第61話 哀との対面――泣き声の正体
白灰の中心核へ足を踏み入れた瞬間、
世界が静止した。
風もない。
音もない。
光さえ揺れる。
ただ、中心に――
“白く揺れる影”がひとつ、立っていた。
「……あれが、哀……」
ルシアナが呟く。
影は、細い身体を抱くように震え、
まるで“泣きじゃくっている”ように見えた。
「何だ……この感じ……」
グレンが剣を握りしめる。
しかし、その影が発した声は――
哀の名に似合わぬほど、弱々しく、不安定だった。
『……やっと……来て……くれたの……?』
救出組は一瞬、動けなくなった。
「……哀が……しゃべった……?」
リュートが小さく呟く。
「対話をする……感じ?」
アニスが目を見開く。
その声は、確かに人語。
しかし涙で滲んだように震え、
喜んでいるような、嘆いているような……判別できない。
フィンがほんの一歩、影に近づこうとしたとき――
『ち、ちがうの……!
わたし……もう……限界なの……!!』
哀が突然、両手(らしき影)を振った。
『あんなの相手してられないの……!
なんで……なんであんなに……!!』
救出組全員:
「………………あんなに?」
「……誰の話?」
「……何が起きてる……?」
哀は震えながら続けた。
『もうヤダ……!!
どれだけ沈めようとしても……沈まないし……
感情抜こうとしても……変なツッコミしか返ってこないし……
跡のポーズに文句言うし……!!』
救出組全員
(跡の……ポーズ……?)
全員の脳が追いつかない。
『私だって……本気で沈めようとしたのよ!?
本気で、悲しませようとしたのよ!?
なのに……!』
『あぁ、これ30点。
お前、美術の成績悪かったろ。
ホラー漫画の巨匠に弟子入りしてこい”って……!!』
救出組の脳が、全員一度死んだ。
グレン
「…………は?」
アニス
「美術?」
ドラン
「弟子入り……?」
リュート
「誰が誰に言ったんだ……?」
哀は泣く。
泣くどころではない。
完全に精神的に崩壊していた。
『跡の切り抜き方が悪い、とか
これじゃインスタバエしねぇだろって……!!』
全員
(インスタって何だ……)
ルシアナは青ざめた。
(そんな……馬鹿な……
哀──柱の象徴たる存在が……
一人の人間によって……ここまで……)
「ミレイユ……反応は……?」
ルシアナが震える声で問う。
「……カケルの波形……見て……」
ミレイユの測定器の針は、
まったく哀の波形ではなかった。
「哀の影響ゼロどころか……
刺激波形が常に……“逆方向へ弾けてる”」
「逆方向……?」
アニスが問う。
「哀が感情を引き抜こうとするたび……
カケルの刺激で跳ね返されたとしか思えない……
哀の方が消耗してるのよ……!」
「カケルさん……哀を……沈めてる……?」
フィンの声は震えていた。
『もう無理なの……!!
わたし……あんな人、相手できない……!!
お願いだから……連れて帰って……』
救出組
「………………は?」(本日2回目)
『わたし……封印に戻りたい……!!
あんなのと一緒にいたら……
おかしくなっちゃう……!!』
声は完全に泣き叫んでいた。
哀そのものが、
救出組に懇願していた。
『お願いだから……!
彼を……連れて行って……!!
わたしを……解放してよぉぉぉ……!!』
中心核の奥――
白い霧が揺れ、
細い影がちらつく。
「……カケルさん?」
フィンが呟いた。
しかし、まだ姿ははっきりしない。
ただ、霧の向こうから――
「いや、だから俺は悪くなくね?」
と、あまりにも軽薄な声が聞こえてきた。
ご覧いただきありがとうございます!
……はい、というわけで。
泣いていたのは《哀》の方でした(笑)。
「跡のポーズに文句言う」「インスタ映え」。
シリアスな空気が一瞬で吹き飛びましたね。
救出隊の脳が追いつかないのも無理はありません。
次回、時間を少し戻して「カケル視点」での真相編です。
一体、二人の間に何があったのか? カケルの暴挙(?)をたっぷりとお届けします!




