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魔法陣が繋がらないので帰れません。

作者: 有梨束
掲載日:2026/08/28

なんでもあり。

「繋がりませんねぇ…」

一人の魔法使いの女が嘆き声を出しながら、ひたすらに魔法陣に魔力を込めている。


「今日も上手くいかないのか?移動魔法陣も、遠隔魔法陣も」

「はいぃ、向こうとゲートが繋がらないので、帰れないどころか、王都の様子も何も映し出されません。まずいですよぉ、本部と連絡取れないなんて。お怒りどころか、謹慎処分からのクビまっしぐらですよぉ〜!」

「わかってるのなら、手を動かしてくれ。こっちはまた王族の無茶振りに応えて、こんなところまで飛ばされたんだからな」

「それ、全く同じ条件ですからね、私も」

「魔法装置のエネルギー源にしたいから、竜の鱗を取ってきてくれなんて、馬鹿げている」

「しかも剣術士一人、魔法使い一人だけしか人員を充ててくれないとか、終わってます…」

「俺たち、よく死んでねえな」

「運がよかったものです。私たちが失敗したら、また同じように誰かが派遣されていたでしょうねぇ」

無駄口を叩きながらも、手は動いている。

それでもやっぱり魔法陣は起動しなかった。

上から数えても早いくらい優秀な魔法使いが、魔法陣を描くのを間違えるはずもなく。

何度も書き直しているが、一向に本国と繋がらない。

魔法陣が起動しないために、2人は移動しながら、色々と試していた。

徒歩で国に帰るなど、1年はかかるところを歩いている。

今のところ、それ以外の方法がない。


「魔法使いが空も飛べないなんて、驚いたけどな」

「正式には飛べますから。ただ、自分一人しか運べないので、あなたを置き去りにすることになるというだけの話です」

「魔法って、万能じゃないんだな」

「この世にそんなものあるんでしょうか?その竜の鱗だって、本当に使えるかどうか…」

「国が近くないからいいが、あんまり下手なこと言うなよ。俺たちの命は、王の気まぐれ一つですぐにでも消し飛ぶんだからな」

剣術士は、怖い顔で淡々とそう言った。


そんなこと、魔法使いにもわかっていた。

だからこそ、この無茶難題の旅に出たのだ。

命令に従わなければ、待っているのは死のみ。

彼らが籍を置いている国は、そういう国である。

だから、何がなんでも帰らなければならないのだ。


「魔法陣、新しく描き直してみます」

「ああ、こっちは食材を探してくるよ」

この旅がなければ、顔も知らなかった2人は、生きたまま国に帰るためだけに結束力が強くなっていっている。

果たして、いつになったら、祖国に帰れるのだろうか。


そうして、魔法陣以外の歩きや馬車を使う方法で、自分たちの国の隣の国までやってきた時、人々の様子は少しおかしくなっていた。

人の数は減ったようには見えなかったが、無理矢理にでも盛り上げている、そんなふうに見えた。


「なあ、隣の国まで行きてえんだが、馬車は出てないのか?」

街の人に聞けば、全員が顔を顰める。


「なんであんな国に行きたいと言うんだね。罰当たりな」

「お前さんたち、悪いことは言わん。行くのはやめておきなさい」

「今行ったところで、どうにもならないのよ」

口を揃えて行くなと言われ、じゃあ何があったのかと訊くと誰も答えない。

口を閉ざすだけだ。


さすがの魔法使いも、剣術士も、嫌な予感はした。

それでも、一度は祖国に帰る必要がある。

なるべく急いで帰ってきたが、さらに急いで国に向かった。

隣国から、国を見渡せる崖の上まで、馬を走らせた。


そして、そこに見えたのは、真っ黒な煤だった。

国がまるごと灰となり、滅んでいた。

建物も、人も、王宮も、魔法塔も、全部ない。


「どういうこと、ですか…?」

唖然とする魔法使いに、剣術士は譫言のように呟いた。


「竜だ……」

「え?」

「竜の怒りを買ったんだ。聡い竜のことだ、俺たちが誰の命令で鱗を取りに行ったか、知ってたんだろう」

「あの時、なんの抵抗もなかった竜が、滅ぼしに来たと?」

「ああ、本丸にひとっ飛びだったわけだ」

「それは魔法陣が繋がらないわけです…。だって、繋ぐ先がないんですから」

あはは…と、どちらともつかない乾いた笑いが漏れる。


竜の怒りを買った地は、呪われた地。

忌み嫌われるようになる。

だから、隣国の人々は、行くなと言っていたのだ。

魔法使いと剣術士は、しばらくずっと祖国を見ていた。

本来は帰るべきだった場所はもう、帰れない場所になっていた。


「なんというか、俺たちだけ、助かったということか…」

「私たちだけ、被害にも遭わず、国にも殺されなかった…」

「俺たちだけ、自由だ…」

2人はまだ上手く感情を処理しきれないまま、互いの肩を叩き合った。


「お疲れ様でした、今までずっと」

「ああ、よく生き延びたな俺たち。お疲れ様…!」


眼下には滅びた街が、今日も真っ黒に焦げ付いていた。







お読みくださりありがとうございました!!

239日目。

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