お揃いに、なりたかったんだ
「どういうことなの? これ」
鴨上貴恵は九条通明に向けて携帯をかざす。画面には通明の顔写真が映っている。
「俺の顔だな」
「見ればわかるよ。そうじゃなくて、この顔の状態のこと」
「黒い鼻血を出してるなぁ」
「……墨汁でしょ」
「まあ、そうだな。うん」
通明は貴恵に呼び出されて屋上に来ている。
今は昼休み中で、いつもなら生徒が何人かだべっているが、あいにく空には夏の太陽がでかい顔して照っているから誰も来ていない。皆、冷房がよく効いた図書室にでも非難しているのだろう。
「なんでこんな写真をメールしたの? それもクラス全員に」
貴恵は声を荒げた。
通明はその剣幕に気圧されそうになる。
昨日の夜、彼は自分の鼻から墨汁が垂れている写真を携帯で撮り、クラス全員に送ったのだ。
「い、いや、その、鴨上だけに恥ずかしい思いをさせるのも悪いし、そもそも俺がスポイトなんかいじってなければあんなことにはなってなかったわけで……」
「私に謝る、って選択肢は出てこなかったの?」
「――お揃いになりたかったんだ」
「えっ」
「お揃いっつうか、俺の顔も皆に送れば、笑い者が一人増えて鴨上の負担も減ると思ってさ。へへ」
通明は力なく笑う。
すると、貴恵は小さく溜息をつき、携帯をパタンと閉じてしまう。
「ホント、阿呆ねえ」
貴恵は苦笑した。「びっくりしたんだから。昨日の夜、いきなりこんなメールが来て、送信先見たらクラス全員になってて」
「でも効果あったんじゃね? 皆俺のほうを見てケラケラ笑ってたし」
「そうね。そうかもしれない。でも――」
貴恵は通明をひたと見つめる。「まだ私に何か言うことがあるんじゃない?」
通明は唾をゴクリと飲み込む。喉が鳴った音が貴恵に聞こえたんじゃないかと思う。
「ごめん」
彼はぺこりと頭を下げる。
そして、許してもらえなかったら俺の人生終わりだ、と大袈裟なことを思う。
恐る恐る顔を上げてみると、ニッコリ笑った貴恵の顔が待っていた。
「よしっ、許す!」
彼女もまた、やけに大袈裟に宣言する。
二人の頭上からは、夏の光りが降り注いでいる。