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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第79話 提示された“証拠”

 神界最高会議ヘリオス・アークの中心で、

 調律柱が静かに輝きを増していた。

「では冷律会——

 収穫行為に関する証明を提出しなさい」

 アルシアの澄んだ声が会議場に響く。

 デウス=ヴァリオスは椅子から立ち上がった。

「……証明ならば、ある」

 その言葉と同時に、彼の足元から黒い揺らぎが広がる。

 まるで光を拒む影の波紋が、議場にじわりと染み込むようだった。

「始まった……」

 調律会の神々が緊張し、息を呑む。

 

 ◇


「まず——収穫の実行責任者、スルヴァ。

 あなたに答えてもらいます」

 アルシアが名指しすると、

 スルヴァはぎこちない動きで立ち上がった。

「あなたは“どの神界律”に従って収穫行為を正当化したのですか?」

「……律……?」

 スルヴァの瞳が揺れた。

「そう。

 重大な行為には必ず根拠となる律が必要。

 あなたほどの階級なら、当然それを提示できるはずです」

「……私は……任務を……遂行……」

「その“任務”の出どころを聞いているのです」

 フェリシアが重ねる。

「あなたは中位以下の神。

 本来、基幹層の律へ直接アクセスする権限は持っていない。

 なのに、どうやってその命令を得たのです?」

 スルヴァの表情が“空白”になった。

「……あ……れ……?

 私は……どこから……」

 その姿はまるで、

“初めて自分の行動原理を考えた”者のようだった。

「どういうことだ?」

「自分の根拠を知らない……?」

「命令の由来を把握していない……そんなはずが……!」

 議場にざわめきが広がる。

 その時——

「スルヴァが答える必要はない」

 静かに割って入ったのは、

 冷律会高位神デウス=ヴァリオスだった。

「収穫の根拠は——

 基幹層からの神界律である」

 議場が一気に騒然とする。

「基幹層……!?

 冷律会が基幹層にアクセス……?」

「そんな権限、付与されていないはず……!」

 アルシアはスルヴァへ鋭く向き直った。

「スルヴァ。

 あなたは基幹層にアクセスできる階級ではない。

 本来、不可能なのよ。

 誰があなたに、その“律”を与えたの?」

 しかしスルヴァは答えられない。

 代わりに——

「基幹層が直接、我々に告げている」

 ヴァリオスが淡々と告げた。

 その声音には驚きも誇りもなかった。

 ただ、規則文を読み上げているだけのように。

「そんな……」

「基幹層の指令を……“そのまま受け取っている”?」

「こんな事例、神界史に存在しない……!」

 調律会の神々が震え始めた。

 

 ◇


「データを投影する」

 ヴァリオスが指先を動かすと、

 会議場中央の調律柱が反応し、光がねじれた。

 浮かび上がったのは情動流の図。

 しかしその一部が不自然に“黒く塗りつぶされた”ように見える。

「……おかしいわ。

 “欠損”のところが……黒で隠されている?」

 観測神ソルネアが目を凝らす。

「こんな表示、見たことがありません……!」

「これは何だ……?」

「情報が“遮断”されているように見えるぞ……!」

 調律会の席がざわついた。

 

 ◇


 ヴァリオスは淡々と告げる。

「これは情動の安定化の結果だ」

「安定化……?」

「どこが安定なの?」

「むしろ“欠損”ではないか!」

「不要な情動は削減される。

 黒は“削除領域”を示すだけだ」

 アルシアは厳しい声で指摘した。

「しかし……これは“観測不能”の色。

 影響範囲が完全に空白になっている可能性がある」

「空白など問題ではない」

「問題よ」

 調律神フェリシアが切り込む。

「情動は世界そのもの。

 その流れを勝手に消すことは——」

「勝手ではない。

 神界律に基づく処理だ」

「その“神界律”の出どころは?」

「基幹層だ」

 ヴァリオスの声は、

 “意思”よりも“機械”に近かった。

 

 ◇


 カケルは黒い領域を見つめて眉をひそめる。

(……これ、“削減”なんかじゃねぇ。

 “ごっそり抜けた”みたいに見える……)

 黒い領域は穴のように図全体を歪ませ、

 その形はどこか“生き物”のようだった。

(ただのデータって感じじゃねぇな……

 なんだよ、これ……)

 しかしまだ、考えに確信はない。

 

 ◇


「では次に、収穫対象となった地上の症例を提出しなさい」

 アルシアの声に、ヴァリオスは指を弾いた。

「症例ならば記録してある」

 空中に展開されたのは灰色の光の断片。

 そこには、地上の人々の“感じかけた感情”が

 煙のように吸い取られる瞬間が映っていた。

「これが……“収穫”……」

 ソルネアが青ざめる。

「笑おうとした瞬間……色が消えて……」

「感情の輪郭が、そのまま奪われている……」

「ひでぇな……」

 カケルは低く呟いた。

「誰も悪いことしてねぇのに……

 ただ、笑おうとしただけで奪われてる」

「揺らぎは不要だ。

 笑いも、悲しみも、怒りも——全てだ」

 ヴァリオスの声には、やはり何の感情もなかった。

 穏健派の神々が震える。

 

 ◇


 その瞬間。

 議場中央にそびえる調律柱が、びくりと震えた。

「……え?」

 柱の光は脈打つリズムを乱し、

 濁った光がねじれながら走り出す。

 上へ伸びる光の筋は大きく揺れ、

 まるで“心臓の鼓動”が狂ったように明滅した。

「調律柱のリズムが乱れている……!?」

「こんな揺らぎ……数千年ぶりだぞ……!」

「この階層でどうして……!」

「データが逆流している!

 観測領域が……塗りつぶされていく……!」

 穏健派の神々が青ざめる中で、

 ヴァリオスだけは微動だにしなかった。

「証明は……以上だ」

 その声は異様なほど平坦で、

 あまりにも無感情だった。

 

 ◇


 カケルの背筋に、

 ひたり、と冷たいものが触れたような感覚が走る。

(……なんだよ、これ。

 ただの対立とか、意見の違いじゃねぇ……

 もっと根っこの“何か”が動いてやがる……)

 しかし、この時点でそれが何かを

 カケルはまだ知らなかった。

 ただ一つだけ言えるのは——

神界の根幹で、すでに“何か”が軋み始めている。

「基幹層の命令」

自分たちの意志ではなく、システムに従っているだけ……。

冷律会の神々の異常性が浮き彫りになってきました。

そして調律柱の異変。神界そのものが揺らぎ始めています。


次回、暴走が始まります。

世界の感情がゼロに向かう……!?

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― 新着の感想 ―
スルヴァが変だったのは、気のせいではなかった。さらに冷律会高位神デウス=ヴァリオスすら、操られてるのでは、仕方がないね。 神界の根幹で、すでに“何か”が軋み始めているということは、これからが最終決戦。…
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