第98話 ラグナの思想(コード)の咆哮
演算核の中心にある赤い点滅が、
ゆっくりと形を変え始めた。
燃えるような赤。
とぐろを巻くような影。
その中から——
“声”が響いた。
《……世界は……歪む……》
低く、ざらついた声。
《……情動は害……
混乱……争い……絶望……
あらゆる不幸の源泉……》
赤い光が脈動しながら、
カケルへ向けてうねる。
(……これが……
ラグナの本当の“思想”……)
(肉体は倒したはずなのに、
残った怨念と思想だけが……
システムの中で生き残ってる……)
◇
ラグナコードの声は続く。
《……だから、世界はリセットされるべき……
情動を消し、純粋な“静寂”の世界を……
千年単位で再構築する……》
「勝手なこと言ってんじゃねぇよ……」
カケルは睨みつけた。
「世界は、お前がやり直すもんじゃねぇ。
生きてる人間が、毎日積み上げるんだ!」
《……積み上げ?
無意味……
努力は裏切られ、愛は壊れ、
友情は崩れ、家族は離れ……
お前も知っているはずだ……》
ラグナコードは、
赤い光の中からカケルの“記憶”を引きずり出す。
《お前は……
日本で全てを失った……
だから……分かるだろう……?》
カケルの胸に、鋭い痛みが走る。
(……ぐ……ッ)
◇
外では、通路の壁に亀裂が走り始めていた。
「ミュコ!! 大丈夫か!?」
「ピュッ……ピュイイイ!!」
ミュコの壁が必死に耐えている。
しかし——
ラグナ思想の“揺らぎ波動”がミュコ壁を崩し始めた。
「グレン! やばいぞこれ!!」
「クソッ……通路が揺れてる!!」
フィンが叫ぶ。
「カケルさんに届いちゃう……!!」
「……ぬるい!」
ボビンが盾を通路の入口へ叩きつけた。
ガンッ!!!
盾の反射でミュコ壁の崩壊が一瞬止まる。
(……時間を稼ぐ。
カケルが終わらせるまで……)
◇
一方カケルの前では、
ラグナコードの光がふくらみ続けていた。
《……情動は不要……
その“痛み”は証明だ……》
「……痛みが……証明……?」
《……証明……
お前は、人間であることに苦しむ……
だからいっそ、“感情”を捨てた方が良い……》
その言葉は、どこか甘く、
誘惑のようでもあった。
だが——
カケルは笑った。
「苦しむ?
ああ、確かに……人間でいるのは痛い」
「でもよ……」
カケルは胸を叩いた。
「仲間がいると……痛みが“強さ”に変わるんだよ!」
《……理解……不能……》
「分かんねぇなら黙ってろ!!」
◇
ラグナコードがついに怒りを露わにする。
《——情動干渉、最大攻撃へ移行
中枢破壊波……放出》
真っ赤な光が凝縮され、
一点から放たれた。
ズドォォォォォォォン!!!!
通路全体が揺れ、
壁が割れ、
天井が崩れ始める。
《——ミュコ壁、耐久限界》
「ミュコ!!」
「ピュイイイ!!(まだいける!!)」
ミュコが必死に壁を再構築し、
その背後で仲間たちが支え続ける。
◇
だが、その一瞬——
カケルの通路が吹き飛びかけた。
「カケルさん!!!」
「カケル!!!」
「……守る!!」
「ピュッ!!」
(みんな……!)
仲間たちの声が、カケルの胸に火を灯す。
◇
「——だから言ったろ」
カケルは前へ出た。
「俺はもう……一人じゃねぇ!!」
拳を握り、
演算核の最深層へ向けて駆け出す。
《——危険
対象A、情動値……最大域
削減不能……!!》
ラグナコードの声が震えた。
「終わらせるぞ……ラグナ!!!」
ラグナもまた、絶望した存在だったんですね。
「救い」としての「リセット」。
でもそれは独りよがりの逃げでしかない。カケルの言葉が刺さります。
次回、第6章クライマックス!
カケルの拳が、神界のシステムを書き換えます!




