参観日…母の失禁
この小説には、失禁、暴言、格闘の模写があります。
「グツッ…グツッ…」鰹ダシの味噌汁のいい匂いがキッチンを包んでいる。その横では、まな板でオクラを刻む音。擦り下ろしたショウガに由美オリジナルのダシ醤油を加える。
「よし、できた。ヒロ君とアッ君起こさなきゃ」
藤沢由美27歳、168cmのスレンダー体型。美人だが、少し垂れた目に、二重瞼は愛嬌を感じさせる。
由美に起こされ、寝惚け眼で洗面所に行ったのは、彼女の夫・浩(30歳)と一人息子・小学2年生の明人である。「いただきま〜す」家族3人のいつもの風景だ。でも今日は由美と明人に少し緊張感がある。それもそのはず、今日は明人の通う小学校の参観日。午前中3、4時間目を使い、父兄参加型の工作の授業を行う。
由美は工作は余り得意ではなかったので、浩に、一緒に出て欲しいと頼んだが、月例会議があるので時間的に難しいとの事。由美だけで行く事になった。
「今日、大丈夫かなぁ。」不安そうに由美が言うと
「由美ちゃんは手先が器用だから、そう心配するなって」と浩はいつもの優しい口調でなだめる。
「お母さん、僕、工作得意だから心配いらないよ」明人の言葉に由美は少し気が楽になった。
「うんっ、足引っ張るような失敗しない様にするね」由美は可愛く笑った。しかし、この数時間後、工作とは違う、悲しい失敗をし、その可愛い笑顔が歪む事になるとは、誰も想像しえなかっただろう。食事が終わった。季節がら梨を出していたが、これは手付かずで残った。
「じゃ、行ってくるね」
「学校でね」
「ヒロ君、行ってらっしゃい、アッ君、後でね」由美は二人を送り出した。
由美は参観日という事で、会社に頼んで午後出社の許可を貰っている。学校からそのまま行ける様に、上下白のジャケットとパンツで行く事にしていた。シャワーを浴び、いつもの様に自然体で化粧を済ませた。
「まだ、時間があるな。あっ、梨食べなかったんだ、夜になったらシナッちゃうから、私が食べちゃお」一口食べた。
「あっ、美味しい」
水みずしく、サッパリした二十世紀梨に、由美の手は、二口、三口と止まらなくなり、一玉を平らげてしまった。
由美は梨の水分でお腹が一杯になった。
「ごちそうさま、あっ、そろそろ準備しなきゃ」
歯磨きを済ませ、鏡で最終確認をした。
「うん、大丈夫っ!!」
会社用のバックを持ち、部屋を出て、エレベーターに向かった。
由美達家族は35階建てマンションの30階に住んでいる。
浩の収入だけでもやり繰り出来るが、由美も外で働きたいという希望があり、またお互い、家事を分担しているので、今の生活環境を維持出来ている。出会いは由美が短大1年、浩が大学4年だった。結婚は由美が社会に出てすぐ、浩が2年目の時だった。美男、美女で優しい夫は一流大学卒で一流企業勤務、と周りが羨む夫婦だ。殆んど振動も無くエレベーターは一階に着いた。 小学校へは、子供の足で歩いて25分程。由美も歩いて行く。
18分程で小学校に着いた。明人の2年生の教室は一階だ。外の廊下には45人前後の父兄が待っていた。授業は二時間目が終わる少し前だった。由美もその端に並んだ。他の殆んどの母親が30代半ばなのに対し、27歳で更に3つ位若く見える由美は、際立って綺麗に見えた。
「キーンコーン」授業終了のチャイムが鳴ると、父兄達は教室に入り、事前のプリントに書かれていた通り、予め、後に用意してあったイスを手に取り、各々の子供の元に向かった。
「お母さんっ」
明人の声に由美はニッコリ笑って応えた。明人にとって綺麗で優しく、スタイルの良い母親は自慢だった。他の子も躊躇う事も無く口に出して
「明人のおばちゃん、綺麗だなぁ〜」
「いいなぁ〜」と、連発していた。
やがて授業開始のチャイムが鳴ると、担任の男性教諭・竹野から授業の説明があった。
「皆さん、こんチクワ!!」
「………」
スベッた!!
ものの見事にスベッた。溶け込もうとしたが逆に母親から
「はぁっ?、これだから、家でも子供が言う事聞かねぇんだよ」
「説明なんていいから、早く材料配れっ!!」
「テメエ、チクワの材料にするぞっ」母親からの罵声が飛交い
「わっ、分かりました」竹野は教材を前の席に人数分ずつ置いていった。
それぞれが作業に取り掛かった。
「お母さんっ、頑張ろうね」明人が由美に言った。だが由美は何か、考え事をしている感じで、答えなかった。それもそのはず。由美は急速に尿意を感じ始めていたのだ。
(どうしよっ、二時間も持たない。あっ、でも三時間目が終わったら休憩あるよね。それまでなんとか我慢しよ)「ねぇ、お母さん?」
「あっ、う、うん、最初は外の寸法を計るのかな」
「うん、そうだよ」
由美は他の人に分からない様に足をピタッと、閉じた。20分、30分と立ち、由美と明人は、協力しあって、外側、引き出しを作っていった。しかし、由美の尿意は急激に、膀胱、尿道口を圧迫していた。下半身の感覚が殆んど無くなった。休憩まで後、3分の時だった。
「あ〜〜〜っ、何やってるんですか〜」
担任の声が響いた。
(あ〜っ、出ちゃったんだ)
由美は足元をみた。
(濡れて…ない)
声の方を見た。
驚いた顔で、7、8組の親子を見る竹野。
その親子達は、この授業のテーマ
「引き出し付きの小物入れ」とは、似ても似つかぬ、円柱系のゴミ入れや、テレビのキャラクター人形を作っていた。
外見は綺麗な服と、厚めの化粧で飾っている母親達。しかしまた、竹野に対する、理不尽な反抗が始まった。
「うちの子がこのキャラクター好きなんじゃ。なんか文句あんのか」
「なんでテメエに指図されて、作りたくねえもの、作らなきゃなんねぇんだ。」
「やりたくもねえ事させられる子供が可哀想だ。なんならテメエの好きなチクワ型ゴミ箱作ったろか?あっ?」
その一帯は竹野に対する罵声で騒然となった。
「わっ、分かりました。それでは好きな物を作って下さい。」
竹野はその場を治めるため、仕方なく認めた。キーーンコーーン
その時、始業のチャイムが鳴った。由美は今の騒ぎでトイレに行く機会を失った。
「ねぇお母さん、僕も好きなキャラクターを作っていい?」
明人が遠慮気味に言った。
「世の中にはルールがあるのよ。好き勝手な事をやってると大人になって困るのよ。だから駄目よ…私も…もう駄目なの」
由美は悲しい表情で、言った。
「えっ!何が?」
明人は聞き返した。
「ううん、何でもないのよ」
(私はいい歳をした大人なんだ。絶対しない、おもらしなんて、しない…したくない)
由美は自分にいい聞かせた。しかし、もう限界だった。朝食後、食べた梨は、急激に膀胱へ尿を送り込んでいた。
(ここで粗相をしちゃって、あっ君がイジメられる事になったら可哀想)
由美は、恥ずかしかったが、担任の竹野の元に行った
「あの、すみません。トイレに行かせて下さい」
すると竹野は
「トイレは休み時間に済ませておくものでしょ?駄目です」
先程の凶暴な母親達に対する態度とは違う、強気な態度だ。竹野は大人しく、清楚な雰囲気の由美を泣かせてみたかった。女性に馬鹿にされ続け、40代に突入した恋愛経験のない竹野にとって、由美は、支配欲に駆られる妹的なタイプだった。
「分かりました」由美は一瞬、泣きそうな顔になった。それが更に竹野の感情を増幅させていった。
その声に周りの人達も由美が尿意を堪えている事に気が付いた。もう由美はじっとしてはいられなくなった。両足を交互に、上下へ揺り始めた。限界が近づいていた。
「ねぇ、お母さん、もう一度先生に頼んでみたら?」
「う、うん、でも…大丈夫、お母さんは大人だから」
由美はニコッと笑った。でも、口元は少しひきつり、目は悲しみと絶望を物語っていた。授業終了15分前に工作はようやく完成した。
「はいっ、それでは皆さんの作品を前に出て発表してもらいます。え〜では、まず富田さんの作品から」
母親と子供が前に出て作品を作る時の苦労等を語っている。
次々と前に出て説明をしていく親子達。
(あ〜早く終わってよ〜、おしっこ漏れちゃうよ〜、でも、これって何の順番なの?席順でも、出席番号順でもないし…)
由美は切迫詰まる中、ふと思った。
そう、順番は竹野が勝手に決めていた。由美の様子を見て、限界直前で前に出す魂胆だ。
由美と明人を含め残り5組となった。
(まだかな?よ〜し取りあえず5組全員前に出させよう)
そう思った竹野は前に5組全員、並んでもらい、い、順番に説明をしてもらった。由美は早めに説明を終わらせようと、先に並ぼうとしたが、竹野に制止され、最後に並ぶ様、促された。それぞれが作品について説明をしていったが勿論、説明等、竹野の耳には入ってこない。由美にしか意識は集中していなかった。
「アニメのキャラクター人形だ。何か文句あっか?」
あの親子の母親が言った。
「いえ、別にないです。素晴らしい出来だと思います」
竹野は適当に答えた。もう心臓はこれ以上ない位、鼓動を打っていた。いよいよ由美と明人の番が来た。
「難しかったのは、シワにならない様、千代紙を貼る所でした」
明人が言った。
「以上です」
そう由美が言って戻ろうとした時、竹野が
「待って、じゃあ今度はお母さんに質問しちゃおかな。」(えっ、ちょ、ちょっと何で?)
由美は焦った。もう、あと少しの猶予も無かったからだ。「この千代紙の花柄、なんて名前の花かな〜?」
竹野が聞いてきた。
「かっ、寒椿だと思います」
由美は震える声で何とか答えた。
「よく分かりましたねぇ〜、正解、正解。では次の質問ですが」
竹野の言いかけた時だった。
「いやいやいやいやいやぁ〜」
由美の絶望と羞恥が相交じった微かな声が、明人と竹野の耳に聞こえてきた。
「あっ、あっ、あ〜〜〜〜〜」
竹野の歓喜に満ちているとも取れる叫び声。
「おかぁ〜さ〜んっ」
明人の悲しみの叫び声。
それもそのはず。股間をギュッと押さえた由美の右手からは
ポタッ、ポタッ、ポタッと滴が落ち、光に反射してキラキラ輝いている。きつく閉じた足は、白いロングパンツに、ほのかな黄色の染みを作り、どんどん濡れて行く。
そして、その水流はやや曲げた膝部分から勢いよく飛び出し、ワックスの掛った教室の木製の床に
ビチャビチャビチャ〜〜〜〜〜〜
と、おしっこを飛散させ、落ちていった。 (イヤ〜お願い、時間止まって〜)由美のそんな願いが叶う筈もなく、無情におしっこは尿道口から、物凄い勢いでビュービューで続けている。パンツの染みはどんどん広がり、床のおしっこ溜りを大きくしていった。
1分10秒に渡る失禁が終わった。まるで下半身だけ土砂降りの雨にあったかの様な、ビショビショ濡れの状態になっている。教室中の生徒と父兄が、まさかの光景に呆然とするなか
カシャッ、カシャッ
竹野がカメラでシャッターをきる音だけが響いていた。
「何やってんだー、テメェ、コノヤロー」
一人の母親が叫んだ。
それは竹野ではなく由美に対する言葉だった。
「このアマ、ションベン垂らしやがった」
「いい歳こいて恥ずかしくねえのか!!」
父兄達の暴言に呼応する様に子供達が
「大人のクセにおしっこおもらしするなんて信じられないー」
「汚ねえ、クソババアだなぁ〜」
するとその母親が
「それを言うならションベンババアだ」
アーハッハッハッハッハッ
教室はそのツッコミで笑いに包まれた。
動画設定にしたカメラを由美に向け、机に置いた竹野は、由美のビショ濡れのロングパンツを脱がしに掛った。
「俺が脱がせて着替えさせてやる。おらっ!!早く脱げ」
由美は必死に抵抗しながら叫んだ。
「イヤ〜お願い、辞めて〜、いやぁ〜ぁぁ」
しかし誰も助ける者はいない。事の成り行きをニタニタしながら見ているだけだった。
「あ〜〜〜っ」
明人が少し離れた所でせっかく作った小物入れを、床に叩きつけ壊していた。明人が大好きな、いつも優しく綺麗な母親がおもらしをして、担任から嫌な事をされ、泣き叫んでいる。自分に目を向けさせる事で母親を助けたかった。その気持ちがそんな行動に駆り立てた。しかし、皆の視線はすぐ由美に戻った。明人はもう、どうする事も出来ず泣き出した。「由美ーーーーーーーーっ」
浩だ。浩が来た。月例会議が早く終わり、少しでも参加しようと来たのだった。
竹野の元に走り寄った浩は、ありったけの力で竹野を殴った。
「アイタタタタタ」
竹野は倒れ込んだ。しかし、すぐ立ち上がって、浩と掴み合いになった。身長170cmの竹野に対し20cm低い浩は、その身長差をモノともせず、掴み掛った。もつれ合い竹野の右肘が硝子窓に突っ込んだ。ガッシャーーーーーン
硝子が割れ飛び散った。それでもまだ取っ組み合いは続いていた。
「何をやっとるんじゃっ!!」
騒ぎを聞き付けた校長が怒鳴った。暴力行為があった為、警察が来て浩と竹野はパトカーで連行された。
後日、竹野は無罪で釈放された。パンツを脱がそうとした行為は着替えさせる為、カメラ撮影はインシデントレポート作成の為、という言い分が通ったのだ。しかし、浩は逮捕された。殴った事に対する暴力行為と、竹野の右肘に6針の裂傷を負わせた事が、罪に問われた。実刑は免れたものの、会社をクビになった。
…1ヶ月が過ぎた
チュンチュン
スズメの鳴き声が響いた。朝日が差し込み寝床の浩の顔を照らした。六畳一間のアパート。これが今の住まいである。あの一件で浩は、一流の大企業の職も、高額な月給やボーナス、退職金、マンション、様々な物を失った。現在、零細会社の社員として13万の給料を貰っている。目を閉じた状態で浩は思っていた。
(あれで良かったんだ。俺は間違えてはいない)
浩は心の中で自分に言い聞かせた。その時
「ヒロ君、ご飯だよ」
すぐ側で声がした。
浩は布団から起き上がった。
そこには、朝食が乗った、小さな卓袱台の横に座っている、由美と明人の姿があった。
生活環境はガラリと変わった。でも
家族の絆は変わらなかった。由美の月給18万と浩の給料では、大変だった。しかし、掛け替えのない家族の温もりがあった。
朝食を食べ、歯を磨き、3人は玄関に並んだ。
「あっ君、行ってらっしゃい」
由美はそう言って明人の頭に軽く手を乗せた。
「うん、行ってきま〜す」
明人が答えた。
「じゃっ、由美ちゃん、明人、行ってらっしゃい」
浩が言うと、
「うん」
明人が答え、由美が
「ヒロ君も気を付けてねっ!」
そう言って、少し膝を曲げ浩の頬にキスをした。
< 完 >
不条理だとは思いますが、今の世の中、正直さが返って仇になる事もあります。最後は温かい感じにしてみました。