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仕事の準備
更衣室は狭くて、少しだけ古い匂いがした。
エプロンを手にしたまま、私は立ち尽くしていた。
「……私には、バ、バイトなんて無理だよ。ていう
か、電話なんて、いつしてたの……?」
声が震える。
「魔法で電話したの」
本野はあっさり言った。
「そしたら店長さんがね、“今日来て”って」
「……それにしても、いつ電話してたの?」
本野は首をかしげて、少し得意そうに笑う。
「夢乃と話してたとき」
「え?」
「私ね、同時に何人かと話せるの」
意味が分からなくて、私は黙り込んだ。
「本だもん。そのくらい、できないと」
本野はそう言って、私のエプロンのひもをきゅっと結んだ。
「大丈夫。最初は怖くて当たり前」
鏡の中の私は、不安そうな顔をしていた。
でも、さっきより少しだけ――逃げ出したい気持ちが小さくなっていた。




