アイツは気付いてる。
明くる朝、由梨香が登校すると教室の空気が妙だった。いつもより静かで、皆の視線が同じ方向へ向けられている。
視線の先には、貴恵がいる。彼女は自分の席に座り、じっとしている。まるで滝に打たれる修行僧のようだ。
由梨香はそれを見て動揺する。どう考えても彼女が送った写真のせいだからだ。
まさかこんなことになるなんて……。これじゃイジメみたいだ。そんなつもりでやったんじゃないのに……。
――いやでも、こうなることは頭のどこかでわかっていた。ただ、由梨香は自分に言い訳していただけだ。
あたしはそんな酷い女じゃない、と。
皆、鴨上貴恵を見てはクスクス笑う。
けれど由梨香は、一人だけ自分のことをちらちら窺う人間がいることに気付く。
一橋将也だ。
彼は由梨香のほうを見ては目が合うと惚けて視線を外す、なんてことをさっきから繰り返している。
――ウザイなぁ。きっとアイツはあたしがやったって気付いてるんだ。
教室のドアが開き、皆の視線がそちらへ移る。入ってきたのは九条通明だ。彼もすぐに異様な気配に気付いたようで、戸惑ったような表情を浮かべる。それから彼は机の上にスクールバッグを置き、貴恵に近付き、声をかける。
何と声をかけるんだろう、と由梨香は注目する。
「お、おはよー」
なんて馬鹿なんだ、と由梨香は呆れる。真っ先に謝るのかと思ったのに。
案の定、貴恵は通明を無視する。
そして狙い済ましたかのようなタイミングで教師が入ってくる。クラスメイトたちは慌てて自分の席へ戻る。
将也がまたちらりと由梨香のほうを見やり、由梨香はそれを無視する。