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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第87話 情動核への侵蝕

 光が消えた直後。

 空間は“無音”になった。

 風の音も、足音も、

 呼吸の感覚すら薄れていく。

 ただ——

 ラグナ残滓の冷たい瞳だけが、闇に浮かんでいた。

《——削減開始》

 その言葉の瞬間、

 カケルの胸の奥が“ぎゅう”と握り潰されたように痛んだ。

「っ……!!」

「カケル!!」

 ルシアナが手を伸ばすが、

 空間そのものが彼女の手を“跳ね返す”。

《——神性検出

 干渉を遮断します》

 白い壁がルシアナの前に立ちふさがる。

「くそっ……! なんで私じゃ触れられないの!!」

《——対象Bルシアナ

 神性:干渉不可

 情動核:解析価値なし》

「……“価値なし”だと……?」

 ルシアナの目に、怒りと悔しさが混ざる。

 

 ◇


 その間にも、

 ラグナ残滓の攻撃は“カケルの内側”を掘り崩していく。

 胸の奥がえぐられるような感覚。

 怒りも、悲しみも、全部冷たい水に落とされたように薄れていく。

「……ぁ……?」

(なんだ……?

 さっきまで……

 こんなに……怒って……)

 カケルの表情から“色”が消え始めた。

「カケル……!?

 ダメ……やめて……!!」

 ルシアナの声が震える。

《——情動核への直接侵蝕、進行中

 対象Aカケルの感情波形——平坦化》

 ラグナ残滓の声は淡々としている。

《——怒り:低下

 喜び:低下

 悲しみ:低下

 羨望:ゼロ

 希望:低下

 保護衝動:低下》

 カケルの瞳が、

 ゆっくりと焦点を失う。

「……ま……るな……」

「カケル!? 今なんて——!」

「……近寄るな……ルシアナ……」

「え……?」

 カケルは、まるで自分の声を聞いていないように言った。

「……守れ……ない……から……」

 その瞬間、ルシアナの胸が締めつけられた。

(違う……違うわカケル……!

 あなたはそんな弱音……絶対に言わない人なのに……!)

 目の奥が熱くなる。

 

 ◇


 すると、ラグナ残滓の声が響いた。

《——対象Aの“過去”を抽出》

《——防衛機構の弱点へアクセス》

「っ……!」

 空間が揺らぎ、

 カケルの足元に“黒い波紋”が広がった。

 そこから浮かび上がったのは——

 日本の会社のフロア。

「……う……そ……だろ……」

 カケルは顔を歪めた。

 無機質な蛍光灯の光。

 冷たいデスク。

 深夜の静寂。

 パソコンのフリーズ音。

 そして——

 上司の怒号。

 もう二度と聞きたくなかった声。

《お前は“感情に流される”からミスをするんだよ》

《考えるな、感じるな。ただ働け》

《お前に期待なんてしてない》

 カケルの肩が震えた。

「……やめろ……

 やめろって言ってんだろ……!」

《——対象A

 恐怖の中核パターン抽出

 “自己否定”を最大化します》

「……ぁ……あ……」

 カケルの足元の光が薄れ、

 膝が落ちる。

「やめて!!

 カケルを……返して……!!」

 ルシアナは白壁を殴った。

 何度も、何度も。

「どうして……

 どうして神なのに……

 あなたを守れないの……!!」

 涙が頬をつたう。

(お願い……

 お願いだから……

 カケル……戻ってきて……!)

 

 ◇


 その時。

 遠く離れた地上——前借亭の奥の部屋で。

 ミレイユが、突然頭を押さえた。

「……あっ……!」

 ボビンが彼女の肩を支える。

「ミレイユさん、大丈夫ですか!?」

「……カケル……

 カケルが……!」

 ミレイユの瞳が見開かれる。

「“心を壊されかけてる”……!!」

 グレンが椅子を蹴って立ち上がった。

「行くぞ!!

 どこだ!? どうやって行く!?」

 フィンが震える声で言う。

「神界……

 神界に……向かわないと……!」

 ミレイユは涙目で叫んだ。

「カケルが——

 ひとりで戦ってる!!」

 ミュコも不安げに鳴く。

「ピュイッ……!!」

 

 ◇


 一方、基幹層。

 カケルは片膝をつき、

 視界が揺れていた。

 怒りも悲しみももう薄い。

(やめろ……

 俺から……全部……奪うな……

 俺の……“感じる力”を……)

《——削減進行度、64%》

 ラグナ残滓の声に、ルシアナが叫ぶ。

「やめてっ!!!」

 彼女はついに白壁をすり抜けるため、

 “神性の殻”を破壊しようとした。

(カケル……

 あなたが……あなたの“感情”を……

 失うなんて……)

「そんな未来……

 絶対に許さない……!!」

 白壁が微かに揺れた。

 その揺らぎは、

 ルシアナが一歩“神ではなく人として”近づいた証。

 だが——

 ラグナ残滓は冷たく言い放った。

《——抵抗は非合理

 情動核——停止まで残り36%》

「カケル!!!!!」

 ルシアナの叫びが、

 白い空間に響き渡った。

神であるルシアナが弾かれ、人間であるカケルだけが削られていく。

無力感に打ちひしがれるルシアナのシーンは辛いですが、希望はまだあります。

地上の仲間たちが動き出しました!


次回、お待たせしました、あのメンバーが……

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― 新着の感想 ―
カケルがルシアナを救ったように、今度はルシアナがカケルを救う。神であることを捨ててまで… 頑張れ、ルシアナ。君ならカケルを救うことができる! 一方、前借亭のみんなも、カケルのピンチを察し、神界に向かう…
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