第53話 狂編・成果報告 ― 封印の向こうから「出ません」宣言
ウェルダ熱帯林圏――
狂の封印地を後にしたカケル一行と《碧牙の矛》は、
森を抜けて街へ戻ってきた。
空は澄み渡り、風は爽やか。
狂の躁気が完全に消え、自然が落ち着きを取り戻している。
「……静かだなぁ」
フィンがしみじみと呟いた。
「躁気も……生き物の混乱も、全部収まったみたいです」
アニスが木々を見上げる。
「そりゃ、狂本人が“出ません”って泣きながら引きこもっちまったからな」
グレンが苦笑する。
ルシアナは深いため息をついた。
「……二度と封印石を遊び道具にしないでよね、カケル」
「オレじゃないぞ。石が勝手に暴走しただけだぞ?」
「暴走の原因は アンタの指先 でしょ!」
「まぁまぁまぁ」
カケルはいつもの調子で回避した。
◇
街へ戻ると、支部長ハリスが既に待っていた。
「帰ったか。……顔を見る限り、無事完遂したようだな」
「はい! 狂の躁気発生は完全に停止。
調査隊は全員救出済み、負傷者も軽症のみです!」
アニスが胸を張る。
「森の異常生態も収束しています。
猿の霊獣も正気に戻ってます」
リュートが補足した。
「何より、“狂”自体の動向が気がかりだが……
そちらはどうだ?」
問いに対し――
全員がそっとカケルを見る。
「……ん?」
カケルはとぼけた顔をする。
「カケル、説明して」
ルシアナの刺すような視線。
「いやぁ、その……なんて言うか……」
カケルは石をひょいと取り出し、机の上にちょん、と置く。
直後、石がブルッと震え、
空中にウィンドウが開いた。
『封印から出ません。
本気で出ません。
今後の連絡も一切ご遠慮ください。 狂』
…………沈黙。
ハリスの眉がぴくりと動く。
「……………は?」
「えーっと、つまり……
自主的ニート、いや……封印ひきこもり状態です」
カケルが説明する。
「何があったら四魄柱が引きこもるのよ!!」
ルシアナが机を叩く。
「聖剣を額に押し当てて……えげつなかったな」
ドランが半目になる。
「いやいや! あいつ自分から封印に戻ったし!」
カケルは慌てて手を振る。
「戻りながら泣いてたよね……」
フィンが小声で突っ込む。
それでもハリスは目を閉じ、深く呼吸し——
「結果として……
躁気は止まり、森は救われ、調査隊も救出。
《狂》の活動停止は事実だ。
ギルドとしては“任務達成”と認定する」
「やった……!」
アニスが安堵の息を吐いた。
「ただし」
ハリスはカケルを指差した。
「カケル。
封印石で遊ぶな。
分かったか」
「うっ……は、はい」
「声が小さい」
「は、はい!!」
「良し」
ハリスは満足げに頷いた。
◇
ギルドを出ると、南方の街から使者が来ていた。
「皆さま……本当に、森を救ってくださりありがとうございました!」
「村も町も、被害は最小で済みました……!」
「料理や物資をお持ちいたしました!
どうぞ遠慮なく……!」
次々に渡される土産袋。
「わぁぁ……こんなに……」
フィンが目を輝かせる。
「暫く食材には困らないな……」
ボビンも静かに頷く。
《感情発生:喜び・感謝200,000ルーメ》
ルシアナが小声でつぶやく。
「……この世界の“感情”って、いいわね」
その声は柔らかく、どこか嬉しそうだった。
◇
その夜。
ウェルダ熱帯林の奥深く。
薄い影の姿――
スルヴァは大木にもたれかかって震えていた。
(……あの四魄柱《狂》が……
封印に怯えて引きこもるだと……?
何が……どうして……こうなった……?)
震える影の中で、ぽつりと呟く。
(“人間ごとき”が……四魄柱を……恐怖させる……?
これは……想定外どころの話じゃ……)
スルヴァは顔を上げる。
(……だが、残り二つ。
哀……そして妬……
こればかりは……
人間に扱える相手ではない……)
影は静かに闇に溶けていった。
「……次は《哀》。
封印は……もうすぐ解かれる……
私が動く必要もなく、
人間どもは恐怖に染まる……」
その声は、森の奥で風に消えた。
ご覧いただきありがとうございます!
これにて第3章「南方・狂編」、完結です!
ハリス支部長も困惑の報告会でしたが、無事に任務達成ということで 。
カケルたちの冒険はまだまだ続きます。
スルヴァの言葉通り、次は《哀》、そして《妬》。
さらに手強い(?)相手が待っているはずです。
引き続き、第4章でも応援よろしくお願いいたします!




