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家では私は空気
玄関のドアが閉まる。
「ただいまー」
言ったのは、本野だった。
家の中には、テレビの音と、誰かの足音。
家族全員、家にいるはずなのに――
誰も、こちらを見ない。
「……」
私は何も言わず、靴を脱いだ。
「ただいまー」
もう一度、本野が言う。
電気はついている。
人の気配もある。
でも、返事はない。
「……無視?」
本野が首をかしげる。
「笑えるね」
そのとき。
「ちょっとうるさいんだけど」
奥から声がした。
「ていうか、あんた誰?」
本野は一歩前に出て、明るく言った。
「本野です。今日からお世話になりまーす」
少しの沈黙。
「……わかったわ。
とにかく、うるさくしないで」
それだけ言って、向こうは戻っていった。
「わかってまーす」
本野は軽く返事をして、私の方を見た。
「ねえ、夢乃」
小さな声。
「ここ、夢乃の居場所?」
私は答えられなかった。




