魔法陣が繋がらないので帰れません。
なんでもあり。
「繋がりませんねぇ…」
一人の魔法使いの女が嘆き声を出しながら、ひたすらに魔法陣に魔力を込めている。
「今日も上手くいかないのか?移動魔法陣も、遠隔魔法陣も」
「はいぃ、向こうとゲートが繋がらないので、帰れないどころか、王都の様子も何も映し出されません。まずいですよぉ、本部と連絡取れないなんて。お怒りどころか、謹慎処分からのクビまっしぐらですよぉ〜!」
「わかってるのなら、手を動かしてくれ。こっちはまた王族の無茶振りに応えて、こんなところまで飛ばされたんだからな」
「それ、全く同じ条件ですからね、私も」
「魔法装置のエネルギー源にしたいから、竜の鱗を取ってきてくれなんて、馬鹿げている」
「しかも剣術士一人、魔法使い一人だけしか人員を充ててくれないとか、終わってます…」
「俺たち、よく死んでねえな」
「運がよかったものです。私たちが失敗したら、また同じように誰かが派遣されていたでしょうねぇ」
無駄口を叩きながらも、手は動いている。
それでもやっぱり魔法陣は起動しなかった。
上から数えても早いくらい優秀な魔法使いが、魔法陣を描くのを間違えるはずもなく。
何度も書き直しているが、一向に本国と繋がらない。
魔法陣が起動しないために、2人は移動しながら、色々と試していた。
徒歩で国に帰るなど、1年はかかるところを歩いている。
今のところ、それ以外の方法がない。
「魔法使いが空も飛べないなんて、驚いたけどな」
「正式には飛べますから。ただ、自分一人しか運べないので、あなたを置き去りにすることになるというだけの話です」
「魔法って、万能じゃないんだな」
「この世にそんなものあるんでしょうか?その竜の鱗だって、本当に使えるかどうか…」
「国が近くないからいいが、あんまり下手なこと言うなよ。俺たちの命は、王の気まぐれ一つですぐにでも消し飛ぶんだからな」
剣術士は、怖い顔で淡々とそう言った。
そんなこと、魔法使いにもわかっていた。
だからこそ、この無茶難題の旅に出たのだ。
命令に従わなければ、待っているのは死のみ。
彼らが籍を置いている国は、そういう国である。
だから、何がなんでも帰らなければならないのだ。
「魔法陣、新しく描き直してみます」
「ああ、こっちは食材を探してくるよ」
この旅がなければ、顔も知らなかった2人は、生きたまま国に帰るためだけに結束力が強くなっていっている。
果たして、いつになったら、祖国に帰れるのだろうか。
そうして、魔法陣以外の歩きや馬車を使う方法で、自分たちの国の隣の国までやってきた時、人々の様子は少しおかしくなっていた。
人の数は減ったようには見えなかったが、無理矢理にでも盛り上げている、そんなふうに見えた。
「なあ、隣の国まで行きてえんだが、馬車は出てないのか?」
街の人に聞けば、全員が顔を顰める。
「なんであんな国に行きたいと言うんだね。罰当たりな」
「お前さんたち、悪いことは言わん。行くのはやめておきなさい」
「今行ったところで、どうにもならないのよ」
口を揃えて行くなと言われ、じゃあ何があったのかと訊くと誰も答えない。
口を閉ざすだけだ。
さすがの魔法使いも、剣術士も、嫌な予感はした。
それでも、一度は祖国に帰る必要がある。
なるべく急いで帰ってきたが、さらに急いで国に向かった。
隣国から、国を見渡せる崖の上まで、馬を走らせた。
そして、そこに見えたのは、真っ黒な煤だった。
国がまるごと灰となり、滅んでいた。
建物も、人も、王宮も、魔法塔も、全部ない。
「どういうこと、ですか…?」
唖然とする魔法使いに、剣術士は譫言のように呟いた。
「竜だ……」
「え?」
「竜の怒りを買ったんだ。聡い竜のことだ、俺たちが誰の命令で鱗を取りに行ったか、知ってたんだろう」
「あの時、なんの抵抗もなかった竜が、滅ぼしに来たと?」
「ああ、本丸にひとっ飛びだったわけだ」
「それは魔法陣が繋がらないわけです…。だって、繋ぐ先がないんですから」
あはは…と、どちらともつかない乾いた笑いが漏れる。
竜の怒りを買った地は、呪われた地。
忌み嫌われるようになる。
だから、隣国の人々は、行くなと言っていたのだ。
魔法使いと剣術士は、しばらくずっと祖国を見ていた。
本来は帰るべきだった場所はもう、帰れない場所になっていた。
「なんというか、俺たちだけ、助かったということか…」
「私たちだけ、被害にも遭わず、国にも殺されなかった…」
「俺たちだけ、自由だ…」
2人はまだ上手く感情を処理しきれないまま、互いの肩を叩き合った。
「お疲れ様でした、今までずっと」
「ああ、よく生き延びたな俺たち。お疲れ様…!」
眼下には滅びた街が、今日も真っ黒に焦げ付いていた。
了
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239日目。




