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刹那




「『大迫健二、38歳男性と思われる遺体が今日、朝8時頃に発見された。死因は頭部や全身が激しく損傷し、ビルの屋上に遺書があったことから、飛び降り自殺だと思われる。自殺理由は恐らく借金や、就職が上手くいかなかったことだろう』だってさ、雪那」



三本の矢が描かれたサイダーを飲みながら彼、柊終哉は言った。



「ふーん、で?」


雪那は特に興味もなさそうに返した。



すると彼は、不満そうな顔ではなく、ニヤニヤと効果音がつきそうな顔で雪那を見ていた。

その顔は誰が見ても気味が悪いと思うだろう。


「…何?気持ち悪い、こっち向くな」


雪那もその1人だったようだ。



「ほらほら、可愛い顔してんだからそんな口聞かないの」



「お前が気味悪い笑顔でこっち向くからだろーが!後、俺のこと可愛いと言うな、キモい」


彼女は女だが、自分のことを俺と呼ぶようだ。 

先ほどからニヤニヤと含み笑いを浮かべている終哉とは裏腹に、雪那はお菓子を食べながら適当にあしらっていた。



「ひどいなー」


「黙れ、死ね」


とても18歳とは思えないような態度をする彼に雪那は呆れたのか、しばらく放っておいた、



すると少したってから彼はまた口を開いた。


「いや、さ。雪那ってほんと仕事と僕とで話す態度が違うなって思ってさ」



「なんだ、お前はあぁいう態度の方がいいのか?」


「あ、嫌なわけじゃないよ?なんか、嬉しくてさ」


「嬉しい?」

雪那は首を傾げた。彼女の綺麗な銀髪がなびく。


「お前つくづく変な奴だな」


雪那はふっと妖美な笑みを浮かべた。



「はは。だってさ、それって僕には素の自分を見せてくれてるって事でしょ?」


「…。別にそんなことないし」


「ははっ、そういう素直じゃないとこ可愛いよね」



「…まじうざい。黙れっ!」


図星をつかれた雪那は恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせて、目の前でにやけてる人物に向かってクッションを投げつけた。



…が、呆気なくかわされた。



「残念でしたーっ。」


明らかに雪那をからかっているのが分かる終哉に尚更怒りを覚えたことだろう。



「てゆーかさ、さっきの話。あれ、この前来たおっさんだよ?」


「そーだね」


「あ、なんだ。気付いてたの?聞いてないかと思ってた。で、僕ずっと気になってたことがあるんだよね」



終哉は突然真剣な顔になり、

雪那も今度はしっかり聞く耳をもったらしい。

お菓子を食べるのは止めないまま…



「あのおっさんに就職出来ない理由教えなかったのってさ、あれでしょ?おっさんのため?」



「…。」


終哉はいつものように笑っていたが、目は笑っていなかった。


その言葉に対して雪那は優雅に紅茶を飲んでいるだけだった。



「何も言わないってことはそうなんだ。ほんと、人間嫌いなくせにそういうとこは優しいんだから、困るよねー」


終哉は大袈裟に肩を落として、やれやれといった表情で彼女を見た。

その目は心なしか悲しそうだった。


「別に優しくなんかない」


雪那はきっぱりと冷たい目で言った。


「あぁいう自分を過信してる人間に俺がその理由を教えてやった所でそれを素直に認める訳ないし、無駄なんだよ…」



「…」


いつも泣き顔ひとつ見せない彼女の目が少し潤んでいたことに彼女は気付いていたのだろうか。



「いつか自分で気付かなきゃどうにもなんない。あいつは気付いていたと思う。でも、認められなかったんだ。たぶん、彼のプライドがそれを許さなかったんだよ。自分の性格が駄目だから就職出来ないってね」


先ほど潤んでいたであろう瞳は、今は何も映していなかった。



「でも、結局認めきれずに命捨てちゃったよね」

はは、と苦笑しながら終哉は言った。


「こんな人間ばっかり。人間は越えられない壁にぶち当たると途端に無理だと決めつけて、簡単に命を投げ出すんだ。笑っちゃうよな。死ぬ勇気があるなら壁に向かってけばいいのに」



雪那の目に光はなく、ただ淡々とそう語った。



彼女は何故、人間が嫌いなのだろうか?  

そして何故、人間の愚痴を聞いてやるのだろうか?世直し屋の意味は?


それは誰にもわからない。





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