わせがこういう形になるとは……。


 「久々、パット。元気そうだな」


 「何でまた病院で会うんだろうな、バート。おまけに結構な負傷しやがって」


 「鈍ってたかな。まぁ相手が悪かったのかも」


 「はぁ……。で、事件当時の覚えてること全部吐け」


 頭を捻りながら思い出せる限り全ての情報を伝えると、パットは難しい顔で口を開いた。


 「とりあえず警備につけた筋肉バカは処分するとして、変な訪問者か……。散弾を受けて消えた背広の男、黄色い雨合羽の女、そしてお前を撃った大柄な男。明日あたり似顔絵描いてもらって探してみるかな」


 「気を付けろよ。結構ヤバい連中かもしれん、ギャングとかマフィアとか」


 「……お前じゃあるまいし充分気を付けるわ。ただ近場の大きな組織は先日警察の特殊部隊が潰したばかりだから、他所の連中かも。女の所属は他2人とは違うと思うがどうだろうな」


 ひとしきり思考したところで腰を上げるパット。


 「兎にも角にもお前は怪我直せ。今回はこちらの落ち度だから入院費は持ってやる。だから何も心配せず大人しく寝てろ、OK?」


 「オーケーオーケー。あ、でも俺の店は……」


 「臨時休業の札掛けといた。一応まともな警備も派遣しておくから大丈夫だ。寝てろ」


 「あっはい」




 ――その夜。


 「眠れぬ」


 昼間散々寝ていたツケが回ってきたのか目が冴えて仕方がないバート。テレビも本も携帯の充電も無く、やることもまた無い。そっとベットを降り、病室のドアを押し開けると非常灯の灯る暗い廊下に出た。見える限り誰もいないようだ。


 「探索探索……」


 あまりに暇なのでうろついてみることにした。万が一見つかったらウォーターサーバー探していたと釈明しようかと考える。



 歩く内に気付いたが、各個室に人の気配が無い。入院しているのは自分だけなのだろうか。廊下は回の字に続いており、すぐに上下階へのらせん階段に行きつく。下を覗くも真っ暗で何も見えない。上は薄明かりが漏れ出ている。少し考えた末、階段を上がってみた。

 ひとつ上の階は薄ら赤い照明が並んでおり、おどろおどろしい印象を受けた。以前こういった趣のあるお化け屋敷に冷やかしで入ったことがあるが、予想外に怖かったのを思い出した。


 丁度階段の反対側に位置する個室のドアから光が差している。何気なく開けてみると、そこには


 「何をやってるんだお前は」


 書類の山を睨むパットがいた。内装は病室のそれではなく、資料室のようだ。


 「いやちょっと水飲みたくて。冷水機か自販機探してウロウロと」


 「基本的に地階か2階にしか無い。更に今はどちらも閉まっている。どうしても寝れんなら俺の後ろの机に置いてあるコーヒー勝手に淹れて飲んでくれ」


 「それ余計に寝れなくなりそうだな。まぁいいや、貰うわ」


 「おう飲め飲め。……ブラックオンリーだが」


 「苦ぇ」



 資料をめくり、ペンを走らせる音だけが聞こえる一室。不意にパットが口を開く。


 「なぁバート」


 苦みに顔をしかめたまま目線だけ向ける。


 「ここんとこあっちでもこっちでも妙な動きがあってな。ロスに配備されていた部隊が『襲撃があった』と報告した直後に誤報連絡が入ったり、ミズーリ支部のお偉いさんの顔ぶれが少しずつ入れ替わってたり、直近だとネバダで爆発事故が起こったり……」


 「最後のは単なる事故だろ?」


 「いや……負傷者ゼロ死傷者ゼロ、おまけに建物は全焼して瓦礫も残らねぇ。軍の記録にも登記簿にも何のデータも無い、正体不明の建築物がひとつ抹消された。職員の詳細も現在の所在も不明だ」


 「J-cys関連の証拠消し合戦勃発か?」

 

 「さぁな、分からん。黒い噂なんて巷にも溢れてるからな、闇に葬りたい証拠はそれこそいくらでもあるだろうさ……。あとは、そうさな……関係ないかもだがサウスカロライナの正教会が焼き討ちにあったらしい」


 「宗教戦争まで起きてんのかよ、世紀末だな」


 「そしてミズーリのセントルイスでは変死体が上がった」


 「やはり因縁の地はミズーリ州か……。俺の故郷の村はもう無いが、一度行ってみてもいいかもしれん。サムが目覚ましたら一緒に小旅行と洒落込むかね」


 「そんときゃ俺にひと声かけてくれ。軍の監視網からロストしたらえらいことになる」


 半眼で睨むパットに苦笑を返し、カップに残ったコーヒーを一気に呷る。


 「まー覚えてたら連絡するよ。俺はそろそろ戻るわ」


 「おーう」


 ひらひらと振られた手に返礼し、部屋をあとにした。



 ――数日後。

 完治してはいないもののもう動けるということで病室を追い出された。普段ならある程度抵抗するところだが、今回はライフルを手にした兵士にガン飛ばされていたため素直に引き下がらざるを得なかった。

 運が悪いのひと言である。


 幾らか振りに帰ってきた我が家は血痕や弾痕など欠片も残さず清掃されていた。レジの金も抜かれた様子は無し、奥の金庫もいじられた形跡無しで安心していたが、思わぬ伏兵が潜んでいたことにすぐに気付く。


 弾薬がほぼ全て湿気ていた。


 その晩、バートは泣いた。

四半期投稿とか無理ゲー

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