第59話 深き影の間(はざま)
沈歩現象を突破してなお、
森はさらに沈んだ静寂を深めていった。
空気は濁り、光は薄れ、
足音すら“自分のものではない”ように遠く聞こえる。
次の一歩で――
フィンの足が、何か柔らかいものを踏みかけた。
「っ……!」
足元に見えたのは、
膝をついたカケルの跡だった。
すぐ隣には、
うつ伏せの跡。
さらに奥には、
座り込んだ跡。
十……二十……三十――
目視できるだけで、その数はあまりにも多い。
「……嘘だろ……」
グレンが絶句する。
「こ……こんなに……?」
アニスが震える。
「カケルさん、またこんなに抜かれて……!!」
フィンの声は裏返っていた。
ルシアナも言葉を失う。
「波形……確認します」
ミレイユは跡に測定器を近づける。
針が震え、異音が鳴った。
「……え……?」
「どうした?」
グレンが問いかける。
ミレイユは測定板を凝視したまま、唇を噛んだ。
「哀気……減少どころじゃない……
ほぼゼロ。
いや……哀の波形が……“混ざって”すらいない……」
「混ざっていない?」
ルシアナが強く反応する。
「跡って……哀が“感情を抜く”ことでできるものでしょう?
その哀の感情が……ゼロって……どういう……?」
「説明がつかないのよ!!」
ミレイユの声に、全員の胸が凍りつく。
「哀に、悲しみを抜かれた跡なら……
本来、強い沈降波長が残るはず……!」
「だよな……これだけ跡が多いなら……」
ドランが歯を噛む。
「普通は……もう壊れてるレベルだ」
リュートも苦い声を漏らす。
「でも……測定値は違う」
ミレイユが震える指で板を示す。
「これは……
“哀が抜こうとしても抜けなかった”としか思えない波形よ……!」
「抜けなかった……?」
アニスが震える。
「じゃあ……カケルさんは……?」
ルシアナが深く息を吸い込んだ。
「……最悪の状態よ」
「最悪?」
フィンが息を呑む。
「哀は“感情を沈める柱”。
その哀が何度も何度も抜こうとしても抜けないということは……」
一拍置いて、言った。
「カケルの悲しみや感情が、すでに完全に枯れている可能性がある」
「っ――!!」
フィンの目に涙が滲む。
「そんな……!
カケルさんが……!!」
「とにかく、進むんだ。
早くカケルのもとに」
《感情発生:心配・決意2,100,000ルーメ》
お読みいただきありがとうございます。
「哀の感情が混ざっていない跡」。
ミレイユさんの解析により、謎が深まりました。
ルシアナさんは「感情が枯れている」と推測しましたが、果たして真相は……?
救出隊の勘違い(シリアスな誤解)が加速していきます。
真実はすぐそこに。
次回、いよいよ《哀》の本体領域へ突入です!




