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狙撃手は突然に  作者: カカオ
狙撃手の手にはカメラ
12/13

依頼

 一橋将也に連れてこられた先は、彼の家「一橋文具店」だった。店の看板は日に焼けて色褪せ、そこかしこの壁には亀裂が走っている。ちなみに桜井由梨香が住む「桜井模型」も似たような佇まいだ。

 二人は二階の将也の部屋に入る。

 由梨香は足を踏み入れた途端、ぎょっとする。飾ってあるプラモの数が前よりもずっと増えていたからだ。本棚や机の上にぎっしりと並び、さらには天井から凧糸か何かでぶら下がっているモノまである。

 最後にこの部屋に来たのは彼女が小学校六年の時だった。その時もかなりの数はあったけど、天井に吊るすほどの数はなかった。

 勉強机のほかに作業用の机まで置かれている。その上でプラモを作るのだろう。今も作りかけのわけのわからないパーツ類が無造作に散らばっている。

「頼みっていうのはこれなんだよ」

 将也は机の上に立たせてある一体のロボットのプラモを見せる。

「こいつはニャンダム・マークⅡっていうんだ」

 彼はまるで知人でも紹介するかのように言う。

「ふうん」

 将也は呆れ顔の由梨香に気付きもせず、話を続ける。

「頼みっていうのは、由梨香にニャンダム・マークⅡの写真を撮って欲しいんだ」

「はぁ? そんなもん自分で撮れよ」

「いや、最初は自分で撮ったよ。でもさあ、見てよこれ」

 彼は机の上のノートパソコンを起動させ、ブラウザを立ち上げ、とあるブログを表示させる。

「何それ?」

「俺のブログだよ」

「うわ、そんなのまで作ってんの……」

 由梨香はさらに呆れる。

 ブログは「プラモ道まっしぐら!」という阿呆なタイトルがつけられ、将也が作ったらしきプラモの写真がたくさん載せてある。

「このコメントを読んでみてくれ。あまりの屈辱的な内容に、俺は危うく作りかけのプラモを粉砕しそうになったよ」

 彼が問題のコメントを表示させる。


『写真が酷いですね。これではプラモのクオリティがよくわからない。でもおそらく、大したことはないでしょう』


「な! 酷いよね!」

「たしかに酷い」

「だろー」

「写真が」

「ぐあっ」

 桜井由梨香はコメントを読むと、改めてブログの記事に載せてある写真を眺める。たしかに写真は酷いものだった。背景にはこの雑然とした部屋が写りこんでいるし、光りの当て方もなっちゃいない。

「で、あたしに写真を撮れって?」

「そうなんだよ。俺のプラモのクオリティは言うまでもないけど素晴らしいんだ。でも、写真が……。写真が上手く撮れないんだよ。これじゃあブログを見ている人に俺のプラモの魅力が伝わらない」

 バカらしい、と思ったものの、プラモの写真を撮ることに由梨香は興味を持つ。そんなものは撮ったことなどなかった。

 光の当て方や背景の問題をどうクリアするか、といったプランが頭の中でどんどん出来上がっている。

 わくわくする。

「……わかった。やってあげる」

「ホント? サンキュー!」 



 翌日、桜井由梨香は実に数年ぶりに自らの意思で「一橋文具店」を訪れる。

 昨日一橋将也にはすぐに撮ってほしい、とせがまれたが、由梨香はちゃんと準備がしたくて断った。

 今までほとんど使う機会がなかったマクロレンズや、背景用のグラデーションペーパー、撮影用のライト、三脚を持って来ている。

「なんか凄い荷物だなぁ。まるで写真家みたいだ」

「未来の写真家なんだよ、あたしは」

 由梨香はてきぱきと撮影の準備を始める。

 机の上にグラデーションペーパーを敷き、その上にプラモを立たせ、ライトをいい具合になるように当てる。それからカメラのレンズをマクロレンズに替える。被写体が小さいから自然と接写になってしまうために、普通のレンズだとぼやけてしまうのだ。

 そして三脚を立ててカメラをのせる。

 準備完了。

 桜井由梨香はファインダーを覗く。ニャンダム・マークⅡの白いボディがしっかりと入っている。光の当て方も強さも良好。背景のグラデーションもプラモを引き立てている。

 桜井由梨香はシャッターを切る。

 パシャッ。

 良い音……。

 彼女はうっとりとする。携帯のカメラの出来損ないの擬似シャッター音なんかとは違う、本物の音だ。

 由梨香は角度を変え、光の当て方を変えて何度も写真を撮る。シャッター音の小気味良い音が部屋に響く。

 ふと鼻につくシンナーのような臭いに気付き、由梨香は振り向く。将也がなにやら塗料を調合していた。

「何してんの?」

 桜井由梨香は怪訝そうに訊く。

「色を作ってんだよ。売っている塗料にない感じの色だからさ」

「ふうん――」

 その時、桜梨香は将也が手にしているモノを見てハッとする。

「スポイト……」

「え、ああ。調合する時の必須アイテムだよ。少しずつ色を加えていくからね」

 由梨香の頭に、貴恵の顔に墨汁がかかる瞬間がよぎる。

「間違ってもこれを人に向けちゃいけない。中身によっては危ないからね」

 将也は静かに言った。

「え――」

 由梨香は驚いて彼のほうを見る。だが、将也は作った塗料を筆に馴染ませプラモに塗り始めている。こうなってしまうと彼は人の話など全く聞かない。

 由梨香は気を取り直して撮影に戻るが、さっきまでのように夢中にはなれなかった。

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