クレイドル
「それで俺は一体どうすればいいんだ」
パートナーになるとは言ったものの、正直何をするのか未だにさっぱりなわけで、具体的に何をするのかを教えて欲しいところだった。
「うむ・・・・・・それを説明する前にちょっと外に出よう」
「ああ?」
思わず頷いてしまったが、この話をすることと外へ出ることには何か関連性があったのか?
そして気のせいだろうか、真赤は少しいたずらを仕掛ける前の子供みたいな顔をしていたような。
「どうした、さっさと来い」
先に玄関へと向かっていた真赤から声がかかる。
「ああ、今行く」
「あれがトラスター達の集うクレイドル本部だ」
真赤は誇らしげだ。
俺もその壮大な外観に息を呑んだ。
真赤の屋敷から出た俺が最初に見たものは、巨大な都市だった。
真赤の屋敷は小高い丘の上に建っていた。
そこから、その巨大な都市を一望することが出来た。
今まで見たどんな都市よりも異質な感覚を刀屋は覚えた。
トラスターが集う神業機関は空に浮かんでいた。
ところどころ煙突のようなものが突き出して煙が上がっている、様々な機械をごちゃ混ぜにして一つにまとめたように見えるが、どこか規則性があるような統一感を醸し出している。
その周りをエアバイクや飛行能力が扱えるトラスターが飛び交っている。
「どうだっすごいだろう、ここには世界中のトラスターが集まり日々その能力を練磨し来る神獣との戦いに備えているのだ」
「ああ、すごいな・・・・・・」
俺には、そんな月並みな感想しか浮かんでこなかった。
現に今目の前にある巨大な空中要塞は、もうすごいとしか形容出来なかったのだ。
自分の住んでいたスラムと比べるとまるで天と地・・・・・・いやそれ以上か。
俺は今からあんなすごい所に行くのかと思うと子供の頃に戻ったかのように激しい高揚感を覚えた。
「私の家からは直通のルートがある。何台かエアバイクがあるからお前も好きなのを使え」
そう言って真赤が指差す方を見れば確かにそこには、形状の異なるエアバイクが何台か止められていた。
真赤はその中の真っ赤に塗装された機体を選らば慣れた手つきでまたがった。
俺もごく一般的なタイプの黒い機体を選び、またがる。
スラムではエアバイクなど滅多にお目にかかれないシロモノだったが、幸い俺は運転を経験していた。
慣れた様子でエアバイクを操る刀屋に真赤は意外そうな顔をする。
「けっこう様になっているじゃないか、どこで覚えたんだ?」
「まぁ昔色々あってな、ちょっとばかしこいつで生活費を工面していた時期があってさ」
エアバイクが浮上を開始する。それと同時に中空にクレイドルへ行くまでのルートが表示された。
クレイドルから光の線のようなものが延びて来ている。空の道のようなものだ。
空に浮かぶ幾何学模様のようなルートに従いクレイドルへと空を駆ける。
久しぶりに操縦したエアバイクは心地よく、風が気持ちいい。
大地が遥か下に見える。所々に荒廃したビル郡がまるで遺跡のように点在している。どこかに神獣の姿はないかと探して見るが、とりあえず見つけることは出来なかった。
クレイドルに近づくにつれ、その巨大さがどれほどのものか実感される。
天○の城○ピュタというアニメをずっと昔に見た気がするが、それの何十倍あるかわからない。
これほどの大都市をどうやって空中に浮かべているのか。
これでも武器職人の端くれとしてその技術には興味がある。
俺を先導するように前を走っていた真赤が高度を上げた。
進行先にエアバイク駐車場が見える。
俺も後へ続き高度を上げた。
駐車場の真上まで来たところで、エアバイクが不自然に急降下し始めた。
「っ!なんだ!?」
真赤は既にエアバイクを止めるために奥のほうへと行ってしまって、こちらに気づいていない。
上昇のレバーを引いてもブレーキを押しても全く反応しない。
エアバイクが落下しようとしている先にはちょうど他の人がエアバイクを止めようとしているところだった。
「そこの君!どいてくれっ」
俺が必死になって叫ぶと相手はギョッと驚いたように後ずさったが、すぐに冷静さを取り戻したのかそのまま何かを唱え始めた。
なんで避けようとしないんだっ!?
機体は既に相手の目と鼻の先に迫っていた。
ぶつかるっ!?
衝撃が全身を襲いたまらず空中に投げ出される。
しかし、なにやら柔らかいものがクッションとなってくれたようで怪我をすることはなかった。
頭から落ちたせいで目の前が真っ暗だ。
立ち上がろうとして右手に力を込める。ぷにぷに「あう・・・・・・」なんだこの感触は・・・・・・。
そこで気づく自分が誰かの上に馬乗りになっていることに。
顔をゆっくりと上げると、少しなみだ目になっているが眼光は鋭く力強い意志が感じられる瞳と視線がぶつかった。
少し冷たい印象を受けるが理知的な顔立ちをした女の子がそこには居た。
そして俺は今、彼女のちょうどよく手にフィットする胸に手を置いていた。
――――――。
逃げるように俺は彼女の上から飛びのく。
だらだらと冷や汗が流れる。まずい・・・・・・まずいぞ、こんな時はどんな風に謝ればいいんだ・・・・・・。
ゆっくりと俺に馬乗りにされていた女の子が立ち上がる。
改めてその姿を見ると彼女は奇妙なかっこうをしていた。
ボロボロの黒いズボンにヨレヨレのカッターシャツにネクタイ。その上に白衣を着ている。
メテオインパクト以前に流行っていたと言われる保健室の先生のコスプレという奴だろうか?
確か昔にスラム街の比較的治安がまともな場所でそんな奇怪な服装で接客するという店が流行っていたような気がする。
居心地の悪い沈黙が数秒間続く。
先に口を開いたのは白衣の女の子だった。
「アナタ・・・・・・名前は・・・・・・?」まるで射殺さんばかりに睨む冷たい瞳に逆らえず答える。
「桐ヶ谷刀屋だ、刀鍛冶の刀に部屋の屋でトウヤだ」
それを聞いた相手は胸の前で腕を組み不機嫌さを隠さずフンッと鼻を鳴らす。
「アナタあまり見ない顔だけど新入りかしら」
「まだ、だけどこれからそうなる・・・・・・予定」
「そう」
相手は短く頷く。
「今回の事は特別に見逃してあげてもいいわ」
「本当ですか」
「ただし、条件がある」
やはり、という気持ちが胸をよぎる。
無条件で許してくれるほど虫のいい話はない。
今回は全面的に俺が悪いのだし、ある程度のことなら甘んじて受けよう・・・・・・。
「条件とは―――」
条件について具体的な内容を聞こうとした所で先にエアバイクを止めに行っていた真赤がこちらへ走ってくる姿を視界の端に捉えた。
「あれは、紅さんか」
相手もその姿を見つけ呟く、どうやら知り合いのようだった。
トラスター特有の驚異的な身体能力を駆使し真赤は瞬く間に俺と白衣の女の子がいるところへ到着した。
「クラエス先生!こちらの男が何か無礼なことをしでかしませんでしたか」
開口一番、真赤はそう言い放った。
横転したエアバイクを見て、ある程度の事態を把握したのだろう。
それにしても先生だって?
クラエスと呼ばれた相手をもう一度見る。
確かに大人びてはいるが年は俺とそう変わらないように見える。
「ちょっとエアバイクが接触しそうになったのよ」
キッと真赤の視線が突き刺さるのを感じる。
頭の中で言い訳を考えるがどれも火に油を注ぐ結果になりそうだった。
「まぁ、その事はもう解決したからいいんだけど、彼は紅さんが連れてきたのかしら」
クラエスは、腕を組んだまま視線で俺を示す。
「はい、そうですが」
真赤の視線も俺へと向けられる。
その視線は、口で語るよりも雄弁に俺への罵声を浴びせかけていた。
「ふーん、そうなんだ」
腕を組んだまま何かを考えるように、クラエスは頷く。
真赤が来た瞬間からスイッチが切り替わったかのように俺への怒りはきえてしまったかのように冷静だ。
「それじゃあ私は講義やら研究の準備があるから、もう行くわ。桐ヶ谷刀屋さん」
「なんですか」
「さっきのことだけど後で連絡するから」
そう言い放ち、クラエスは足早にその場から去っていった。
真赤は、クラエスの姿が見えなくなるのを確認した後、ふぅーとため息をついた。
「はぁ・・・・・・全くお前という奴はクレイドルについて早々に問題を起こすとは・・・・・・既に私はお前を連れてきたことを後悔し始めているぞ」
「もーしわけない」
「全く反省の色が見られないな」
少し調教が必要かと呟く真赤は腰から『桜花』を抜刀した。
「すいませんでしたっ」
俺はその場で90度頭を下げる。
「まぁ・・・・・・いい、それより怪我とかはしていないな?」
真赤はじろじろと俺の体を眺め確認する。
「一応心配してくれるのか」
「とっとうぜんだっ、お前は私のパートナーとなるのだぞ!何かあってからでは困るだろうが」
真赤は赤くなった顔を隠すように後ろへ退く。
その姿に不覚にも懐かしい姿が重なる。
ずっとスラムで一緒に生きてきた親友の姿。
俺はその幻影を振り払うように頭を振った。
「どうかしたのか?」
気づくとまた真赤が心配そうにこちらを見ていた。
「いや、真赤が心配してくれるなんて感動しちまってな」
「バカがっもう知らん、私は先に行く」
怒りで顔を真っ赤にした真赤は、俺を置いてエアバイク駐車場からクレイドル内部へ通じる連絡橋へと行ってしまった。
「待ってくれよっ俺はここの構造を全く知らないんだぞっ」
そう言っても聞こえていないのか、真赤はスタスタと歩き角を曲がり姿を消してしまう。
俺も急いで走り、真赤が曲がっていった角を曲がる。
そこで俺は壁を背に寄りかかる真赤を見つけて足を止めた。
「あれ、待っててくれたのか」
「フンッお前のためではない。お前がいないと私が困るからだ。勘違いするな」
そう言うと真赤はぷいっと顔を背け先に歩き出してしまう。
なんだかんだ言ってめんどうみがいい奴なんだな。
「ありがとう」
無意識に俺は礼を言っていた。
不思議な気分だった、生きるか死ぬかの毎日を過ごしたスラム街に置いてきた何かをゆっくりとだが、取り戻している気がした。
「今度はちゃんと着いて来い」
「ああ」
俺と真赤は並んで歩き始めた。
神採りアルケミーマイスターやってて遅れました。
たまにはRPGも悪くないです
カオスヘッドやりたいですぅううううう