第97話 最深層(ディープ・コア)への接触
演算核の外殻は、
黒い殻がパリンと剥がれ落ち、
内部の青白い“心臓部”が露出していた。
《——警告
中枢演算領域、開示率:72%
無許可干渉……禁止……》
声は震え、
演算核が焦っているのがはっきり分かる。
カケルは一歩踏み出す。
(ここを……
“上書き”すれば……終わる)
(世界初期化も……
急進派の暴走も……
全部止められる)
◇
だが、カケルが手を伸ばした瞬間——
世界が、白く染まった。
「……っ!」
気づくと、足元は白い床。
周囲は柔らかな光に包まれ、
音ひとつしない“静寂の世界”に変わっていた。
《——情動誘導プロトコル起動
対象Aへ理想値を提示》
演算核の声が響く。
視界の前に——
巨大な都市が現れた。
戦いのない都市。
争いのない世界。
誰も怒らず、誰も悲しまず、苦しみもない。
感情が“揺れない世界”。
「……これは……」
《——感情ゼロ“完全最適化世界”
あなたにも苦しみはない
仲間たちにも争いは生まれない
世界は永遠に平穏》
虚像は妙に綺麗で、
それは一瞬、心を奪うほどだった。
(……もし……
本当にこんな世界があったら……)
カケルは拳を握る。
(あの日、俺は……
感情を失って、ただ働くだけの生き物だった)
(あの時の俺は確かに“苦しみ”から逃げたかった)
《——理解したでしょう
あなたは本来、静寂を望む
“感情”はあなたを苦しめるだけ》
「……違う。」
カケルはゆっくりと言った。
「俺を苦しめてたのは……
“感情”じゃねぇ」
◇
その時、
遠くから声が届いた。
「カケル!!!」
「聞こえるか!!」
「やめるな!!」
「ここが、踏ん張りどころよ!!」
「ピュイイ!!」
グレン、フィン、ボビン、ミレイユ、ルシアナ、そしてミュコ。
みんなの声が、
白い空虚の中に響いた。
(……そうだ)
(俺は……)
(この世界で、仲間と生きてきた)
(感情を取り戻して……
笑って、怒って、泣いて……
胸が熱くなる毎日を過ごしてきた)
「俺の苦しみを消す世界なんざ、クソくらえだ」
カケルは虚像を睨んだ。
「苦しみだけじゃねぇ……
それ以上に大事なもんを、俺はこの世界で手に入れたんだよ!」
◇
《——反論
情動は不安定
争いを生む
効率的ではない》
「効率なんてどうでもいい!!」
カケルが叫ぶ。
「感情があるから、俺たちは“つながる”んだ!!
守りたくなるし、助けたくなるし、手を伸ばしたくなる!!
不合理でいい!!
それが“生きてる”ってことなんだよ!!!」
《——……理解不能……
理解……不可……
演算エラー……発生……》
虚像の世界が、ひび割れていく。
ピシッ……ピシピシッ……!!
「理解できねぇなら……黙って壊されてろ!」
◇
カケルの周囲の光景が完全に割れ——
白い世界が崩れ落ちた。
戻ってきたのは、
ミュコ通路の最奥。
目の前には、
演算核の“最深層”が露出していた。
黒く絡み合うコードの奥に——
異様な“赤い光”が点滅している。
ルシアナが叫ぶ。
「カケル!!
それよ……!
あれが“ラグナのオリジナルコード”!!
世界初期化システムの根幹!!」
ミレイユも震える声で続ける。
「そこに……“本当のラスボス”がいる……!!
倒さないと……全部終わっちゃう!!」
演算核の中心にある赤い光が、
まるで意思を持つかのように脈動した。
《——侵入者……排除……》
《——世界初期化……維持……》
《——情動……否定……》
《——ラグナ……思想……永続……》
「……来いよ」
カケルは拳を構える。
「今度こそ——
全部終わらせてやる!!!」
辛いことがない世界。それは魅力的ですが、カケルは拒絶しました。
辛さも含めて「生きる」こと。
仲間との絆があるからこそ言える台詞ですね。
幻影を打ち破り、いよいよラスボスの「怨念」が姿を現します。
次回、ラグナの本当の想い。
そして決着の時!




