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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第6章 神界の感情泥棒と暴走する世界初期化(ゼロ・コード)

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第73話 スルヴァ、影より来たる

 壊れた感情吸収装置の残骸が、灰のように風へと散った。

 広場裏路地の静けさは戻ったはずだったが――

 空気は、まだどこかざらついている。

「……まだいるわ」

 ルシアナが振り向いた瞬間、屋根の縁に“影”が凝縮した。

 ゆらりと立ち上がる細身の人影。

 黒衣をまとい、神界式の白い仮面をつけている。

 残像のように――しかし、よりはっきりと。

「……壊されるのは困るんだがな。

 せっかく調整がうまくいっていたのに」

 男の声は若い。

 だが冷気のような響きが混じっていた。

「出てきたわね……冷律会の下級官吏」

 ルシアナの言葉に、男は仮面を指先で軽く触れた。

「“下級”とは礼儀がないな、ルシアナ。

 私の名は――スルヴァ。

 君のかつての同僚でもある」

「同僚……? ルシアナの?」

 カケルが眉をひそめる。

「ええ。昔、神界学院で顔を合わせたことがあるわ。

 穏健派の調律会との討論会で、彼は……」

「私は“正しい管理”を主張していただけだよ」

 スルヴァは屋根から飛び降りる。

 着地した瞬間、空気がわずかに圧を帯びた。

 

 ◇


「ルシアナ。君はまだ夢物語を信じているのか?」

「夢物語じゃないわ。感情は“残滓”を再利用すれば十分――」

「非効率だ。

 人間は使い古した感情を垂れ流し、

 不必要な濃度で世界を濁らせている」

 スルヴァの声は淡々としていた。

「だから我々は“直接採取”する。

 それだけのことだ」

「直接採取は禁忌よ!

 神界の歴史で、何度破滅を招きかけたと思ってるの!?」

「ならば聞くが――」

 スルヴァがルシアナへ一歩近づく。

「四魄柱《憤・狂・哀・妬》がどうして暴走したと思う?」

 薄い仮面の奥で、目がわずかに笑った。

「彼らは“感情収穫者”として再構築された存在だ。

 ラグナと同じく、我々冷律会の理念を理解していた」

「っ……!」

「君たちが倒したあの怪物たちは、

 元から“人間から集めていた”側なのだよ」

 ルシアナの表情が険しく歪む。

 

 ◇


「……で、その“理念”ってのは」

 カケルが一歩前に出た。

 胸の奥に、昨日の怒りの火種がまだ燻っている。

「人から感情を盗むことか?」

「盗む? 管理だ。

 人間の情緒は無秩序で、放置すれば世界のバランスが崩れる」

「だから“間引く”と?」

「そう。

 人間の抱える怒りも悲しみも喜びも、

 一定量を吸い上げ、神界へ循環させる。

 ――その結果、世界は安定する」

「安定? それを言い訳って言うんだよ」

 カケルはスルヴァを正面からにらみつけた。

「俺の帳簿から勝手に感情吸ってんのも、全部その理屈ってわけか?」

「……ほう」

 スルヴァは興味深そうに首を傾げる。

「君の“帳簿”は、元は神界の負債計算の一部。

 本来、一般人が見るはずのないものだが……

 君はなぜか干渉できる。

 だから“道標”として利用させてもらっていた」

「道標……?」

「君の負債が揺れるたび、その“流れ”に乗れば、

 我々は感情の濃いポイントへ辿り着ける。

 ――便利な装置だったよ」

「…………」

 静かに息を吸う。

「つまり……」

「奪っていたのは、地上ではなく――神界だったということだ」

 

 ◇


「……ふざけんなよ」

 ルシアナが目を見開く。

 スルヴァの気配が微かに揺れた。

 カケルの声は怒鳴り声でも、激昂でもない。

 冷たい静けさを帯びた声だった。

「ラグナも、四魄柱も、

 最初からお前ら神界の“泥棒仲間”だったってわけだろ」

 スルヴァの口元がわずかに歪む。

「泥棒呼ばわりとは心外だが」

「黙れ」

 言葉は短く。

 しかし、空気が一瞬で震えた。

「俺の仲間を巻き込んで、

 勝手に人の感情奪って、

 しかも“世界安定のため”とか言い訳して……」

 拳が震える。

「……ルシアナを泣かせた時点で、お前は終わりだ」

 スルヴァの視線が、初めてわずかに揺れた。

「君は……危険だな、やはり。

 “危険指定”にした判断は間違っていなかった」

「危険指定? 上等だ。

 そのリスト通り、お前らブッ倒してやるよ」

「……今日はここまでだ」

 スルヴァは影に溶けるように後退し――

 路地の奥へ、煙のように消えた。

 

 ◇


「カケル……」

 ルシアナがそっと寄り添う。

 カケルは拳を開き、深く息を吸った。

「……悪い。取り乱すつもりはなかった」

「いいの。

 あなたが怒ってくれたから……私は救われてる」

 その瞳は、ほんの少し潤んでいた。

「絶対に止めましょう。

 冷律会の計画を、必ず」

「ああ。

 今度は俺が“取り返す番”だ」

「ぴゅい!!! (やっつける!!)」

 ミュコがカケルの肩で跳ねる。

 スルヴァは消えた。

 だが、町のどこかにまだ装置が残っている。

 そして――

 神界の“本当の闇”が、今まさに姿を現し始めた。

神界からの使者、冷律会のスルヴァが登場です。

「感情は資源」「効率的に管理する」

カケルの元いた世界のブラック企業的な理屈を振りかざしてきました。


次回、町中に仕掛けられた装置を破壊して回ります!

ミュコも活躍……?

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― 新着の感想 ―
なんだかなぁ〜、前にビビりまくってたスルヴァと雰囲気がぜんぜん違うんですけど〜なんで? まあ、とにかく、カケルは【激おこ】なのね。無効パワーをどれだけ発揮するのか?でも相手は、神界の神様?! ルシアナ…
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