無言の背中
翌日、通明が学校に行ってみると、教室の雰囲気がおかしなことに気付く。皆が小声で話し、クスクスと小さく笑みを浮かべている。それは決して好意的なものではなかった。
そして独りポツンと席に座る貴恵。
その光景を見ただけで、通明は状況を悟る。
昨日の夜に送られてきたメールのせいだ。
皆の視線がちらちらと貴恵の背中に突き刺さるのがわかる。たぶん、彼女にもわかっている。思ってた以上に、あのメールはクラスの皆に悪い影響を与えている。
メールを送ったのは誰だかわからないが、元を辿れば通明がぼんやりとスポイトなんかで遊んでいなければこんなことにはならなかった。
通明は自分の机の上にスクールバッグを置くと、貴恵の席に近付く。
何か言わなくちゃ、何か。
でも何を?
謝る?
――そう、まずは謝るんだ。
「お、おはよー」
まずは謝るんだ、と考えていたのに、通明は気の抜けたコーラのような挨拶をする。それも顔を見るのが恐いから、背中に向かって言った。
「……」
貴恵は黙っている。でもそれだけで十分だった。彼女の背中は「あっちへ行け」と伝えているのだ。頼むからいつものように「阿呆ねえ」と言ってくれ。
通明がどうしたものかとあたふたしていると、教室に担任の教師が入ってきて、皆が慌てて自分の席へつく。
通明は後ろ髪を引かれる思いで自分の席へつく。
貴恵の背中はのっぺりとしていて、いったい何を思っているのかさっぱりわからない。