第89話 仲間の軌跡(トレース)
《——完全形態移行率:97%
侵入者の情動上昇……理由を解析中……》
ラグナ残滓の仮面に、初めて“ノイズ”が走った。
カケルは仲間たちの姿を見て、
胸に熱が湧き上がるのを感じる。
◇
「カケル!」
ミレイユが駆け寄り、腕を掴む。
「あなたの情動流……まだ生きてる!
削られかけてても、核は残ってる!」
ルシアナも隣に立つ。
「ミレイユさんの解析は正しいわ。
あなたはまだ戦える……!
ここから巻き返すのよ!」
(そうか……
俺はまだ……折れてねぇ……)
◇
《——誤差検出
“仲間”による感情活性……非合理……》
ラグナ残滓の声が揺れた。
《——解析不能値……上昇……》
その一瞬の揺らぎを——
グレンが逃すはずがなかった。
◇
「じゃあ、“合理”的にぶった斬ってやるよ!!」
雷撃が走った。
聖剣が唸りを上げる。
斬撃が放たれた瞬間、
二重の雷の軌跡(双頭オルトロス) が影の海を切り裂いた。
バリバリバリィィィン!!
《——雷属性……高危険度
影構造……崩壊……!?》
「どうしたァ!!
雷を浴びるのは初めてか!!?」
グレンの聖剣は止まらない。
二重の雷撃が連続で走り、黒い糸の大半を消し飛ばす。
◇
「グレンさん、右側空いたんで行きます!!」
フィンの声が響く。
次の瞬間——
影の間を “消える速度” で疾走する影があった。
フィンだ。
(……速い……!?)
跳ねるように、滑るように——
まるで時間を短縮して動いているかのような速度。
一瞬ごとに位置が変わる。
《——対象Dの移動……観測不能
軌道追尾……失敗》
フィンが残滓の根元を十数カ所、
一呼吸の間に切り裂く。
シャッ、シャッ、シャッ!
「カケルさん……!
あなたの背中を追いかけてきた僕は、
もう昔の僕じゃないです!!」
◇
フィンに向かう反撃の黒糸——
その前に巨大な影が立ち塞がる。
ボボンッ!!
「……“守る”。」
ボビンの盾が
黒糸の攻撃を真正面から受け止めた。
その瞬間、盾が淡く光る。
「——倍返し。」
低い声とともに、
黒糸へ返った攻撃は “倍の威力”。
ズガアアアアァァン!!
黒糸が粉々に砕け、
衝撃波がラグナ残滓を揺らした。
《——反射攻撃……異常値……!?》
ボビンは静かに前へ歩いた。
「ぬるい。」
守っているだけなのに、
周囲の敵が勝手に倒れていく“無双”——
それがボビンという盾使いだった。
◇
そしてミュコ。
「ピュイッ!」
跳ねた。
ぴょん、ぴょん、ぴょん。
ただそれだけなのに——
着地のたびに光の残像が走り、
ラグナ残滓の視界が乱される。
《——小型生物……軌道乱反射……
解析不能……!!》
(……ミュコ……お前……
意外と……すげぇじゃねぇか……!)
◇
一方後方では、
ミレイユとルシアナが高速で魔術式と観測式を重ねていた。
「ルシアナ!
基幹層の“影構造”……解析完了!」
「ありがとうミレイユ!
ラグナ残滓の“演算核”……
3層構造のど真ん中よ!」
二人の知力が融合し、
空間に巨大な図式が描かれていく。
「ここを狙えば、完全形態を止められる!」
「そのためにはカケルの“情動波形”が必要!
カケルの感情が回復すれば、演算核へ干渉できる!」
「じゃあやるしかねぇな……!」
◇
ラグナ残滓が叫びにも似たノイズを放つ。
《——情動集合体……非合理……
解析不能……
削減効率……著しく低下……》
《——完全形態移行……一時停止……!?》
影が後退した。
「ほら見ろよ!」
グレンがニヤリと笑う。
「お前の“合理性”が揺らいでんぞ、ラグナ野郎!!」
◇
カケルは胸に手を当てる。
(……こんなにも……
俺のために……戦ってくれる奴がいる……)
(これが……
“仲間”ってやつなんだな……)
胸が熱くなる。
「……行くぞ、みんな」
仲間たちの声が重なる。
「「おう!!!」」
◇
《——削減処理……再計算
次段階へ移行》
ラグナ残滓の仮面に亀裂が走り、
内部の“演算核”がうねり始めた。
「次は……本気で来る!!」
カケルが叫ぶ。
「絶対に……負けねぇ!!」
個性が強すぎる前借亭メンバーの戦闘シーン、書いていて楽しいです。
ボビンの「倍返し」、グレンの「雷」、フィンの「神速」、ミュコの「跳躍」。
すべてが「非合理」なノイズとなってラグナ残滓を狂わせます。
次回、敵も本気を出してきます。
演算核を巡る攻防、激化!




