第63話 哀の嘆願、封印、そして《本当の被害者》
白い霧をくぐり抜け、
救出組はついに中心部へ到達した。
その場には――
泣きじゃくる“神”がいた。
『……来て……くれたの……?
私を……救いに……?』
白い影――哀が、
膝を抱えて震えていた。
それは“柱”とは思えないほど弱々しく、
神性よりもただの“疲れ果てた者”に見えた。
『……あの男は……何なのよ……?
沈まない……沈めない……沈めようとしても……沈まない……!!
跡を抜けば批評され……
深層を覗けば……私より深い地獄……!!
もう……心が……折れた……!』
救出組の思考が止まる。
グレン、アニス、リュート、ドラン、ボビン、フィン、
そしてミレイユも――
(((??????)))
(((何がどうなってこうなった??)))
脳が拒否反応を示していた。
「いや、だから俺は悪くなくね?」
あまりに日常的な声。
霧が開き、
カケルが元気そのものの姿で現れた。
「ぴゅい――ッ!!」
その瞬間、フィンの肩から小さな影が弾丸のように飛び出した。
「うおっ!?」
べちん!とカケルの胸元へ飛び込み、そのまま身体を擦り付ける。
「ぴゅ~! ぴゅ……ぴゅい……!(カケル……! よかった……!)」
「おっと。……悪いなミュコ、心配かけたか」
カケルは苦笑しながら、震えるミュコの頭を指先で優しく撫でた。
そして、呆然とする一行へ向き直る。
「やぁみんな。仕事早かったな」
「“仕事”じゃねぇよ!?」
ドランのツッコミが空を切る。
ルシアナは口を開きかけ――
しかし状況を理解できず固まった。
『……もういい……
私……帰る……
封印に……自分で……帰る……
あの男と一緒にいると……
私の精神が……壊れる……!!』
震える指先を空へ向ける。
白い光が滴り、
哀の輪郭は霧のように薄れていく。
『……お願い……
私を……休ませて……』
そして哀は、
吐息のように消えた。
再び、森に静寂が訪れた。
哀が消えた直後。
カケルとルシアナの前にだけ、
透明なウインドウが浮かび上がる。
《感情負債:-6億ルーメ》
※自業自得ポイント増加
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ルシアナが素で叫んだ。
「おぉ、またマイナス増えたな」
「“おぉ”じゃないわよ!!!
何してくれとんじゃい!!」
「いや俺は悪くなくね?」
「悪いに決まってるでしょ!?!?」
ただならぬ空気を察したミレイユは
手元の感情観測装置を確認し、眉を寄せた。
「……おかしいわ。
本来ここに満ちているはずの“沈”の感情波形が……
一切検出されない……?」
代わりに――
「……“心労”……?
量が……多すぎる……!?
何これ……哀の疲労……?
え、どういう状況……?」
ミレイユは純粋に“観測異常”として困惑していた。
ルシアナは背を向けたまま言う。
「ミレイユ、これは……のちほど説明するわ。
カケルが……またやらかしたのよ……」
「やらかした!?」
「やらかしたのか!?」
「やらかしたんだな!?」
救出組、総ツッコミ。
カケルは頭をかいて言った。
「いや、俺は悪くなくね?」
「悪いっ!!(即答)」
救出組全員の声が重なった。
読んでいただきありがとうございます!
《哀》、自主的に封印へお帰りになりました……。
「お願いだから休ませて」という神の嘆願、前代未聞です。
そして無慈悲に加算される感情負債「-6億ルーメ」。
ルシアナさんの絶叫がリベリスの空に響き渡ります。
ミレイユさんが観測した「心労」の波形、それが全ての答えでしたね。
次回、第4章エピローグです。
最後までお楽しみください!




