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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第5話 ミュコ、怒りのぷるぷる制裁

 翌日のリベリス。

 空は快晴、広場は人であふれ返っていた。

 昨日の邪竜討伐のニュースは、町の端から端までを熱狂させていた。

「英雄グレンに万歳!」

「若き勇者よ、ありがとう!」

「神は見捨てなかったんだ!」

 広場中央の壇上に立つグレン・アルファードは、顔を真っ赤にして頭を下げていた。

 人々の拍手と歓声が渦を巻くように広がっていく。

 その人波の少し後ろ――パン屋の軒先の影に腰を下ろし、焼きたてを頬張る男が一人。

 カケルだった。

「……うん、これは満額カウントだよな」

「え?」とルシアナが振り向く。

「だって、きっかけは俺だ。グレンが剣を取ったのも、“偶然の導き”のおかげだからな」

 ウィンドウが光を帯びた。

《感情発生:熱狂1,500,000 ルーメ》

「おぉぉ……」ルシアナが息をのむ。

「これが“偶然”の力ですか」

「人の縁ってのは、貸し借りがあってこそ動くんだよ」

 パンをちぎりながらカケルが笑った。

 その時、馬車の車輪が石畳を叩く音が響いた。

 人々が道を開け、黒いマントを羽織った男が現れる。

 ――領主代理、ダリウス・バルドン。

「おお、領主代理様だ!」

「表彰だ!」

 期待の声が上がる。

 壇上に上がったダリウスは、両手を広げて演説を始めた。

「見事だ、グレン・アルファード! 

 前へ。

 お前の勇気は領民すべての誇りだ!」

 群衆が沸き立つ。拍手と歓声が大地を震わせるほどだ。

《感情発生:興奮1,500,000 ルーメ》

 恥ずかしそうに、グレンが前へ出てくる。

 だが、ダリウスの口元がゆっくりと歪む。

「――そして、その“神の剣”は、領の至宝として厳重に保管する!」

 歓声が止まり、広場に冷たい風が流れた。

「え?」

「保管って……奪うのか?」

「まさか……」

 グレンが目を見開く。

「待ってください! 俺はただ――」

「若造が神の武器を振るうなど危険だ。責任ある大人が預かる。それが秩序だ」

 ダリウスの声が響いた瞬間、群衆の空気が一変する。

《感情発生:悲しみ・怒り750,000 ルーメ》

「ふむ、悲しみと怒りの混合……複雑な味だな」

「感情を料理みたいに言わないでください!」

 兵士たちが、グレンから剣を取り上げダリウスに渡す。

 ダリウスは勝ち誇ったようにそれを掲げた。

「これでよし。神の力は我が手に――」

 カケルは静かに立ち上がり、手を打った。

「――ミュコ、出番だ」

「ぷに♪」

 ミュコの体が光を帯び、広場の石畳を滑るように進む。

 透明な体が急激に膨れ上がり、ダリウスの背後へ――。

「む? なんだこれは――ぐわぁぁぁっ!」

 次の瞬間、ダリウスが頭部を残して全身をスライムに包み込まれた。

 ずるり、と完全捕食。

 剣はその場に落とされる。

「ひぃぃぃ! 熱い! や、やめろぉぉぉっ!」

 マントが泡立ち、服が溶けていく。

 護衛が二人剣を抜いて飛び込むが、そのまま、まとめて吸収。

「ぎゃああああ! 武器が、鎧が溶けるぅぅぅ!」

「服までぇぇぇ!」

 ぷるん、と音を立てて、二人とも全裸で吐き出された。

 広場に笑いと悲鳴が交錯する。

「英雄祭が……まさかの喜劇に……!」

「いや、神罰だろこれ!」

 ウィンドウが浮かぶ。

《感情発生:笑い・驚愕1,500,000 ルーメ》

「よし、いいぞミュコ。バランス調整完璧だ」

「やっぱりあなた、指示してたんですね!」

 ミュコは得意げにぷるぷる震える。

 ダリウスは顔だけは外に出しているもののスライムの中でもがき、情けない声を上げた。

「グレン! 助けろ! 英雄であるお前の義務だろう!」

 グレンは冷静に腕を組んだ。

「武器を取り上げられてしまって、どうにもなりません」

「ぐぬぬぬぬ……わ、分かった! 剣はお前の物でいい! だから助けてくれぇぇ!」

 側近が慌ててダリウスの落とした剣を拾い、グレンに差し出す。

「これを!」

 グレンが剣を構えた瞬間、ミュコが小さく震え、怯えたようにダリウスを吐き出す。

 ずぶ濡れ、服はほぼ溶け落ち、かろうじて布切れ一枚。

 観衆の笑いと拍手が巻き起こる。

《感情発生:安堵・正義の回復750,000 ルーメ》

 カケルが軽く頷く。

「……帳簿、きれいに収まったな」

「あなたの感情処理の言い方、ちょっと酷いです」

「褒め言葉として受け取っとく」

 ダリウスは震える足で立ち上がり、怒りに歪んだ顔を上げた。

「この町の者ども――覚えておけぇぇぇっ!」

 怒号を残して、側近に布をかけられ、恥ずかしそうに走り去る。

 その姿を見送りながら、カケルがぽつりと呟いた。

「……ああいうのは、あとで自滅するタイプだな」

「どうして分かるんです?」

「プライドが借金と同じで、利子がついて膨らむんだよ」

 ミュコがカケルの肩に跳び乗り、満足げにぷにっと鳴く。

「期待通りの良い仕事だったな、ミュコ」

「ぷに♪」

 夕陽に照らされ、スライムの体が淡く光った。

 カケルは空を見上げて微笑む。

「英雄が一人、悪党が一人、裸で反省?

 ――まぁ、世界のバランスってのは案外、偶然が取ってくれるもんだ」

明日も投稿します。

恨みを募らせたダリウスは、案の定やらかします。

町の運命は・・・。

お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
そうそう、いるよね〜こういう小悪党、きっちり制裁されて良かった✕2。でも、やらかしに来るんですね〜。制裁パート2?が楽しみです。 ミュコちゃん、可愛いなぁ。ルシアナちゃん負けるな! たまには、ルシアナ…
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