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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第74話 感情吸収装置(プローブ)を破壊せよ!

 リベリスの町の夕暮れは、本来なら香辛料の匂いと店のざわめきに満ちているはずだった。

 だが、この日は違った。

 空気がどこか薄い。

 色も音も、輪郭が曖昧だ。

「……やっぱり、まだ吸われてる」

 ミレイユが測定器を睨んだ。

 針が細かく震え、画面には無数の穴のような“抜けノイズ”が走る。

「これ……複数箇所から感情が漏れてる。

 今朝の装置だけじゃないわ!」

「スルヴァの奴、町中に仕掛けたってわけか」

 カケルは舌打ちした。

「行くわよ。感情の濃度が低い区画を優先して回るわ」

「任せなさい」

「行くぞフィン!」

「ぴゅいっ!」

 グレン、ボビン、フィンが武器を構え、四方へ散った。

 町全体を舞台にした――

感情奪還ミッション が始まった。

 

 ◇


「ここ……だよな……」

 フィンが指差した建物裏の小道。

 そこにあったのは――

 灰色に脈打つ結晶の塊。

 黒い触手のような管が地面へ伸び、

 近くの店の人々から“喜び”の波を吸い上げていた。

「……あの店の兄ちゃん、さっきから笑顔が全然なかった理由……これか」

 カケルが駆け寄り、結晶を蹴り上げる。

 ――バキィ!!

 外殻が割れ、黒い管が暴れ狂う。

「ぬるい!」

 ボビンが盾で弾き飛ばすと、ミレイユが後ろから魔力で押し返す。

「いまだカケル!!」

「おう!!」

 カケルの拳が結晶コアを殴り抜き、装置は一瞬にして霧散した。

【感情ログ:減少停止】

「……一つ目、終了!」

 

 ◇


「次は……これか!」

 ミレイユの測定器を頼りに、フィンが飛び込んだ。

 噴水の裏から地下水路へ降りると――

 薄い霧の中で、巨大な“装置樹”が鎮座していた。

 管が何十本も伸び、上の広場へ向けて吐息のように吸い込むたび――

 広場の人々の顔色が失われる。

「でっか……」

「これ、町の中心の“喜”を丸ごと吸ってる……!」

 ルシアナが叫んだ。

「止めるぞ!」

 グレンが聖剣を引き抜き、根元へ振り下ろす。

 ――ガギィィンッ!!

 光が走り、装置樹の幹が裂ける。

 だが管が暴れ、ルシアナの足へ絡みついた。

「きゃっ――!」

「ルシアナ!」

 フィンが飛び込み、短剣を閃かせる。

 ――シャッ!!

 絡みつく管を切り裂き、ルシアナを抱えて跳び退いた。

「ありがとう……!」

「大丈夫ですか!?」

 その隙間を狙って、カケルがコアへ拳を叩き込む。

 ――ドンッ!!

 コアが粉砕し、地下に響くような震えとともに装置樹が崩れ落ちた。

【感情ログ:広場一帯の減少停止】

「二つ目、終わり!」

 

 ◇


「反応は……ここよ!」

 最後の座標は、町外れの古びた鐘楼だった。

 階段を駆け上がると――

 そこに、最も異様な光景があった。

 鐘の真下に、黒い“漏斗”のような装置が逆さに浮き、

 鐘の響きに反応して“怒”と“悲”を吸い上げている。

「……見つけたか」

 低い声が響く。

 鐘の影から歩み出たのは、仮面の男――

 スルヴァだった。

「この装置は、町全体の“負の感情”を回収する大口だ。

 壊されると困るのだよ」

「困る? ふざけんな」

 カケルが言うより早く、ボビンが盾を構えて突っ込む。

「ぶっとばす!!」

「無駄だ」

 スルヴァの指先が軽く動く。

 ――ズッ!!

 空気が震え、ボビンの体が弾き飛ばされた。

「ボビン!!」

「ぐっ……すまん……!」

 スルヴァは鐘楼の中央へ歩み寄り、装置に手を当てる。

「これほどの効率性を、調律会は理解できない。

 感情は“資源”だ。

 人間が湧かせる以上、回収するのが理にかなっている」

「だから盗むのか? 人の心を?」

「そうだ。

 君たちが過剰に持つからだ」

 ルシアナが震える声で叫んだ。

「スルヴァ……あなた、本当に……

 感情そのものを“殺す”つもりなの!?」

「殺す? 違う。

 神界が優先だ。

 人間はその次だ。」

 ルシアナの表情が怒りで歪む。

「……本気で言ってるのね……」

「当然だとも」

 

 ◇


 スルヴァが装置へ手を添えたまま、仮面越しにカケルを見る。

「さあ、道標よ。

 負債を返し続ける“便利な器”よ。

 君の値の揺れは我々にとって最高の誘導――」

「黙れ」

 鐘楼の空気が震えた。

「俺は……

 仲間が奪われるのを黙って見ていられるほど、

 器用じゃねぇんだよ」

「……?」

「お前の理屈は聞き飽きた。

 神界がどうとか、感情がどうとか……

 そんな都合を他人に押し付けんな」

 拳が握られる。

「人の心を勝手に扱う奴は、

 今日全部まとめてぶっ壊す」

 スルヴァの肩がわずかに揺れた。

「……戦うつもりか?」

「戦うつもり“しか”ねぇよ。

 まずはその装置からだ!」

 カケルが飛び込む。

 スルヴァは反応する――

 が、その瞬間。

「ぴゅいぃぃ!!」

 ミュコが鐘を思い切り叩いた。

 鐘の大音量が装置を共振させ、コアがむき出しになる。

「今だカケル!!」

「任せろ!!」

 カケルの拳が、露出したコアを――

 粉砕した。

 鐘楼全体が光に包まれ、装置は跡形もなく消えた。

【感情ログ:町全域の減少停止】

 

 ◇


 スルヴァは一歩、後ずさる。

「……なるほど。

 君は確かに“危険指定”に値する」

「今頃気付いたか」

「だが今日はここまでだ。

 次は……神界で会おう」

 影が揺れ、スルヴァは煙のように消えた。

 

 ◇


 鐘楼に残ったのは、夕焼けの光と、息をつく仲間たち。

「……全部壊したのか?」

「ええ。もう、町の感情は抜かれていないわ」

 ルシアナの声はまだ震えている。

「ありがとう、みんな……

 そしてカケル……あなたがいなかったら……」

「気にすんな。

 怒らせた奴が悪いんだよ」

「ぴゅい!!」

 ミュコが胸を張る。

 だが――

 これはまだ、序章にすぎなかった。

 スルヴァが去り際に残した言葉が、カケルの胸に重く沈む。

“次は……神界で会おう”

 それは新たな戦いの開幕を宣告する響きだった。

町中を駆け回る総力戦でした。

ボビンの盾、やっぱり頼りになりますね。

そして鐘楼でのスルヴァとの対峙。彼の言う「神界」で、一体何が起きているのでしょうか。


次回、カケルがスルヴァに突きつける「問い」。

140億ルーメの負債の謎が、少しだけ解けるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
町全体を舞台にした感情奪還ミッションにて、次々とクリアしていくみんなは、本当に頼もしい。よく頑張りました。 でも、やっぱり気になるのが、スルヴァ。「感情を間引く」と言っていたのに、これでは「感情を根こ…
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