第96話 演算核との対決(コア・エンカウント)
ミュコが形成した長い通路の果て——
そこに、黒い脈を打つ演算核が浮かんでいた。
殻が割れて露わになったその中心には、
青白く震える“心臓”のような光球。
《——対象A
接近距離3メートル
脅威度:最大》
「……あれが、お前の本体か」
カケルは拳を握りしめた。
演算核は、まるでそれに応えるかのように
淡い光を放ちながら声を響かせる。
《——情動干渉プロトコル開始
対象Aの情動を解析……上書き》
黒い線が空間に走り、
カケルの胸へ向けて襲いかかった。
◇
「来いよ……!!」
カケルは一歩踏み込み、
黒線を拳で叩きつぶした。
バチィン!!
《——解析不能の情動反応
対象Aの“怒り波形”、異常強度》
(怒り……
間違いなく、俺の中にある)
(でも——それだけじゃねぇ)
カケルは深く息を吸う。
胸の奥の熱が、ゆっくりと形を変えていく。
(俺をここまで導いてくれたのは……
怒りじゃなくて……)
(――仲間だ)
◇
《——情動波形の変化検知
“仲間意識”の波形……上昇……?
理解不能……》
「理解できなくて当然だよ」
カケルは演算核へ向けて歩み寄る。
「お前は“効率”しか信じてねぇ。
でも、人間の感情ってのは——
もっと不合理で、メチャクチャで……
それでも前に進む力になるんだよ!」
《——非合理
非効率
削減対象》
「削ってみろよ!!」
◇
演算核が黒光を放つ。
ギュオオオオオオ……ッ!!
黒い“データの槍”が無数に生まれ、
カケルへ向かって飛び出した。
《——情動削減槍:30基
対象Aへ同時攻撃開始》
「来い!!!!」
カケルが拳を構えた瞬間——
外から、仲間たちの声が微かに届いた。
「カケル!! 負けるな!!」
「通路は守る!! 先へ進め!!」
「カケルさん!!」
「……守る。」
「ピュイ!!」
(ああ……聞こえてるよ……!
お前らの声が……俺の力になるんだ!!)
◇
「オオオオオオッ!!!!」
カケルは全力で踏み込み、
拳を振り抜いた。
黒い槍と拳がぶつかる。
バギィィィィィィィッ!!
槍が砕け散り、
演算核へ衝撃が走った。
《——内部演算に揺らぎ……!
情動干渉エラー……発生……!》
「ほら見ろ……!!
不合理でも……不確定でも……
“心”は揺らがねぇんだよ!!!」
◇
通路の外では、仲間たちが必死にガーディアンを押し返していた。
「くそッ……数が減らねぇ!!」
グレンが雷を叩きつける。
「大丈夫……
カケルさんは前に進んでる……!!」
フィンが連結点を切り続ける。
「……通すな。」
ボビンは盾そのものとなって、
通路入口を完全防御していた。
◇
一方、ミレイユは震える手で装置を監視していた。
「ルシアナ! カケルの情動値……
上がってる!! すごい速度で!!」
「ええ……
核の揺らぎも……はっきりと出てる!」
二人の図式が光を帯びる。
「このまま押し切れれば……
“最深層”まで届く!!」
◇
演算核が黒光を失い、
わずかに“青白い心臓部”が見え始める。
《——防壁低下……
演算中枢が露出……!!》
カケルは拳を握り直す。
「終わりだ……!」
《——否定
対象Aの削減処理、継続
——削除します》
演算核が最後の力で光を放つ。
だが——
その声には、
明らかな“焦り”が混じっていた。
◇
「来いよ……!」
「お前がどんな計算しようが——」
「俺の“心”は奪わせねぇ!!」
「非合理だから排除する」VS「不合理だから人間なんだ」
ずっとテーマにしてきた対立構造がここでぶつかり合いました。
カケルの拳に宿るのは、破壊の力ではなく「感情の熱量」。
次回、最深層へ。
そこで見せられたのは「悲しみのない完璧な世界」の幻影でした。
応援よろしくお願いいたします!




