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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第6話 訴状とスライム、そして小さな違和感

 翌朝。

 リベリスのギルドの前には、昨夜の喧噪が嘘のように静けさが戻っていた。

 広場にはまだ、踏み荒らされた土と、ミュコが通った後のぬるりとした水跡が残っている。

「……昨日のあれ、夢じゃないんだよな」

「夢だったら、もう少し静かな夢がよかったです」

 ルシアナはパン屋でもらった硬いバゲットをかじりながら、肩をすくめた。

 隣ではカケルがウィンドウを見上げている。

《現在負債:約146億9235万ルーメ》

《昨日までの返済:765万ルーメ(反映済)》

「ふむ、まぁ順調だな」

「順調って……まだ返済は百億単位ですよ!?」

「千里の道も一歩からって言うだろ。負債も一歩ずつ減らすんだ」

 軽口を叩くカケルの肩で、ミュコが“ぷに♪”と鳴いた。

 まるで自分も返済の一助になったと誇っているようだ。

「……そういえば、あのスライムって、他の従魔に比べてちょっと光ってません?」

「気のせいだろ。……たぶん」

 だが、カケルの目にも確かに見えた。

 ミュコの体の奥で、淡い金色の粒がふわりと漂っている。

 感情のルーメが、まるで“意志”を宿したように脈打っていた。


 ◇


 その頃、街道を外れた荒野の仮設天幕。

 包帯だらけのダリウス・バルドンは、怒りと屈辱で机を叩いていた。

「くそっ、スライムごときに……この私が!」

 部下の一人が、びくりと肩を震わせる。

「だ、大丈夫ですか、領主代理様……」

「大丈夫なものか! 服まで溶かされ、笑い者だぞ!」

 ダリウスは手元の羊皮紙を広げる。

 王都宛ての訴状だった。

 件名にはこうある――

『リベリス町における“神話級武器不正使用”および“王領財産簒奪”の疑いについて』

「奴らを告発する。神剣は本来、私が管理すべき物だ。王に訴えれば、町ごと粛清の対象になる」

 その目に狂気じみた光が宿る。

 従者たちはただ沈黙するしかなかった。


 ◇


 ――その頃、リベリス。

「で、結局さ」

 ギルドのテラスで、カケルはパンくずをつまみながら言った。

「人間の感情ってのは、俺が“関与した時”にしか、帳簿上に反映されないらしい」

「ええ。それがこの世界の“前借りの理”なんでしょうね」

「となると、直接手を下せない分、“偶然っぽく手を貸す”しかない」

 ルシアナが眉をひそめた。

「……まさか、それを理屈で分析してるんですか」

「分析は大事だぞ? 俺の借金は、理屈で減らすタイプだからな」

 ルシアナは呆れたようにため息をつく。

「あなた、本当にこの世界の救世主になる気あるんですか?」

「救世主っていうか、返済主だな」

 笑いながらパンくずをつまんでいると、ギルドの扉がバタンと開いた。

 使いの兵士が血相を変えて飛び込んでくる。

「た、大変です! 領主代理ダリウス様が、王都に訴状を送ったとの報告が!」

「訴状?」

「リベリス町を“神話級武器不正使用の反逆地”として告発したそうです!」

 ギルド内がざわめく。

「反逆地って……俺たち、昨日まで平和に暮らしてたのに!」

「領兵が来るのか……」

 不安と恐怖が広場に広がっていく。

 その時、カケルのウィンドウが光った。

《感情発生:不安・恐怖3,000,000 ルーメ》

 ルシアナが蒼白になる。

「多くの人々が迫害されたら、一時的に感情は増すけど、生きる希望を失うわ。

 報われない世界になれば、皆感情を捨ててしまう。」

 だが、カケルは落ち着いていた。

「いや、違う。これは好機だ」

「は?」

「恐怖ってのは、勇気を引き出す起爆剤だ。つまり――」

 カケルがゆっくり立ち上がる。

「“次の偶然”を仕掛けるには、ちょうどいい頃合いだ」

 ミュコが“ぷに♪”と鳴き、金の光を放った。

 その光が、まるでカケルの瞳の奥へと吸い込まれていく。

 ルシアナが息をのむ。

「……あなた、今、何を考えてるの?」

「ん? ちょっとした下準備。持ち物の確認でもしておこう。

 偶然ってのは、舞台が整ってこそ映えるんだよ」

 彼の視線の先、遠くの空には――

 王都からの使者を乗せた黒い飛竜が、リベリスへと向かっていた。

明日も投稿します

王都査察官、セレナ・ヴァレリウスが登場。

尋問されるグレン。どうなる?

お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
ミュコの金色の粒が、非常に気になる! 返済王カケルの企みとは? ミュコとの意思疎通って、どうやってるのか? 疑問が湧きまくりますが、次はどうなるのか?期待してます
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