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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第4章 沈みゆく《哀》の森と決して沈まない男の感情

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第60話 哀の中心領域 ――沈んだ世界

 跡の列を抜けた瞬間、

 空気の質が変わった。

 いや、空気という概念そのものが薄れていく。

「……っ、急に……寒い……?」

 リュートが腕を抱える。

「寒いんじゃないわ。“温度”が曖昧になってるのよ」

 ミレイユは測定器を見ながら言った。

 世界から、色も音も気温も匂いも――

 すべてが静かに抜け落ちていく。

 ただ“沈む”という圧力だけが残る。

「ここが……哀の本体領域……」

 ルシアナが目を細める。

 大地は白灰色。

 樹木は輪郭だけが薄く残り、

 地面へ影を落とさない。

 光さえ沈み込むように弱い。

 

「……あれ……!」

 フィンが声を震わせた。

 木々の奥、

 巨大な“人影”が揺れていた。

 輪郭が波打ち、形は曖昧で、

 目も口もないのに“向けられている”感覚だけがある。

「撃たないで!」

 ルシアナが制止する。

「目がないように見えるけど、

 “影の向き”が目よ。

 正面に入れば……精神に影響が出るわ」

「うわぁ……本当に……向けてきてる……」

 リュートの声は震えていた。

 影の表面が波立ち、声のようなものが漏れる。

『――月400時間……

 ――怒号…3階まで響く……

 ――みんな行方不明……』

「うっ……!」

 アニスが胸を押さえる。

「ダメ……心に直接響いてくる……」

「耳を塞いでも意味がないわ」

 ミレイユが歯を噛む。

「これは“心音”よ。

 沈んだ影から漏れる“残響”みたいなもの」


「行こう」

 フィンが前を見据えた。

「カケルさんが……沈む前に……!」

 その声に、

 アニスもドランもリュートも頷く。

「前へ進むテンポは揃ってる」

 ミレイユが測定器を確認する。

「このままなら……“影を越えられる”」

「影が揺れた瞬間が危険よ」

 ルシアナが警告する。

「絶対にテンポを崩さないで。

 影に正面から完全に見られたら……終わりよ」

「わかった……!」

 フィンの声に、仲間達が決意を固める。

 

 影が揺れる。

 沈んだ声が漏れる。

 一歩踏み出すたび、

 心を掴む冷気が背中を撫でる。

 それでも一行は歩調を乱さない。

「……よし……このエリア、抜けた!」

 ミレイユが叫んだ。

「沈降波長が……また深くなった……!

 この先が……哀の本体が存在する中心核よ……!!」

「行くぞ!」

 グレンが剣を構える。

「カケルさん……待ってて……!!」

 フィンが駆け出す。

 森の奥が歪み、

 空気がさらに沈んでいく。

《感情発生:決意2,100,000ルーメ》


 そのとき。

 世界が――“揺れた”。

「っ……!? 地震……?」

 リュートが周囲を見渡す。

「違う……哀の“呼び込み”よ」

 ルシアナが低く警告する。

 森の奥が開け、

 白灰の地面が“円形”に削れた空間へ続いていた。

「ここが……中心核……」

 ミレイユが震える声で告げる。

 その奥――

 ふわり、と。

 “白い影”が揺れた。

 輪郭が涙のように揺れ、

 姿は人のようで人でない。

 何より――

 その存在が“こちらへ気づいている”のがわかった。

「……来た……」

 ルシアナが呟いた。

「哀……本体……!!」

「カケルさんは……!?」

 フィンが叫ぶ。

 白い影は、

 ゆっくりと救出組の方へ手を伸ばした。

 そして――かすかに震える声が響いた。

『……来た……?

 ……やっと……来て……くれたの……?』

 それは、哀の声だった。

 震えて、滲んで、

 どこか疲れきったような声。

 救出組は“哀を倒す覚悟”を固めた。

《感情発生:覚悟2,100,000ルーメ》

読んでいただきありがとうございます!

色も音も温度もない、沈んだ世界。 そこにあった巨大な影から漏れる「心音」……。

『月400時間』『怒号』『行方不明』。

……あれ? どこかで聞いたようなフレーズですね(笑)。

救出隊は決死の覚悟ですが、読者の皆様はお気づきかもしれません。

次回、ついに《哀》本体と対面。

そして、この物語最大の「ちゃぶ台返し」が待っています。

必見です!


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― 新着の感想 ―
影が揺れる。沈んだ声が漏れる。一歩踏み出すたび、心を掴む冷気が背中を撫でる。それでも一行は歩調を乱さない。みんながカケルを助けるのに必死なのが、伺える。カケルが不在でも、一致団結して進むのがいい。そし…
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