ランク
クレイドルのメンバーの一人となる為の試験を終えた俺は、試験室から出たところで待合室の長イスに心配顔の真赤を見つけた。
開口一番「どうだった」と聞いてくる。
俺は結果が書いてある書類を真赤に渡す。
「一応、合格だったらしいがやはり俺のトラスター能力値は高くないみたいだな」
「Fランクか」
書類に目を通していた真赤の顔があからさまに曇る。
「そのランクってのは一体何なんだ?」
「ランクは現時点で各々が行使出来る力を表している。ランクはMクラスからSSSクラスSSクラスS
クラス~Fクラスまで段階が分けられている。トラスターはそのランクの高さによって順位付けされていくというわけだ」
「ってことは俺は最低ランクか・・・・・・」
「最低だな」
「はっきり言うなよ・・・・・・ちなみにランクが高いと何か良い事があるのか?」
「当たり前だろう、ランクが高い者ほど危険な戦地へ向かわなければならないのだ。当然、クレイドルからの給付金も高いし、クレイドル内での発言権にも関わってくるのだ」
「そうなのか・・・・・・」
「真赤のランクはいくつなんだ?」
「私はAランクだ」
「Aランク・・・・・・」
ってことは俺と段違いに偉いわけだ。
どうりであんなでかい屋敷をクレイドルの外に持っているわけだ。
「しっかりして貰わないと困るぞっ刀屋!私のパートナーとしてこの一ヶ月内にさっさとCランクぐらいまでは昇格してもらわなければ」
真赤は、長イスから立ち上がり俺に指を突きつけた。
待合室に居た他のトラスター達の好奇の視線が一気に集まる。
一部、敵意のようなものが混じっている気がするが・・・・・・気のせいか?
俺は真赤を誘導し待合室を出ると廊下を歩き出した。
「えーっと昇格するには具体的に何をすればいいんだ」
そこが疑問だ、トラスター試験では能力値でランクが決まるみたいだが、Fランクなんて最低ランクの俺がどうすれば昇格出来るというのか。
「方法は色々ある、例えばコロシアムで上位ランカーになるとか、月に一度実施される技能検定で良い成績を収めるとか」
「どれも俺には無理な気がしてならん・・・・・・」
第一トラスター能力が高くなければ技能も低いわけだし、戦闘能力も低いわけだ。
「前にお前は私に聞いたな、どうしいてお前を助けたのかと」
「あぁ・・・・・・そんなことも言ったな」
真赤が言っているのは、俺がスナイパーに襲われて真赤に助けられた時のことだろう。
「私はスラム街に不可思議な武器や防具を造り出す、刀匠が居るという噂を聞いていた。興味を持った私はそれからスラム街に足しげく通い情報を集め、ついに桐ヶ谷刀屋という刀匠が実在し、スラム街に店を構えているところまでは突き止めたのだ」
正確に言えば刀屋は刀匠でもあり武器商でもある。
そこで真赤は口を切り、刀屋を見つめた。
濁りのない綺麗な瞳が刀屋を真っ直ぐ見つめている。
刀屋はその中に同情のような哀しみのような色を感じた。
真赤は再びゆっくりと口を開きしゃべり始めた。
「私が桐ヶ谷刀屋が開いているという店を訪れた時、その場所には既に店は無かった。いや・・・・・・あることにはあったが、全て破壊されめちゃくちゃになっていた」
刀屋は思わず息を呑む。
俺が住んでいたスラムが神獣に襲われた後に真赤は俺の店を訪れていたのか。
思い出したくない記憶が脳裏をよぎる。
数多の悲鳴が耳に蘇る。
刀屋はそれを振り切るように口を開いた。
「真赤は、俺の店に訪れていたんだな」
「ひどい光景だった、口では現せない」真赤はまるで死者に黙祷を捧げるかのように、目を閉じた。
沈黙が流れる。
真赤は閉じていた瞼を開く。
「私はそこで見た。多くの人間の死体と共に神獣が死んでいるのを、しかも神獣はただのトラスターに殺されたようには見えなかった。鋭利な刃物で切り裂かれ、ぐちゃぐちゃになっていた。私は無意識に思ったよ、これは桐ヶ谷刀屋がやったのだと」
「それで俺を探していたのか」
「そうだ、桐ヶ谷刀屋なら私のパートナーになってくれると思ってな」
「どうしてそこまでパートナーにこだわるんだ?俺みたいな最低辺のトラスターじゃなくてもお前だったらひっぱりだこだろ」
「それは否定しない」
真赤の声は自信に満ちている。
「だが・・・・・・・私にも色々と事情があってな・・・・・・とにかくっ!お前は自分のランクを早く上げることだけを考えていろっ!ちゃんとした住居や仕事が定まるまでは私の屋敷を使ってもいい、だがお前のランクがいつまで経っても上がらないようなら放り出すからな」
「わかった」
「桐ヶ谷刀屋、私はお前に期待している。神獣を殺せる力が本物であるということを私に証明してみせてくれ」
真赤は用事があるといって刀屋とは別の通路を進んでいった。
整理しよう。俺が今からすべき事は、ランクを上げる事だ。
そのための方法は色々あるみたいだが、とりあえず今はクレイドルのカリキュラムを受けることで知識や訓練を積んで力をつけるのが最優先だな。
俺はさっきもらった書類に目を通しながら考える。
どうやらFランクにはFランクのためのカリキュラムがあり、ランクが上がるごとに内容もハイレベルなものになっていくようだ。
今から受けられる授業を探す。
あった。
トラスター力の発揮の仕方、構造。
訓練系の内容ではなく座学のようだが、情報は時に純粋な力よりも大切だ。
俺は早速、地図に記された場所へ向かった。