第68話 指を鳴らす時
妬の気配が濃く満ちた空間で、
カケルはただ一言、静かに告げ、仲間の三人の方を見る。
「――お前は、本当に俺を怒らせた」
その声に、妬が微かに首をかしげる。
『……怒らせた?
わたしはただ……
あなたを楽にしてあげようと――』
「黙れ」
振り向きもせずに無造作に言い放つ。
その瞬間、空気が一段、重くなった。
フィン
「……カケルさん……?」
グレン
「カケル……本気で怒った時の顔してやがる……」
ボビン
「こ、こいつは……来るぞ……ッ!」
カケルはゆっくりと右腕を上げ、
中指と親指を合わせた。
「本気になる理由なんて一つだ。
俺の大事な仲間を泣かせたら……許せねぇってだけだ」
そして――
パチンッ。
乾いた音が夜空に響いた。
ボビンの盾を覆っていた封印が解け、覆っていた鉄板が落ちる。
「なっ……!?
俺の盾が……これが本来の姿……!?」
「ここは町の郊外だし、妬の攻撃なら町が吹っ飛ぶ心配ねぇだろ。
本当の力、全部出していいぞ」
「……カケルッ!!
その雑な信用、気に入った!!」
フィンの短剣の柄を覆っていた木のカバーが、
“パカッ”と二つに分かれて落ちる。
刃は覆われていた膜が失われて光を帯び、
まるで空気を切り裂くような輝きを放つ。
「えっ……!?
こ、これ……僕の短剣……?」
「フィンを止められる奴なんて、この世にいないからな」
「な、なんですかその信頼!?
うれしいけど怖いんですけど!!」
グレンの聖剣が、眩い光柱を発した。
「……すげぇ……
こんな光、今まで見たことねぇ……!」
「グレン、全力でぶった斬れ。
こんな奴に構う必要ねぇ」
「了解だ、カケル!!」
《感情発生:覚悟・決意4,800,000ルーメ》
『ま、待ちなさい……!
ちょっと話し合いましょう……?
わたし、そんなに悪いことは――』
「うるせぇ。
話すことなんて一つもねぇ」
『~~~~っ!!』
「3人とも! 行け!!
ボビンは前で押さえろ!!
グレンは中心をぶった斬れ!!
フィンは、避けた瞬間に首を落とせ!!」
「「「了解!!」」」
『いいわ。柱の力を見せてあげる……!!』
影ルシアナの後ろから、妬が姿を現す。
妬が巨大な刃の渦を放つ。
「はああああッ!!」
聖剣の光が影と妬に向かう。
妬は影を盾にして受け止める。
「そんな光で……届くはず――」
ボビンが盾を地面に叩きつける。
「倍返しだァ!!」
妬の巨大な刃の渦を倍の勢いにして妬自身へ打ち返す。
グレンの聖剣の攻撃を受けていた影が、ボビンの刃の渦の倍返しも受け
防ぎきれなくなり、四散する。
グレンとボビン二人の余剰の攻撃が妬を襲う。
「ぐっ……!?!?」
妬がバランスを崩した一瞬――
フィンの姿が消えた。
「ルシアナさんを泣かせるな――!!」
光の短剣が一直線に走り、
妬の胸を貫く。
「……ッ!!」
そのままフィンは流れるように短剣を引き抜きながら背後へ回り、
首へ一閃。
――斬。
妬の首がゆっくりと落ち、
影が音もなく霧となって消えていく。
「……こんな……
無慈悲な……
人間たち……は……初めて……」
「人の感情で遊ぶ奴に、付き合う気はねぇ。
相手が悪かったな」
「………………」
妬は完全に消滅した。
グレンとボビンの攻撃で四散させられた影ルシアナが霧となって散る中、
カケルの視界には、一つの淡い金色の光を持つ粒子が有った。
(……ルシアナ……)
そしてその粒子は、カケルの手のひらに静かに吸い込まれていく。
やがて影が引き、空が正常な夜の色に戻っていく。
グレン
「終わった……!」
ボビン
「カケル、最高すぎる!!」
フィン
「ぼ、僕……本当にやりました……!」
「よし。
前借亭に帰るぞ」
カケルの声は穏やかに戻っていた。
《感情発生 喜び・安堵200,000ルーメ》
読んでいただきありがとうございます。
指パッチン一つで、味方のリミッターを解除。
ボビンの盾、フィンの短剣、グレンの聖剣……今まで「手加減」させていた真の力が解放されました。
「雑な信頼」と言われつつも、それに応える仲間たちが熱いです!
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