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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第4章 沈みゆく《哀》の森と決して沈まない男の感情

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第57話 沈む罠と、揺らがぬ決意

 森へ入るほどに、空気の“色”が落ちていった。

 緑は灰色を帯び、光は弱まり、世界がゆっくり沈んでいくようだった。

「……おかしいぞ」

 グレンが立ち止まり、背後を振り返る。

「さっき通った倒木が、またある……?」

 倒木は、まるでずっとそこにあったかのように道を塞いでいた。

「うそ……ここ、もう通ったよね?」

 フィンが青ざめる。

「前に進んでるつもりが……戻ってる?」

 アニスが眉をひそめた。

「戻るほど足を止めてねぇぞ?」

 ドランが首をかしげる。

 ミレイユが測定板に映る波形を確認する。

「やっぱり……距離が歪んでる。

 哀の第一の罠、《沈歩ちんほ現象》よ」

「――ち◯ぽ?」

 ドランが素で聞き返した。

「ち・ん・ほ!! “沈む歩行”の略であって、変な意味じゃないわよ!!」

 アニスが全力でドランの頭を叩く。

「いってぇ!!」

「下ネタ出すんじゃない!!」

 緊張しきった空気が一瞬だけ緩む。

 ミレイユはため息をつき、説明を続ける。

 

「《沈歩現象》は哀の領域の基本構造よ」

 ミレイユが倒木の陰影を指差す。

「この森は、心のテンポが落ちると“歩みが沈んで”、

 前へ進んだ分だけ後ろへ引き戻されるの」

「じゃあ……どうすれば……?」

 フィンが不安げに問う。

「方法は簡単。

 “歩幅とリズムを一定に保つこと”。

 意識してテンポを崩さないように歩くのよ」

「テンポ……」

 ミレイユが説明を続ける。

「心の沈みがリズムを崩す原因になるから、

 気を散らさず、一定の歩き方に集中するの。

 できれば“前へ進む理由”を意識し続ければ、より安定するわ」

「難しければ……嘘でもいいから“楽しい”って言い続けるのね」

 アニスがため息をつきながら言った。

「楽しい……?」

 ドランが膝を叩いて笑った。

「俺、もう楽しすぎて膝が笑ってらあ!

 ほらほら、楽しいぞ!」

「その“笑う”楽しさじゃないわよ!!」

 アニスがドランの頭を再び叩く。

 フィンは、不安を押し殺して笑った。

「でも……笑ってる方が……確かに前に進める気がする……」

 

「よし、全員テンポをそろえるぞ」

 グレンが先頭に立つ。

「歩幅はこれぐらいだ」

「テンポは……こう」

「足音を一定に……」

 全員が真剣に歩調を揃え始めた。

 ボビンも静かに頷く。

「守る……そのために前へ進む」

 その言葉が一行の緊張を締める。

 ルシアナも自分の胸に手を当てる。

(カケル……あなたなら簡単に沈むとは思わない。

 だけど……相手は四魄柱の哀よ。

 油断はできない)

 ミレイユが測定器を再度確認する。

「テンポ、安定してきたわ。

 歩行のブレがほとんどない。

 このまま進めば沈歩は突破できる」

「よし……行くか!」

 リュートが前を見据える。

 

 進んでいくほど、森の奥の色が抜けていく。

「これ……暗いんじゃなくて……」

 リュートが呟く。

「光が……沈んでるのか……?」

「そう」

 ミレイユが頷く。

「哀の領域は、“光”そのものを薄くする。

 視覚情報を減らし、心の動きを止めるためよ」

「そんな森……普通じゃねぇな……」

 ドランが斧を肩に担ぎながら言う。

「普通じゃないから四魄柱なんだよ」

 アニスが肩をすくめる。

 

「ぴゅ……!」

 ミュコが突然フィンの肩で鳴いた。

「どうしたの!?」

「ぴゅい……ぴゅい……

 (……カケル……ちかい……)」

 ミレイユが測定器を見る。

「沈降波長が一段深くなった。

 この先……“哀の核領域”ね」

「行こう」

 フィンは拳を握る。

「カケルさんが沈む前に……

 僕たちが行かないと!」

 その決意に、仲間たちが頷く。

 

 テンポを保ち、

 歩幅を揃え、

 意識を前へ向ける。

 足音だけが沈む森に響く。

 色が落ち、光が沈み、

 世界のすべてが“止まりかけている”ような場所へ――

 一行は、カケルを信じて進んでいった。

 ここから先が――

 哀の核心部だった。

読んでいただきありがとうございます。

沈歩ちんほ現象》……略し方に悪意を感じますが(笑)、アニスさんのツッコミのおかげで少し空気が緩みましたね。

「楽しむフリをしてでも前に進む」。

これは現実でも使えるライフハックかもしれません。

ドランさんの膝が笑うくだり、個人的に好きです。

次回、森の奥で衝撃の光景を目撃することになります。

お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
ドラン〜素で聞き返して、アニスに頭を叩かれたね。まあ、しょうがないね〜。シリアスな状況での和み? さてさて、光さえ沈む森の中を進む一行。「楽しむフリをしてでも前に進む」。カケルを信じて進む。がとっても…
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