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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第85話 影の心臓部

 “それ”は、まだ完全な姿を見せてはいなかった。

 灰色の闇の奥で、巨大な塊が脈動している。

 心臓の鼓動のように波打つたび、

 空間がぐらり、と揺れる。

《——解析完了。

 侵入者A:カケル

 侵入者B:ルシアナ・フェルシア

 削減優先度:最上位へ更新》

 声は機械のようでありながら、

 どこか“生き物の息遣い”のようでもあった。

「……これが、ラグナの残滓……?」

 ルシアナの表情が硬くなる。

「ラグナ本体とは全く違う……

 これは感情ではなく“計算の塊”よ」

 影の塊の輪郭がゆっくりと、

 形になり始めた。

 人型とも獣型ともつかない“抽象的な影”。

 しかしそれは確かに、こちらを見ていた。

《——情報補正処理を開始。

 不要情動:順次削減》

 その言葉と同時に、

 空間の色が“淡い灰色”から“濃い黒”へ変わった。

「う……っ!」

 カケルは胸の奥に強烈な圧迫感を感じた。

 まるで世界の空気が重くなり、

 心臓を掴まれるような苦しさ。

「カケル! 立って!」

「わ、分かってる……がっ……!」

 影の脈動は、

 “空気”ではなく、“感情”を押し潰す力だった。

(これ……“感情ゼロ化”の圧か……!?)

 怒りも、

 恐怖も、

 悔しさも、

 悲しさも、

 全部、冷たい水に沈められていく感覚。

「カケル、しっかりして!」

「お前……

 こんな、クソみてぇな力で……

 俺から感情を奪おうってのか……!」

 カケルは歯を食いしばった。

 

 ◇


 突然、空間の左側に“光の裂け目”が開いた。

「な……!?」

《——冷律会ユニット、追加配置》

 裂け目から次々と現れたのは——

 先ほどの“光の人影”ではなかった。

 より濃く、輪郭がはっきりした “冷律会の神々本人”だった。

 しかし目は虚ろで、

 その姿勢は糸で吊られた操り人形のようだった。

「……スルヴァ……?」

 ルシアナが小さく名を呼ぶ。

 だがスルヴァは返事をしない。

 ただ、ラグナ残滓の方向を見つめている。

《——冷律会ユニットへ命令伝達

 侵入者を囲み、情動流を遮断》

 神々が一斉に動き、

 カケルとルシアナの周りを取り囲む。

「クソッ! 囲まれた……!」

「カケル、待って!」

 ルシアナがカケルの腕を掴む。

「彼らは……“操られているだけ”よ。

 本人の意志じゃない!」

「分かってる! でもこのままじゃ——」

《——情動封鎖開始》

 足元の道が、黒い膜に覆われた。

「これ……っ!?

 動けねぇ……!」

「情動の流れを“止めてる”のよ!

 身体じゃなくて、心を固定されてる!」

 ルシアナも膝をつきかける。

 

 ◇


 その時、遠くから轟音が響いた。

 調律会の神々の声が、かすかに届く。

「アルシア様っ! 調律柱が——!」

「基幹層の乱れが全層に伝播しています!」

「このままでは神界そのものが——!」

 ルシアナの顔が歪む。

「……まずい……

 この暴走は、調律会の手にも負えない……!」

「つまり……

 ここで俺たちが止めなきゃいけねぇってことだな」

「ええ……!」

「ここしかないわ!」

 

 ◇


 ラグナ残滓が、ついに“上半身”だけを明確な形にする。

 だがその形は歪んでいて、

 感情を持たない者の“模倣された姿”だった。

《——最適解を更新中

 削減速度を上昇させます》

 空間中に無数の“黒い糸”が走った。

 それらは全方向からカケルとルシアナへ伸び——

 まるで“感情そのものを吸い上げる触手”のようだった。

「来る……!」

「カケル、正面は私が凌ぐ!

 あなたは——」

「分かってる!」

 カケルの足元の黒膜が少しだけ割れた。

 その瞬間、彼は拳を握り込んだ。

「——ぶち破る!!」

 カケルの怒号が、空間を震わせた。

 黒い糸が襲いかかり、

 冷律会の神々の影が揺れ、

 ラグナ残滓の影がさらに濃くなる。

 

 ◇


 そして、ルシアナが——

 一瞬、目を見開いた。

「……おかしい……」

「なんだよ!」

「ラグナは……

 本来、“感情そのもの”を好む性質じゃなかった……

 でも、今のラグナ残滓は……」

 ルシアナは震える声で続けた。

「まるで“感情を理解しているように振る舞ってる”……!」

「……どういうことだ!?」

「ラグナ残滓が……

 “進化”してる……!」

 その言葉がカケルの背筋を凍らせた直後——

《——情報処理、76%完了

 完全形態へ移行します》

 ラグナ残滓が巨大に膨れ上がった。

ラグナ残滓、ただの影かと思いきや「進化」しています。

感情を理解したふりをするシステム、一番タチが悪いですね。

囲まれて絶体絶命の二人。地上にも影響が出始めています。


次回、完全形態へ移行した敵が、カケルの「心」を直接狙い撃ちにしてきます。

ルシアナの悲痛な叫びが響く……!

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― 新着の感想 ―
いよいよラグナの残渣が形作る?! 冷律会の神々本人が、ラグナ残渣から〝冷律会ユニット〟と呼ばれて操られてる。ミイラ取りがミイラになってしまって…神なのにカケルより精神弱いなんて…どんだけラグナ残渣の思…
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