天啓といっしょ♪
「え……。それは……、違くね!?」
画面を追いながら、おかしな文章にツッコミを入れる。
「……誰か、ツッコんでやれよ……」
一人語りで進んで行く物語。
主観で語られる、新しいが、どこか古臭い物語。
『普通ここで、他の人が出てきて、こういう振る舞いをして、そんで……。……あー!! 違うじゃん、そうじゃないじゃん。何で? 何でそういうことになる? ……作者は一体、何をしたいんだ……』
俺だったら、という仮定でもって、物を読むタイプには非常に不愉快な展開図。
普通も常識も通用しない、話題展開。
『一体、何をどうすりゃそうなるの? そして、作者は何者なの? んで、このキャラは、いくつなの……!?』
読みながら、心の中でツッコミを入れる。
『こんなに、ツッコむことなんて、ないのにさ』
普通、物語は起承転結。始まって、展開して、どんでん返しがあって、結びの挨拶がある。
なのに、この物語は。
「ジェットコースターじゃねぇか……」
まるで病気。何かの病気みたいに、上がって下がって上がって下がる。
あまりの乱高下に、上昇気流も慌てて戻ってくるというもの。
「……何か、あったのかな」
長年の勘と経験が、小さな警鐘を鳴らす。
「こういう文章書くやつは、たいてい……」
昔、文芸部にいた時、色んなアマチュアの物語を読んだ。
アマチュアとは言っても、皆、物書きの卵だ。それなりの腕はある。
普段、物静かな友達が書く物語は、結構ハードボイルドだったり、優しくて気さくな女友達が書く物語は鋭敏なセンスを活かした、読者をドキドキさせる物語だったりした。そして、ファッションセンスがいい、平安貴族のような友達が、企画を持ってきてそれが大ヒットしたりした。
「何か、あったんだな」
友だちに似た文章を辿りながら、その思いは確信に変わる。
いつもなら、「素晴らしい!」からの「スルースキル発動!」なのだが、これは少し違った反応を返すべきかもしれない。
「とはいえ……」
作者の名前と、俺の技量……。
「たぶん、あいつだろ……?」
ネットで無双しているあいつ。そして、ネットで影キャラを演じている俺。
「格が……、違うよなぁ」
人格も嗅覚も触角も違うと思う。
きっと、俺みたいに鈍感な奴じゃない。
『表向きニコニコして対応し、裏で……っていうかネットで、グサグサ人のプライドを刺してくる奴だろ……?』
俺の長年の経験が言っている。
『触らぬ神に祟りなし……!』
この神なるものを触れるのはきっと、同じ性質の神か、まったく逆のポジションを取る神。
もし、人ならば、何かがイカれてしまった人間か、物を知らない若い衆か、『俺なんて……俺なんて……。いなくなっちまえばいいんだーぁーぁーぁー!』と叫んで職場から消える、有能だがポンコツの年下か、なんちゃってサイコパスあたりが適任だろう。
“そんなんじゃ、ないのに……”
あれ、おかしいな? 天啓が……なんか突っ込んできた。
“そんな酷い人間は、どこですか……?”
あれあれ? なんか、天啓がグロッキーなんだけど?
大丈夫? 薬要る?
“お前のー、そういうところがー、大嫌い~♪”
あ、天啓歌い出した。
“あっ、ごめんね! そいつら回収するね! ごめんね! ……こらー、だめだって言ったでしょうー! 言うこと聞け―!”
……。他人に優しく、身内に厳しく……。この天啓、金持ちか!?
『なんてな』
そんなのが聞こえ始めたらお終いだ。とにかくすべてがお終いだ。
俺の人生、お終いばかり。
仕事で干され、家庭で干され、そろそろ干し芋に親近感が湧いてきたところ。
「お前って、俺みたいだな」
母ちゃんとの買い物(無理矢理)に付き合わされながら、スーパーの干し芋に手を伸ばす。
『……随分高くなっちゃってまぁ』
昔はこの半額くらいだった。今の若い衆なら、これが本当は今より100円くらい安かったと言ったら、度肝を抜かれて倒れるだろう。
『言えねぇ……。言えねぇよなぁ……』
流石に相場観まで伝えられるほど、最近の子どもは頭が良くない。
必死に学校で勉強している子どもは、そちらに容量を持っていかれて、他のことに割く頭の容量がない。
『俺も、そうだったし』
俺が必死に勉強している一方で、するすると勉強を身につけて、いつも100点を叩き出す友達がいた。友達のピンチにはダッシュで駆けつけて、必要とあらばボコボコにして、警察送りになっても、「それがどうした」と反省しない、悪党か正義の味方か分からんような友達がいた。
「だって、困ってるんだよ!? 見捨てるなんて、あり得ない!」
そう言って、俺の手を煩わせる友達がいた。
「あのさーぁ、今月さーぁ……」
ほら、来た。金と時間の無心だ。
「100万からか……?」
テキトーに答える。
「ううん、1000万♡」
とんでもない額を言う。
そんな、はした金。もっと大きく出てくればいいのに。
「1000万? 1億じゃなくて?」
そう言うと、友達が不思議そうな顔をする。
「1億もらうより、1000万を1億にする方が楽しいじゃん」
何言ってんの? と小馬鹿にする響き。
いや、相手は思ってないのだが、昔の恋人がそんなんだったものだから。
「ほう。……して、単位は?」
「そうだね、最近、ちょっと読めなくなってきたからね……、円より百万円の方がいいかな!?」
長年、会社経営などやっていたものだから、物の単位がおかしくなってしまった友達。
俺は未だに分からない。
何故、決算だなんだの書類に「百万円単位」が使われているのか。
俺は役員まで上がったけれど、未だにその謎だけは解明できない。
「あんたさぁ、また誤解を生むようなことをさぁ、思ってるんじゃない?」
流石、昔の友達は違う。よく物を見ているし、俺の心の中も見えている。
「生徒会役員のことを、まるで会社役員のように言ったりしてない?」
当たり。そう。事実はそう。だけど、違う。これは小説における常套手段であって。
そうではないことを、あたかもそうであるかのように告げるのは。
創作者たるものの、習性とか性分であって……、使う場を間違えたら詐欺だけど……、そこに錯誤があるかないかが問題で……
「言ってはないよ、思ってるだけで」
人に伝えるは責任が。言ったことには責任が。
だから、俺は口数減らす。口から出るは嘘ばかり。
『でも、本当は――』
嘘ばっかりってわけでもない。本当に思ってる誉め言葉。本当に願ってるその未来。
だけど、全部を言うと、相手がもたない。
だから、相手に分かる範囲と量で。その辺を勘案しながら、時にはそれを小さく越えて。
相手に向かって伝えていく。
社会は、許容範囲が狭いから。
俺と友達みたいに、垣根を越えて、心と心の触れ合いを楽しめる奴など、ホントに稀で。
だから、俺らは線引いて。俺とあいつに線引いて。
『俺らとお前は違う奴』
そうして、ラインを引っ張って、上手に付き合うしかないじゃん。
ホントはマブダチなんだぜだとか。
ビジネスパートナーが年下だとか。
付き合った時期などないんだだとか。
そういう仲良しアピールなんて、所詮、幻のものだから。
“分かってるけどね~、弱い奴~!”
ぐぅ。
“それを、許されてたら、こっちだって……”
うっ……。
“ま、まぁ、人には事情があるもんね!”
うんうん……。
“……ダッサ。”
ほ、ホントのこと言うな……!
“え……? あっ、違う違う。あの、この天啓どもに言ってんの。君はダサくないよ? 素敵だよ。うん。……うん(睨む)”
うん、優しい言葉だと受け取るね……。それ以上言ったら、おじさん、死んじゃう……。
“(またやっちゃった……)”
あぁ、天啓が凹んでる。
「へー、天啓って凹むんだ~。そんな天啓あるんだ~。メモメモ……」
ほんっとにこいつは……。
勉強をしろ、小説の勉強ではなく。
世の中をもっと勉強しろ。そういう実学が足りないから……。
……。
『通じるものはありますか?』
『そうですね、何かあると思います』
『それじゃ、あれを捕まえますか?』
『捕まえんのは……、明日で良くね?』
何でも一気呵成に、成そうとしては揺らぐだけ。
こつこつ、静かに着実に。
外堀埋めて、イエスを貰う。
そうでもしなきゃ、体力が。
多分もたねぇ、生まれが違う。
「今がチャンスと、言いますが?」
「チャンスは生きてりゃ、何度も来るさ」
友だちが俺をけしかけて、実働するのは俺単体。
俺は友とは違うから。ゆっくりやるのさ、互いのために。
それが、あいつの選んだ道ならば。
これが、自分の道だから――。
流行りが廃れりゃあ、人廃る。
それでも、道は続くから。
テキトー言って、真実言って、時々冗談混ぜ込んで。
ポンッと出来たその仕事。
誰かに掻っ攫われてお終いよ。
それが、いいじゃん。それくらい。
手柄はお前に。経験俺に。
そのくらいで、やってけりゃ。
俺はいつか死ねるでしょ?
君はずっと、そこにいて。
いなくなってもそこにいて。
だから、僕は大丈夫。
この世界がある限り、僕が肉体ある限り。
俺の財布は、俺のもの。




