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愛されていないのは調査済みです

愛されていないのは調査済みです その3

掲載日:2026/10/10

 今日はロビンソンの家に招かれて、お茶会と言う名の商談をするカサギとエビータとロビンソン。


 カサギの運送業は起動に乗り、そのノウハウをエビータも知って事業展開したいとのことだった。既にギランティーヌ侯爵家 (エスカル)の事業は順調に業績を伸ばしており、この話はお世話になったカサギへコンサルト料を支払う為の口実である。それを知ったロビンソンは彼女(エビータ)と相談し、自分も一口乗るからとカサギと共にエビータも招いたのだ。


 権力(伯爵位)を持つ男と化したロビンソンは、周囲からの「早く婚約者を作れ」と言う圧にも負けず、カサギへの愛を貫いていた。面倒くさくなったら、辺境伯(父親)ダナストスへ爵位を渡す気だったが、母親マリーナから「カサギは元伯爵令嬢の血筋があるから危険な立場よ。特に彼女の母親ジルミは、帝国の◯◯の子なのだから……」と言われれば、力を容易く手放すことも出来なくなった。

 マリーナはカサギと相性が良く、たまに遊びにきた時の会話も楽しそうに弾む為、結婚に障害はない……と思う。養女にする貴族の手配もしてくれると笑っていた。

 辺境伯家では、ロビンソン周りの人間関係は念入りに調査をしている。特に戦闘メイドからの情報からカサギの為人の報告も受けており、彼女の点目を知っているが「あの子は可愛いし、元気いっぱいね。辺境向きの人材よ」と、密かにリサーチを受けていた。

 辺境伯家では彼(ロビンソン)の上に3人の兄姉がいるものの、姉意外が結婚していない。兄達は猛獣を狩り、その牙や皮で加工品を作ることに熱中し、婚期を逃していた(する気がないとも言う)。

 最悪は姉の子に後を継がせるかと話も出たが、王都育ちの我が子にそれは酷だと断っていた。


 そうこうするうちに末っ子のロビンソンが適齢期に入り、丁度良いわとマリーナに狙われていたのだ。

 王家からも「次期後継者を早く決めてくれないと、安心できない」と打診もあり、余計に結婚の釣書が増えていた。兄2人がフラフラと好き勝手している皺寄せを受けていた彼だが、当然ながら辺境伯家を継ぐ気など、毛ほどもないのだった。




 着々と回りを固めている、意外と腹黒いロビンソンだが、そんな彼も面倒なことを押し付けられようとしていた。

 まあ後は、カサギの気持ちの傾き次第だ。ロビンソンが成人した今、少し年上くらいでは諦めては貰えない気配がひしひしと迫っていた。いろんなところから。


 次期辺境伯になるかもしれない話が一人歩きし、権力を欲する令嬢や親達も色めきだし、ロビンソンはとっても鬱陶しく思っている。



 そのカサギも彼のことを「親切な優しい子。口は悪いけれど、親のしつけが良かったのね」と、イマイチ気持ちが伝わっていないが大事には思っている。


 幸せ全開のエビータは、そんな彼(ロビンソン)が憐れになり、協力する気になったのだ。

(カサギにはお世話になったし、もし結婚とかでなくても後ろ楯ができるのは良いことよね。私とエスカルは勿論味方だけど! 後年下の凹むのは可哀想で)と思いながら。すっかり優しくなり、「天使のようだ。マイハニー♡♡♡」と、エスカルが手放しでエビータに惚れ直していた。彼女の決定は即ち、侯爵家の総意となる現在。



「私(カサギ)からのアドバイスかあ? アンシールと一緒にいたくて始めたことだし、特にはないわね。アンシールは単独で強いから護衛代もいらないし」

「そ、そうなのね。でも、アンシールのような強い馬を作るなら、どうしたら良いのかしら?」


 思案するカサギ。そして…………。

「子供を作るのが一番ね。強い馬は遺伝的なところもあるし」

「い、遺伝? よく分からないけど、子孫も強いと言うことね」

「あ、そうそう。貴族と同じ部分があるわね。代々王家の血は美形でしょ? 政略結婚もあるから容姿も大事だし。それと同じように、馬の強さも受け継がれるのよ。確率もあるから、全部がそうじゃないけどね。まあ知力の方は遺伝要素は薄そうね。高貴な家でもアホな子も生まれるでしょ? あれと同じよ。アハハッ」


 突き抜けて明るいカサギは、最近ストレスがないらしい。ますます粋が良い。


「そ、そうね。そう言うところもあるわね。知力はある程度努力しないと、地頭が良くてもズル賢い方に特化する人もいるから。じゃあ、カサギがやってみたい事業とかはないの?」

「え、事業? 事業かあ? 仕事でなくてお祭りみたいに、馬同士で荷運びレースみたいのが出来れば楽しいかなとは思うけど。みんなで応援しながらの。遊びじゃとても無理よね」


 それは率直に思いついたカサギの希望だった。

 また前世の私とミルキーのように、ばんえい競馬の騎手 (ジョッキー)をしてみたい! 強豪の馬と並んで、熱いレースをしてみたいと血が騒ぐのだ。



 ※ばんえい競馬とは、体重1トンを超える巨大な馬が最大1トンの鉄のそりを引いて、2箇所の障害(坂)がある直線200mのコースでパワーや持久力を競う、世界で唯一のレースのこと。騎乗せず、後ろのそりと呼ばれる部分に立ち指示するスタイル。


 けれどそれには整備した障害(坂)や、走りまわれる場所が必要だ。馬達が休憩する場所や観客が見学する場所だっている。育成からなら、大きな厩舎と調教師、騎手も必要で、今のカサギには無理なことは一目瞭然だった。


 だがそこで、ロビンソンが声を発した。

「計画は何となく伝わったよ。俺の伝手や権力、そしてエビータの侯爵家の力とコネも存分に発揮して、やってみようじゃないか? それに強い馬をたくさん集めれば、アンシールのお嫁さんも出来るんじゃない? どうだい?」


「アンシールのお嫁さん。うん、良いかも! 子馬も見たいわ!」


 話が聞こえたのか、外からもアンシールの楽しげな嘶きが聞こえる。

「ヒヒーン、ブヒヒーン♪(嫁、良いなそれ。会うだけなら会ってみたいぞ、カサギ♪)」

「まあ、アンシールがやる気だわ。でもロビンソンとエビータは良いの? 損をするかもしれないわよ」


 二人は微笑んで、頷く。

「良いのよ、カサギ。何事もチャレンジでしょ? 貴女が教えてくれたんじゃない。やる前から諦めていたら、今の私はいなかったわ」

「そうだぞ。俺も有り余るお金を面白いことに使いたいんだ。楽しい事業で賑わえば良いし。失敗しても税金対策にもなるからな。心配すんな」


「ありがとう。私も出来る限り協力するよ。失敗なんかさせないから!」


 こうして3人と後にエスカルが加わり、この世界にばんえい競馬が誕生するのはもうすぐのことだった。

 アンシールも未来の花嫁に、思いを馳せてワクワクだ。


「まずは馬を集めて、騎手 (ジョッキー)の育成からだね♪」

 よくばん馬が分からないロビンソンは、カサギと何度も話し合い、だいたいの道筋がついていく。傍ではセバスチャンの口添えで優秀な人材(調教師や騎手)が集まり、ついにはロビンソンの戦闘メイドであるドルチェも、騎手として参戦すると言う。


「乗馬には自信がありますのよ、任せて♪」



(残念ながら馬には乗らないのよね。でもロビンソンのメイドさんは、そう言うの得意そうだし心配ないか)


 ※騎手は鞭は使わず、芯の入っていない革製の「長い手綱」を持ち、それを張ったり、うねらせたりして声とあわせて馬を御す。手綱の端で馬を叩くこともルールで禁止されている。


 ピンクの癖っ毛をツインテールにして、黒い革製の乗馬服を着こなす彼女。ばん馬とは別のファンが付きそうな予感。



「厩舎の広さはこうで、馬の色はこうで……聞いてるのロビン?」

「聞いてる、聞いてる。良いと思うよ、カサギ。駄目なら遠慮しないで言うから」

「まあ、そうよね。じゃあ、聞いていてよ」

「うん、聞いてるよ。続けて♪」


 二人の距離は、ほんの少し近づいているようだ。




◇◇◇

 セバスチャンは元男爵令息(次男)で、優秀なことで子爵家に婿入りしていた。


 そんな彼には2つの特技がある。

 一つは速読。

 黙読とは異なり、 頭の中で一文字ずつ声に出して読むのではなく、文章のかたまりを視野に入れ、同時に意味を理解する読み方で、視読(しどく)と言われる。

 慣れた者なら、2、3行を一度に目で追い、普通で読む者の1,5から~3倍で処理を行えると言う。


 特にセバスチャンは空間処理能力も合わせ持ち、計算は元より、書類を見ただけで人員・達成日時・費用などを割り出すことに優れていた。いわゆる天才である。



 さらに動物に好かれる体質の持ち主であり、ちょっと辛辣なことを言っても、「まあ良いか。セバスチャンだもんな」と流されていた。だからこそ次々に使用人がクビにされても、生き残ったのである。

 アジサはセバスチャンの優秀さに気づいておらず、子供の時からいっしょの爺やくらいにしか思っていなかった。優しげな風情で、アイゴに敵認定されなかったのも、彼の才能である。

 ただ、戦闘能力どころか運動神経も鈍いので、戦いには不向き。


 さすがにカサギの母親ジルミが亡くなった後は、アジサやアイゴの散財と、使用人が減った分働きてんてこ舞いで腰を痛めていたが、今は回復して新たな展開に胸踊らせている。


 ロビンソンのメイドさん達((ドルチェ(可愛い系)、ベルチェ(麗人系)、クランデ(姉御系))は、辺境伯の騎士家出身の三つ子の戦闘メイドである。何れも30歳オーバーであり、見た目は若いが灰汁が強い。全員彼氏はいるが、結婚にまで辿り着かない。護衛も結婚は許されているのだが……。


 彼女達と瞬時に友好を築き後にすぐに纏め、共にロビンソンを支え合う仲間になるのは、他者にはできない至難の技である。期限を損ねると、彼女達は物理で反撃するタイプなので。



 前世の記憶を朧気に思い出したカサギは、セバスチャンに必死に食らい付いて執務を行っていたが、それがなければ母親の仕事を見ていただけで執務など無理であった。

 そう考えるとエビータはかなり優秀である。

 愛と言う情熱はあったのかもしれないが、元々地頭が良かったのだろう。エスカルが惹かれたのも分かる気がする。


「今日も行きますか、奥さま」

「ええ、愛する旦那様。私、とっても幸せですわ♡」

「僕もだよ」


 エスカルとエビータは今、ばん馬が行われる土日は腕を組んで見学に行っている。青い空の下で、健康的なデートである。

 厩舎やばん馬場はロビンソンが管理しているが、食べ物の出店はエスカル達に任されていた。

 カサギの好きなジャンクフードとジュースとワインは、カサギだけではなく、多くの人の食欲に刺さり大儲けするのだった。勿論二人も食し、味の改善もはかっている。メニュー開発にも関わり、多忙な日々を送っているのだった。



 セバスチャンも選手の写真やサインなどのグッズ製作を行い、一割を選手に渡して(現在の肖像権料を払い)、問題なく利益を得ることに成功していた。

 その資金を元に馬を各地から集め、足の長くて細い馬(ばん馬に適さない馬)は王家や貴族家に売却した商売に転嫁もしていた。

 馬の厩務員(きゅうむいん)の多くを孤児院から雇い入れ、何れ騎手となるべく育成している。その活動が元々辺境伯家に友好的な王家に認められ、継続的な支援金が出されることになった。


「楽しいですな、よく分からないことを形にするのは。まだまだ引退なんてできませんぞ♪ 手始めに、伯爵領を馬の聖地にしてみますか? アンシールよ、たくさんの可愛い子を集めてあげますからね。待ってて下さいな」

「ウヒヒーン、ヒヒンーン、ヒーン! (頼んだぜ、セバスチャン。さすが心の友だぜ!)

「フフォ、任せあれ!」

 

 そんな感じです。


 馬の投票権はお金で買うが、当たった人にはお金の代わりに領地で使える商品券が渡され、領地の産業に役立っていた。特にばん馬の選手が立ち寄る食堂や商店街が賑わっているらしい。


 近々、ばん馬と騎手のぬいぐるみが売られる、手芸屋が開店するらしい。買ってよし、作ってよし、贈ってよしの三拍子。セバスチャンの資金獲得計画は、まだ道の途中らしい。




◇◇◇

 ドルチェはベルチェ、クランデと共にそのお金で酒盛りしていると言う。でも翌朝はスッキリとしており、酒は残っていない酒豪なのだった。


「ばん馬最高ね。これからも一稼ぎしてくるわ」

「おう、頑張れ。我らの酒代の為に、働くのだ可愛い妹よ」

「ドルチェぬいぐるみでも作って売り出す?」

「「良いねぇ~」」

「フフフッ」

「ウフフッ」 

「後はぁ、坊っちゃんがいつ告白するか賭けない?」

「半年以内、1年以内、それ以降で。私はヘタレ坊っちゃは、まだまだ無理に賭けるわね」

「ずるい、私も、それにするぅ」

「あー、もう。賭けにならないからやめよう」

「ウフフッ、そうね~」

「まだまだ、弟扱いだもんね」

「可哀想な、坊っちゃん。ウホホホホッ」

「キャー、酷いお姉さま」

「あんたも、そう思ってるでしょうが」

「えー、私はそんなこと……思ってるよ、デヘヘッ」

「でもさあ、カサギなら、仕えてあげても良いんだけどね」

「うん、私も良いよ。苦労してもひん曲がらないで生きて、あの子はエライ」

「あの子の母親もそうよ。逆境にもめげないで、頑張っていたわ。お姫さまだったのに、くそ親父と継母のせいで。カサギだって生きてて欲しかったはずだわ。うえ~ん、切ないよぉ」

「私も泣けてきたわ。もう呑もう妹ぉ」

「勿論よ、愛しい妹達。ヒックゥ、今夜も(・)無礼講よ~」

「わ~、お姉さま、大好き」

「ウハハハハッ。お世辞はいらないわ~」

「ハイハイ、分かりました♪ ウフフッ」


 ロビンソンに作って貰った遮音部屋では、みんなが寝静まった後、姉妹の話で花が咲く。この時ばかりはちょっぴり酔い、ストレスを大発散していた。

 普段は完全無欠の完璧メイドだが、3人の時はだいたいこんな感じなのだ。









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